「スタートアップ」のプレゼンスは高まる一方⁉
当然ながら、一口に中小企業といっても規模、業歴、業種など様々な属性に分けることができます。しかしながら、これまでの連載においては、すべての中小企業を一緒くたにして述べてきました。それはいささか乱暴な面もあり、違和感を抱くケースもままあったかと思います。
そこで、今回から一定の期間においては、焦点を敢えて偏らせて、ある特定の属性に当てはまる中小企業に焦点を当てて、対比的構造を浮き彫りにしながらお話を進めていきたいと思います。それは、中小企業の中でも両極に位置して接点がほとんどない「スタートアップ」と「老舗」です。
スタートアップについて確定的な定義はないものの、一般的は次のようなイメージと捉えてもらって間違いないでしょう。 「創業より日の浅い未公開企業であり、ユニークなテクノロジーや製品・サービス、ビジネスモデルをもち、事業成⻑のための投資を⾏い、事業成⻑拡⼤に取り組んでいる企業。または、これまでの世界(⽣活、社会、経済モデル、テクノロジーなど)を覆し、新たな世界への変⾰にチャレンジする企業」(出所:(株)ジャパンベンチャーリサーチによるスタートアップの定義を一部改変)。
老舗についても確定的な定義はありませんが、ここでは「中小企業庁が定義する中小企業全体からスタートアップを除いた企業群のなかで、「業歴30年を超えた企業」(出所:全国「老舗企業」調査 (株)東京商工リサーチ」」と定義したいと思います。
直感的に理解できると思いますが、老舗はよくいわれる事業承継問題に頭を悩ましている企業も多く、あまりいいニュースが聞こえてこない気がします。これからもその可能性は高いといえるかもしれません。一方で、ここ10年程度はスタートアップの元気の良さが際立っており、IT化の急速な進行など外部環境の変化により社会経済におけるプレゼンスは強くなる一方です。
さて、このスタートアップの相対的優位性はどこから生じているのでしょうか?そこで、ここでは両極をなすスタートアップと老舗の間の相違点を可能な限り列挙して、全体を俯瞰して見てみましょう。
老舗から見てスタートアップは「鎖国時代の外国人」
想定どおり、スタートアップと老舗はいずれも中小企業であるにもかかわらず、いろいろな面で違いが浮き彫りになっています。そして、両者の相違点を見てみると、全体的な印象として、どう見ても外から見た魅力という面ではスタートアップが老舗を凌駕しているといわざるを得ません(図表において、特に魅力的と感じられる箇所については下線で示しています)※。
※ これは次回以降において解説しますが、大企業によるスタートアップのM&Aが継続して増加基調にあるという事実に反映されているものといえましょう。
スタートアップ万歳! とまでいうつもりはありません。ただ、老舗から見てあまりにも距離がありすぎように感じます。見て見ぬ振りをするのではなく、その距離をある程度詰め、競合、あるいは連携先の候補としてしっかりと認識しておく必要があるのではないでしょうか?
確かに、老舗から見てスタートアップは「鎖国時代の外国人」に見えるかもしれません。海外のスタートアップに目を向けると、例えばイスラエルやシリコンバレーのスタートアップの方が、日本のスタートアップよりもさらにパワフルで熱量が高いといわれています。したがって、イスラエルやシリコンバレーのスタートアップはもはや地球外生物の領域という感じかもしれません。
だからといって、いつ何時、鎖国時代が終わるのかわからないから気にしない。または、いつ何時、未確認飛行物体が地球に舞い降りるのかわからないから気にしない、というような「無邪気な態度」は、現在のような激動の世の中では非常に危険です。
さて、今回は頭出しということでここで止めさせてもらいます。次週以降、今回お伝えした相違点をベースに、スタートアップと老舗、そしてそこに大企業を絡ませながら、両者の違いからどのような事実が発生しているのか(特に大企業とスタートアップとのM&Aにおいて大きなムーブメントが発生しています)? そして、これから老舗はどのように振る舞って行くべきなのか、といった点について話を展開させつつ、今後の中小企業の事業展開のヒントを探ります。