不動産投資や賃貸経営において、目先の利益や断片的な情報に振り回され、適切な投資判断やシミュレーションなどの分析ができずに失敗するケースが多く見られます。本記事では、ベストプラン株式会社代表取締役・豊田剛士氏の著書、『徹底分析! 不動産投資・賃貸経営の成功戦略』(合同フォレスト)から一部を抜粋・編集し、数字等を分析しながら、不動産投資で行う資産形成を成功させるための基礎知識を解説します。

所得税の納付税額の算出方法

今から、分析に関して、損益計算書(P/L)の考え方を中心に説明していきますが、個人の所得税の仕組みも知っておく必要があるので説明します。

 

[図表1]は、個人の所得税を計算するフローチャートです。

 

[図表1]
[図表1]

 

個人の所得税は、

 

①各種所得の金額の計算

②課税標準の計算

③課税所得金額の計算

④納付税額の計算

 

の4つの段階を経て計算されます。具体的には次のとおりです。

 

①各種所得の金額の計算段階で、大きく分けて2つの課税の方法―総合課税と分離課税―に分類されます。

 

②課税標準の計算段階で、総合課税の一定の赤字の所得は黒字の所得と相殺されます。このことを損益通算といいます。総所得金額から所得控除額を引きます。

 

③課税所得金額の計算段階で税率をかけます。税率に関しては[図表2]をご覧ください。税率をかけて出た税金の合計が算出税額というもので、算出税額から税額控除額を引いたものが納付する所得税の額となります。

 

④算出税額から税額控除を引き、納付税額を出します。

 

[図表2]
[図表2]

個人の所得税率より法人の法人税率のほうが低い⁉

では、「不動産投資の税金はどこに関係するか」について考えてみましょう。

 

所得税は収入に対して課税されます。不動産の収入は、家賃収入などによる所得のインカムゲイン(ロス)と売却(譲渡)による所得のキャピタルゲイン(ロス)の2つです。各種所得の金額の計算の段階で、家賃収入などのインカムゲイン(ロス)は不動産所得、売却(譲渡)による所得のキャピタルゲイン(ロス)は分離短期譲渡所得、もしくは分離長期譲渡所得にそれぞれ分類されます。

 

家賃収入などのインカムゲイン(ロス)の不動産所得は他の所得などと損益を通算して課税されます。超過累進課税なので、所得が増えれば増えるほど、税率が上がっていきます。不動産を所有するのに資産管理法人を使うメリットの一つは、一定の所得(一つの目安としては900万円)を超えると、個人の所得税率より法人の法人税率のほうが低いからです。

 

売却(譲渡)による所得のキャピタルゲイン(ロス)は、分離短期譲渡所得と分離長期譲渡所得に分類されますが、不動産を売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば分離長期譲渡所得、超えていなければ分離短期譲渡所得となります。

 

[図表2]では、短期譲渡所得が税率30%、長期譲渡所得が15%とありますが、これは所得税の税率です。住民税は、短期譲渡所得は9%、長期譲渡所得は5%なので、合計すると短期譲渡所得が39%、長期譲渡所得が20%となります(平成25年〜令和元年までは、別途各年分の基準所得税額に2.1%の復興所得税がかかります)。そのため、不動産を短期で売却する方も法人のほうが税率が低いため、資産管理法人を使うことで節税になるケースがあります。

一番重要なのは「純資産」がいくらあるのか

貸借対照表(B/S:balance sheet)は、一時点におけるプラスの資産からマイナスの負債を差し引き、残った部分を純資産とする表です。簡単にいうと、現金だけでなく、有価証券(株や投資信託など)や生命保険、不動産、収益不動産の融資や住宅ローンなどの財産全体が財布の中に入っていて、そこから支払う予定や返す予定のあるお金を引いて、実際にいくら残っているのかということを表しています。

 

[図表3]が貸借対照表(B/S)の勘定科目です。現金、預金、有価証券、不動産などが資産の項目に、借入などが負債の項目にあります。そして、資産から負債を引いたものが純資産になります。[図表3]では細かく、文字情報なので分かりづらいと思います。

 

[図表3]
[図表3]

 

そこで、貸借対照表(B/S)を見てみましょう。[図表4]をご覧ください。プラスの資産を大きく分けて流動資産と固定資産の2つにして負債と純資産の関係を図にしました。プラスの資産とマイナスの負債に純資産を足したものが同じ大きさになります。流動資産とは現金、預金、有価証券などの現金化しやすい財産。固定資産は、現金化しにくい不動産などが当てはまります。

 

[図表4]
[図表4]

 

貸借対照表(B/S)は、このようにビジュアルで捉えるとイメージがしやすいです。資産を持つというと不動産という実物を想像する方が多いですが、財産全部を数字で考えた時には、純資産がいくらあるのかという数字が重要であって、純資産の構成要素には不動産という項目はありません。

 

そのような観点で考えてみると、不動産を買うことを「資産を買う」という表現をする方がいますが、資産の中の流動資産の現金という項目から、固定資産の不動産に数字が移り、現金で足りなかった部分に借入をして数字が増えているので純資産は増えるわけではありません。むしろ不動産を相場通りに購入した場合は、諸費用分だけ純資産は減ります。

 

不動産は資産形成をする上で有利な資産ですが、財務諸表が分かっていれば、購入する場合は諸費用というコストをその後のキャッシュフローと売却の損益で回収するから純資産が殖えるというモデルの投資であることが明確に分かります。

 

[図表3]に戻りますが、左側の資産を上からご覧いただくと、現金化しやすい順番に並んでいることが分かります。負債と純資産は、上から資金調達しやすい順番に並んでいます。キャッシングより、不動産を購入する際に長期の借入をするほうが難しくて、さらに自分の個人資産を事業用の資産に注ぎ込むのも限界があるとイメージしていただくと良いでしょう。

 

この貸借対照表(B/S)を見る時に金融機関やコンサルタントがどのような順番で見るかご存知でしょうか。金融機関やコンサルタントは、右下の純資産から上に見て、負債を見終わってから資産を見ます。一番重要なのは、資産や負債ではなく、純資産がいくらあるのかということだからです。左側の資産は運用を表し、右側の負債と純資産は調達を表しています。右下の純資産で本当に持っている資産はいくらかを確認するとともに、負債と純資産でどれだけの額を調達していて、左側の資産でどのような内容で運用しているのかを見ています。

 

多くの方が、左側の不動産の額や棟数、戸数を気にしますが、左側は運用している種類を表しているだけで、本当にいくらあるのかを表しているのはあくまで純資産だということに注意が必要です。

 

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豊田 剛士

合同フォレスト

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