「働き方改革」の目的を履き違えた企業の「本末転倒」な実態

中小企業の人手不足が深刻化しています。2018年上半期における「人手不足倒産」の件数は3年連続で前年同期を上回り、2013年1月の調査開始以降の半期ベースでも最多を記録しました。中小企業が生き残るためには、まずは冷静に問題点を分析することが求められます。そこで本記事では、菓子卸・流通業でナンバーワンの利益率、在庫回転率、返品率の低さを実現した株式会社吉寿屋の神吉武司氏が、中小企業の問題点について解説します。

パフォーマンスの向上に成功している企業はごく僅か

新たな人材を採用するのが難しく、定着しないので育成もままならない──。この負の連鎖を断ち切るためにも、今いる社員のパフォーマンスを引き上げて仕事の効率を高めていくことが重要です。

 

しかし、日本企業の労働生産性が世界各国と比較しても低いというのはよく知られた話で、OECD(経済協力開発機構)のデータによると、日本の時間あたりの労働生産性(就業1時間当たりの付加価値)はアメリカの3分の2の水準に留まり、OECD加盟35カ国中20位でした(2016年度)。主要先進7カ国で見ると、データが取得可能な1970年以降、日本は最下位の状況が続いています。

 

日本政府はこの不名誉な状況を改善するべく「働き方改革」を打ち出し、労働生産性の向上に向けて国を挙げて動き始めました。中小企業の業務改善の取り組み状況を見る限り、それなりの効果は出ているようです[図表1]。

 

出所:中小企業庁「中小企業白書」(2018年版)より
[図表1]業務見直しの取り組み状況 出所:中小企業庁「中小企業白書」(2018年版)より

 

しかし実際には、労働生産性を高めるために社員のパフォーマンスを引き上げようとしても、なかなか思うように効果が出ていない中小企業が少なくないようです。

理由① 利益還元の目的と手段をはき違えている

社員のパフォーマンスを高めるインセンティブ(目標達成に向けた動機付け)としてよく利用されるのは「賞与」でしょう。期末に税理士と確定申告の打ち合わせをした際、思った以上に利益が出ているのが分かると、決算賞与を支給することがあるはずです。決算までに社員に支給額を通知し、実際に支給することができれば全額損金計上が可能なので、税理士から勧められることもあるでしょう。

 

このように確定した利益の一部を還元する取り組み自体は有意義だと思いますが、問題は“その目的”が何かということです。仮に目的が節税だった場合、社員に報いるのは「手段」になってしまいます。

 

利益が出ない年は税金対策の必要はないわけですから、手段である決算賞与やご褒美も必要ないことになります。それでは何のための利益還元なのか、本来の目的が見失われてしまいかねません。

 

本来の目的とは、社員を幸せにすることであり、そのための手段として決算賞与や報奨を渡すべきなのです。この目的に照らして考えれば、利益が出れば賞与を出し、出なければ渡さないという選択にはなりません。たとえ赤字になっても、社員に対する経営者の感謝の気持ちや誠意を見せる努力が大切なのです。賞与や報奨の金額の過多は関係ありません。社員に幸せになってほしいと願う経営者の思いが社員に伝わり、組織が一つになっていきます。

 

この目的と手段をはき違えている限り、インセンティブで社員のやる気や能力を引き出すことはできないと心得てください。

理由② 劇的な変化で現場が混乱している

仕事の効率化を目的に仕組みやルールを設けたものの、かえって現場を混乱させてしまうケースもあるようです。よく耳にするのは残業禁止や強制一斉退社、休日出勤禁止といった労働時間の物理的な制約です。

 

非効率な働き方を改善するためには、時に荒療治も必要となるでしょう。しかし働く時間を無理やり制限するだけで、肝心の業務の見直しを同時に行わなければ根本的な問題は解決しません。それどころか、社員は勤務時間内に仕事が終わらず、自宅に持ち帰って対応せざるを得なくなるでしょう。それでは仕事の効率化には何の役にも立っていないばかりか、社員にとっては残業代を請求できずに収入が減るという、新たな問題が出てきてしまいます。

 

もちろん、業務プロセスの見直しを同時並行で行うことができれば、労働時間の制限は有効ではあるといえます。ですが中小企業白書の調査結果にもあるように、「業務に追われ、業務見直しの時間が取れない」企業が多いのが実態です[図表2]。

 

出所:中小企業庁「中小企業白書」(2018年版)より
[図表2]業務見直しを行うにあたっての課題 出所:中小企業庁「中小企業白書」(2018年版)より

 

さらに「業務見直しの取り組みを主導できる人材が社内にいない」企業も少なくないことから、現場の実態にそぐわない仕組みやルールだけが一人歩きしてしまうのかもしれません。労働生産性という名の下に現場の負担を強め、離職を招いてしまうのであれば本末転倒です。

理由③ パートやアルバイトを大切にしていない

正社員の採用が難しい場合、パートやアルバイトを増やして仕事を回している企業も多く見られます。しかし、基本的にはこうした雇用形態の場合、時間給で賞与は付かないという契約が一般的です。

 

それなのに、パートやアルバイトに正社員と同じような仕事を任せ、残業まで強いている会社があります。すると、パートやアルバイトのスタッフは、「なぜ社員と同じ仕事をしているのに待遇や立場が違うんだ」と不満を持ち、やる気を失ってしまいます。

 

会社のために一生懸命に働いてくれた人の幸せを願い、利益を十分に還元してこそ、一人ひとりがやる気を持って働いてくれるようになります。正社員であれ、パートやアルバイトスタッフであれ、自社のために働いてくれる人を軽視するような会社に、良い人材は集まりません。

理由④ 「言葉」でしか褒めていない

社員のやる気を引き出し、パフォーマンスを発揮してもらうためには相応の仕掛け、インセンティブ(動機づけ)が不可欠です。

 

外部から働きかける方法として「褒める」「報奨を与える」の二つがあります。会社のために働いてくれている社員に対して感謝の声掛けをしたり、報奨を出したりして努力を労(ねぎら)うのです。すると社員は「自分の存在が認められた」と自己肯定感を高め、さらに意欲的に仕事と向き合い、成果を出してくれるでしょう。

 

褒める、報奨を与えるという二つはやる気とパフォーマンスを引き上げる際に大切ですが、どちらか一方だけでは不十分というのが私の考えです。特に利益還元の重要性を認識していない経営者の場合、言葉による声掛けだけに終始し、報奨で労うことをおろそかにしているように感じます。

 

人間である以上、何らかの対価を求めるのは当然の心理ですから、その期待に応えてあげるのが大切です。まして会社の利益は社員の努力の賜物です。その一部を社員に報奨として還元し、喜んでもらうのは経営者として当然の務めだと思うのです。

理由⑤ 整理・整頓ができていない

一見すると関係ないように思いますが、仕事のパフォーマンスと整理・整頓は密接にリンクしています。

 

当社では5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の一環で机の引き出しの整理・整頓にも気を配ってきました。引き出しを整理すれば作業の無駄がなくなり、仕事の効率が良くなっていきます。そのほか、工場内の5Sや倉庫管理などにも力を入れるなどして効率経営を突き詰めた結果、全国トップクラスの経常利益率を達成して長年維持してきました。

 

反対に整理・整頓や掃除が行き届かず、散らかって汚れた職場では仕事の効率は上がりません。例えば不良在庫が積み上がり、ゴミだらけの倉庫現場で入出荷作業をスムーズに行うことはできないでしょう。

 

大切なのは、日々の掃除や整理・整頓をこまめに行い、社員一人ひとりが1円、1秒単位の無駄を取り除いていくこと。その小さな積み重ねができない限りは、組織全体のパフォーマンスを引き出すことは難しいと言えます。社員のやる気と能力を一気に引き上げる魔法の杖はないのです。

株式会社吉寿屋 相談役

1941年徳島県生まれ。1964年に大阪にて菓子卸・流通業の商社を創業。その後、小売に進出し「お菓子のデパートよしや」を展開。手頃な値段で気軽にお菓子を買える店として人気を集める。早朝出勤やトイレ掃除、倹約の徹底などユニークな方針を打ち出し、自ら率先して実行。社員教育や福利厚生の充実にも注力し、1998年には業界ナンバーワンの利益率、在庫回転率、返品率の低さを実現した。2018年現在は関西地区を始め、愛知県、岡山県、福井県、岐阜県にも販路を拡大し、直営店38店舗、FC契約60店舗の約100舗で年間1億5000万個の菓子を販売。年間売上は120億円に上る。1998年には代表取締役の職を退き、会長に就任。2016年より相談役となる。

著者紹介

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神吉 武司

幻冬舎メディアコンサルティング

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