外国語はある一定の年齢を過ぎると、その後上達しなくなる「臨界期」というものがあると考えられています。それを迎える前の幼児期のうちに、しっかりと英語のネイティブスピーカーの発音に触れ、聞き取る力を鍛えるとともに、ネイティブスピーカーに近い発音を身につけることが大切です。それによって、正確な英語の聞き取りだけでなく、正確な情報伝達が可能になるからです。本記事では、幼児英語教育研究家の著者が、英語の正確な聞き取りと発音の重要性を解説します。

ヒアリング力は、言語にまつわるあらゆる力の土台

ヒアリング力は、「スピーキング」「ライティング」「リーディング」など、言語にまつわるあらゆる力の土台です。正しい発音を聞き取れるようになると、自然と英語を発するようになっていきます。それを裏付けるようなエピソードがあります。私は、娘がお腹の中にいるときから英語の歌を流しっぱなしにしていたり、気分転換で見る海外ドラマは英語で視聴していました。生まれてからは、私から英語で話しかけたりすることは特になく、夫は英語が苦手なので、家の中での会話はもっぱら日本語でした。

 

しかし、娘はCD付きの英語絵本や英語のテレビをよく見ていたので、ものや動物の名前は、最初から英語で覚えていました。英語も日本語も発語は遅いほうでしたが、15カ月のころ、娘が最初に口にした言葉は「Up」でした。「高い高い」を英語で「Up」というのを、どこかで耳にして覚えていたのです。

 

また、1歳半健診のとき、健診所の係の人が動物の絵を見せて「これは何?」と聞くと、娘の口から出てきたのは「dog」でした。娘にとってイヌは最初からdogだったのです。

 

絵や動画を見ながら大量の英語をインプットすると、いつしか頭の中で見たものとそれを表す音が結びつき、「イヌ=dog」と一語一語翻訳するのではなく、イヌのイメージがそのままdogという音として定着します。すると、自分が言葉を発するときにも、イヌを見ると反射的にdogと出てくるようになります。成長してから、単語集を見ながら一つずつ一生懸命覚えようとしても、なかなか身につきませんが、生まれる前から大量の英語に接していれば、半ば自動的に英語の言葉を発するようになるのです。

 

子どもの耳は1歳2カ月ころまでに母語を優先して聞き分けるようになりますが、聞いた音を自然に話す能力にも、年齢による限界があるとされています。外国語はある一定の年齢を過ぎると、その後上達しなくなる「臨界期」というものがあると考えられています。その能力は6〜15歳くらいまでと大きなばらつきがありますが、一定以上の年齢になると、聞いた外国語をそのまま同じ音で発音することができなくなるというのは確かなようです。

 

例えば、英語のCDを聞き、後について発音してみるという練習法がありますが、大人になってからその練習を始めた人は、「ネイティブと同じ発音で話せるようにはならない」と感じたことがあるのではないでしょうか。逆に、幼い子どもであれば特に意識しなくても、ネイティブそっくりのきれいな発音で話すことができるようになるのです。

 

「英語耳」をつくるのが早ければ早いほうがいいのと同じように、「英語口」をつくる場合にも、子どもが伝えたいことを言葉で発することができるようになる年齢に合わせ、早めに始めたほうがいいでしょう。まず英語耳をしっかりつくっておくこと。そして日々大量の英語に触れるような環境をつくっておくこと。そうすると、子どもは自らの力で自然に英語の言葉を口から出すようになります。

ネイティブの声を聞いて英語を身につけると…

ネイティブの声を聞いて英語を身につけると、子どもの発音も必然的にネイティブに近いものになります。大人になってから英語を身につけた人の中には、「多少発音が悪くても通じる」「ネイティブのように話す必要はない」という人もいます。確かにそれは事実ですが、ネイティブに近いきれいな発音で話す英語は、「相手にとってわかりやすい英語」となります。

 

今はインターネットで海外の講師と話をする「オンライン英会話レッスン」が盛んになり、ネイティブ講師と30分、1時間と、毎日でも容易に話をすることができるようになりました。しかし、そのように学習していても、20歳を過ぎた大人の日本人の発音は、なかなかネイティブに近いものにはなりません。有名な例として、「日本人はlとrの区別ができない」という話があります。よくlice(ノミ)とrice(米)の例が引き合いに出されますが、lとrの違いで、異なる意味になってしまうこともあるのです。

 

「そうはいっても自分の話は通じている」と思う人もいるかもしれませんが、英会話レッスンの講師や日本在住の外国人、日本企業と取引している外国人ビジネスパーソンは、「日本人の話す英語だから多少発音が違っていても仕方がない」と、細かいミスを指摘せず、lとrの間違いを見過ごしてしまっている可能性があります。実際は「今のはrainではなくlainという音になっていた」と、心の中で思っているかもしれません。

 

日本人は、sとsh、thの区別も苦手です。細かい違いのように思えるかもしれませんが、sとthを区別できないのは、日本語でいうと「シ」と「ツ」の区別ができないのと同じようなものです。think(考える)がsink(沈む)という音になってしまい、I think ...(私は…と思う)をI sink ...(私は…を沈める)と言ってしまっている場合、果たして聞いている相手はどう思うでしょうか。

 

sとshは日本語でいうと両方「ス」の音になってしまい、やはり区別できない人が多いようです。例えばsit(座る[sít])とshit(大便をする[ʃít])を混同し、Please sit down.(座ってください)をPlease shit down.などと言ったら、大変なことになってしまいます。また、[sí:]と発音するアルファベットのcやsee(見る)、sea(海)と、she([ʃíː]と発音)とはまったく別の音です。これは基本中の基本となる単語なので、必ず区別するようにしてください。昔はすべて[ʃíː]と発音する人が多かったのですが、最近は逆にすべて[si:]と発音する若者が増えています。

 

大人になってから正しい発音が身につかないのは、本人のせいばかりではないかもしれません。学校の日本人の先生は文法や読解の説明をすることに長けているかもしれませんが、バイリンガルでもないかぎり、その発音はやはりカタカナ英語に近いものです。また、教室ではネイティブのような発音をするとからかわれるので、あえてカタカナ風に話すという子どももいます。成長してから学校で正しい発音を身につけることは、あまり期待できません。

 

学校では発音を気にせずに勉強し、社会に出てからいざ外国人と会話をするとなると、やはり自分の発音が気になり、文法や話の内容に注意が行き届かなくなってしまうものです。子どものころに正確な発音を自然に身につけておけば、大人になってから会話で苦労をする心配がありません。

 

 

三幣 真理

幼児英語教育研究家

 

バイリンガルは5歳までにつくられる

バイリンガルは5歳までにつくられる

三幣 真理

幻冬舎メディアコンサルティング

グローバル化が叫ばれている昨今、世間では英語力が問われる風潮になりつつありますが、日本の英語力は依然として低いまま。 学校での英語教育も戦後間もない頃からのスタイルとほとんど変わらないのが現状です。 そのためか…

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