大家さんの認知症対策…「家族を巻き込む」ことが重要なワケ

人生100年時代といわれ、相続対策の前から被相続人となる親や祖父母の認知症リスクが高まる中、賃貸不動産等の承継においてどのような対策を実施するのが有効なのでしょうか。本記事では、認知症大家対策アドバイザー岡田文徳氏の著書、『大家さんのための家族信託®』(プラチナ出版)から一部を抜粋し、著者自身で実践し体験した、令和時代にふさわしい賃貸業の承継策を紹介します。

家族信託の目的は、財産を管理すること

大家さんにとって、認知症対策において、家族信託を用いた場合と用いない場合では大きな違いが出てきます。認知症に関わる法律部分を確認してみたいと思います。

 

家族信託を用いた場合と用いない場合では、関係する法律が異なります。家族信託を用いた場合は、信託法になります。一方で、家族信託を用いない場合には、民法になります。これは、大きな違いです。

 

民法は一般法であり、信託法は特別法です。一般法と特別法では、特別法が優先されます。特別法の定めや矛盾しない範囲で一般法の規定が適用されます。2006年に信託法が改正されてから10数年しか経過しておりません。民法の範囲と信託法の範囲で裁判が起きたこともほとんどありません。今後、民法の範囲と信託法の範囲で裁判がおきた時の判決を判例として、確認していくことは必要であると考えます。

 

認知症対策で家族信託を用いた場合にどうなるのか? 確認していきましょう!

 

家族信託の目的は、財産を管理することだけです。「財産の管理」といっても、財産の運用、処分といえるでしょう。そして、家族信託を組むためには、財産を所有している大家さんと不動産を含めた資産の管理を任せる人(多くの場合、子ども世代の家族)との間で信託契約を結ぶ必要があります。なぜなら、資産の管理を任せる人を大家さん本人が決めることができるからです。

 

大家さんが決めることができるということは、本当に大家さん本人が資産の管理を任せる人を決めたかどうかを証明する必要があります。

 

民法では契約自体は、契約関係となる両者が合意することによって、成立しますので、口頭でも成立します。大家さん本人が認知症になってしまってからでは、大家さんと資産の管理を任せる人との間で合意することができませんので、契約することはできません。なぜなら、大家さんが認知症であるということは、契約内容について判断することができない状態です。それでは、契約内容について、合意することはできません。そのため、認知症になってしまうと、契約を締結することができなくなります。これは、信託契約だけに限らず、すべての契約事項において、締結することができなくなることを意味します。

 

また、口頭では、「言った」「言わない」の問題になりかねません。ですから、信託契約の内容を契約書という形で残しておく必要があります。ただ、契約書を残せば良いというわけではありません。大家さんが資産の管理を任せる人と信託契約するときに、大家さん本人が認知症ではなかったことを証明する必要があります。

 

もし、信託契約を締結したときに大家さんが認知症であったのであれば、信託契約は無効になりかねません。ですから、信託契約を締結する時に大家さんが認知症でなかったことを証明しなければなりません。そのためには、公証役場において、公証人の先生の前で宣誓認証するか、公正証書として信託契約書を作成することによって、公証人の先生が信託契約を締結するときに大家さんが認知症でなかったことを証明することになります。

 

むしろ信託契約を締結するときに、大家さんが認知症でなかったことを公正証書で信託契約書を作成することによって、初めて信託契約が締結できると考えておいたほうが良いでしょう。

 

また、信託契約を行うと、不動産の所有権が名義と受益権という2種類に分離します。資産の管理を任せる人が名義を持つことになります。これについては、後ほどくわしく説明します。

家族信託を組む前に、家族で必ず話し合いを行う

大家さんとして、一番気になることとしては、相続税の節税対策や資産運用を行うことができるかどうかということでしょう。信託契約書の内容に不動産の運用、処分、その他資産の運用などを記載しておくことが必要となりますが、原則、相続税の節税対策や資産運用を行うことができると考えられます。ただし、借入れについては、気をつける必要があります。

 

大家さんが認知症になってしまった場合に、悪徳な訪問販売やオレオレ詐欺などに巻き込まれてしまった場合には、どうなるでしょうか?

 

大家さん本人であれば、取り消しすることが可能です(クーリングオフなどの条件はあります)。

 

一方で、資産の管理を任せる人には、取り消しすることができません。こればかりはどうしようもありません。しかし、資産の管理を任せる人に多くの資産を任せておけば、お金を増やすことができない、買ってもどうしようもない不動産、車、宝石など、高額な商品を購入させられる可能性は少なくなると考えられます。ただし、資産の管理を任せる人を、お金を増やすことができない、買ってもどうしようもない不動産、車、宝石など高額な商品を購入してしまうような人にすることは、論外ですよ!

 

家族信託を組むと裁判所から何か言われることはあるでしょうか?

 

原則として、裁判所から何か言われることはないと考えられます。絶対に何も言われないかというと、そういうわけでもありませんが。

 

たとえば、資産の管理を任せる人の他に大家さんに子どもが存在し、その子どもが家族信託を組んだことをまったく知らされていなかったとしたら、その子どもはどう思うでしょうか? なんか嫌ですよね! 信託契約を締結するときに大家さん本人が認知症であったと主張して、信託契約書が無効であると主張して訴訟を起こした場合には、裁判所が関与することがあるでしょう。

 

裁判所が関与することがないようにするためには、大家さんの家族で必ず話し合いを行いましょう! 大家さんの考え、気持ちを整理して、家族に伝えるとともに、家族の考え、気持ちを整理して、家族全員で話し合いを行うことが必要です。形の上で家族信託を行っても、中身と各関係者の想いが同じ方向性を向いていないと、家族信託を行っても、まったく意味がないことを覚えておきましょう!

認知症大家対策アドバイザー
株式会社ディメーテル代表取締役社長
日本不動産総合研究所研究員 

1985年東京生まれ、東京育ち。2010年東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻修士課程修了。2010年コニカミノルタオプト株式会社入社(現コニカミノルタ株式会社)。2016年株式会社ディメーテル設立。メーカーの研究員をしていたところ、会社の都合により望まない異動を命じられ、家業の大家業を引き継ぐ。そのころ祖父が90歳を超えて軽い認知症になり、入院した時に銀行口座からお金が下ろせないという経験から、両親と認知症対策を行うとともに、不動産の賃貸経営ノウハウや人脈も含めた資産承継の対策を行い、自身の経験をセミナー等で大家さんたちに発信し始め、のべ1000名以上の大家さんに認知症対策の重要性を伝えている。認知症対策の専門家としてテレビや専門雑誌からのインタビューや取材依頼も多い。

著者紹介

連載親や祖父母が突然認知症になる前に!大家のための「家族信託®」活用法

大家さんのための家族信託®

大家さんのための家族信託®

岡田 文徳

プラチナ出版

「家族信託」や「民事信託」に関する本はたくさん出ていますが、家族間の賃貸業の承継に特化した唯一書です!「なぜ大家さんにとって家族信託は有効なのか?」自分自身で実践し体験した著者が、令和時代にふさわしい賃貸業の承継…

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