大家さんの認知症対策…受託者が守るべき「信託契約」のルール

人生100年時代といわれ、相続対策の前から被相続人となる親や祖父母の認知症リスクが高まる中、賃貸不動産等の承継においてどのような対策を実施するのが有効なのでしょうか。本記事では、認知症大家対策アドバイザー岡田文徳氏の著書、『大家さんのための家族信託®』(プラチナ出版)から一部を抜粋し、著者自身で実践し体験した、令和時代にふさわしい賃貸業の承継策を紹介します。

家族信託は受託者が利益を得るためのものではない

ここで家族信託の基本的なルールを確認しましょう。

 

【家族信託の基本的なルール】

①財産の管理を任される人(受託者)が行うことは、信託契約書に定めた内容しかできない

②利益を受ける人(受益者)の利益に反する行為を行ってはいけない

③信託財産は、分別管理する必要がある

④複数の利益を受ける人(受益者)がいる場合には、全員を公平に扱う必要がある

 

①受託者が行うことは、信託契約書に定めた内容しかできない

 

受託者は、信託契約書に定めた内容しかできないということは、メリットでもあり、デメリットでもあります。

 

受託者が行うことに、制限をかけることができます。委託者が、不動産を売却してもらいたくないと考えていれば、信託契約書に売却できないようにすることは可能です。信託契約書に不動産の売却を行う権限を記載していなければ、売却を行うことはできないと考えるべきです。権限がなく、売却を行った場合には、無権代理行為に問われるのではないかと考えられます。

 

一方で、世の中の情勢、不動産相場の市況、実際に管理している不動産の状況が、信託契約を締結してから大きく変わることがあると考えられます。管理している不動産を売却したほうが良い場合もあると思います。そのときに、売却することができず、持ち続けることになります。持ち続けることによって、管理している不動産の価値が毀損するかもしれません。

 

したがって、受託者が行うことに制限をかけることには、委託者の意思を反映させることができるというメリットと権限を制限されることにより、受託者が管理している不動産の価値を毀損させる、というデメリットがあると考えられます。

 

個人的な意見としては、不動産の売却については、信託契約書に記載しておいたほうが良いと考えます。売却することができず、価値が毀損することは避けたほうが良いと考えます。そのためには、受託者が賃貸業について、委託者と同等以上に理解し、実行できることが前提になると考えております。受託者に賃貸業を承継していくという考え方を持つべきでしょう。

 

②受益者の利益に反する行為を行ってはいけない

 

受託者がなんでもやっていいわけではありません。受託者の利益になることをやっていいわけではありません。私のところには、大家さんのために、家族が財産の管理を行おうと思い、相談に来る方がほとんどです。そのために、家族信託という方法を使うことができるのではないかと思い、相談に来ています。そのような方には、一生懸命対応しようと考えます。

 

一方で、ごく稀に自分の利益のために、受託者になろうとする方がいます。受託者は利益を受ける人ではありません。

 

そもそも、家族信託という方法は、受託者が利益を得るために行う方法ではありません。受託者を引き受けるのだから、報酬をもらって当然であると考える方は、受託者にするべきではありません。

 

大家さんのために、家族が財産の管理を行うわけですから、受託者は原則として、無報酬と考えるべきです。勘違いしないほうが良いと思います。

受託者は「受益者」のために信託財産を管理する

③信託財産は、分別管理する必要がある

 

信託契約を締結すると、大家さんが信託した財産を「信託財産」といいます。すべての財産を信託する必要はありません。すべての財産を信託してもかまいません。信託契約において、信託財産の内容を決めれば問題ありません。ただし、信託財産とした財産は、委託者の固有財産と別に管理しなければなりません。

 

また、受託者の固有の財産とも別に管理しなければなりません。受託者として、信託財産を管理するのであれば、必ず守らなければならないルールになります。

 

たとえば、大家のAさんが、Cさんに信託財産の管理を任せたとします。つまり、委託者がAさん、受託者がCさんというケースの場合で説明します。

 

Aさんが信託契約を提携する前に、不動産、預金、株式を所有していたとします。信託契約において、不動産と預金を信託財産として、株式はそのままにしたとします。すると、不動産と預金は、Aさんの信託財産となり、株式は、そのままAさんの固有財産です。そして、Cさんの固有財産とも異なるものとなります。Aさんの信託財産は、受託者であるCさんが管理します。

 

Aさんの固有財産は、そのままAさんが管理します。Cさんの固有財産は、そのままCさんが管理します。そして、すべて別々に管理しなければなりません。ですから、混ぜてはいけません。Aさんの信託財産をCさんがもらうことは当然できません。Cさんが借用することもできません。完全に別々に管理しなければならないということです。

 

これは、ルールなので、面倒くさいと思っても、受託者であるCさんが行わなければならない義務になります。

 

[図表1]
[図表1]

 

④複数の利益を受ける人(受益者)がいる場合には、全員を公平に扱う必要がある

 

多くの場合、信託契約を締結時には、受益者は一人ですので、問題はありません。受益者が亡くなり、次世代に引き継がれた時に受益者を複数人に設定することができます。受益者が複数人に設定された場合には、全員を公平に扱う必要があります。

 

また、複数人の利益を受ける人(受益者)を設定する場合に、それぞれの受益権の割合を公平にする必要はありません。持分比率にしたがいます。

 

たとえば、受益者が3人いて、受益権の割合が6分の1、3分の1、2分の1と設定されていた場合を考えます。信託財産である不動産の賃料が毎月60万円入ってくる場合、次のようになります。

 

[図表2]
[図表2]

 

このように持分比率にしたがうことになります。信託契約書に持分比率が記載されていない場合には、全員で等分することになります。また、受益者が亡くなり、次世代に引き継ぐ承継対策については、追って説明します。

 

このように、大家さんが信託契約を締結した場合、財産の管理をお願いした大家さんは、委託者となり、受託者は、受益者のために、信託財産を管理していくことになります。決して、受託者が私的に流用することは許されませんので、お忘れにならないでください。

認知症大家対策アドバイザー
株式会社ディメーテル代表取締役社長
日本不動産総合研究所研究員 

1985年東京生まれ、東京育ち。2010年東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻修士課程修了。2010年コニカミノルタオプト株式会社入社(現コニカミノルタ株式会社)。2016年株式会社ディメーテル設立。メーカーの研究員をしていたところ、会社の都合により望まない異動を命じられ、家業の大家業を引き継ぐ。そのころ祖父が90歳を超えて軽い認知症になり、入院した時に銀行口座からお金が下ろせないという経験から、両親と認知症対策を行うとともに、不動産の賃貸経営ノウハウや人脈も含めた資産承継の対策を行い、自身の経験をセミナー等で大家さんたちに発信し始め、のべ1000名以上の大家さんに認知症対策の重要性を伝えている。認知症対策の専門家としてテレビや専門雑誌からのインタビューや取材依頼も多い。

著者紹介

連載親や祖父母が突然認知症になる前に!大家のための「家族信託®」活用法

大家さんのための家族信託®

大家さんのための家族信託®

岡田 文徳

プラチナ出版

「家族信託」や「民事信託」に関する本はたくさん出ていますが、家族間の賃貸業の承継に特化した唯一書です!「なぜ大家さんにとって家族信託は有効なのか?」自分自身で実践し体験した著者が、令和時代にふさわしい賃貸業の承継…

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