所有権の「共有状態を解消」できれば問題はないが…
不動産の所有権を共有状態にすることは避けるべきです。しかし、すでに相続が起こってしまい、所有権を共有状態にしてしまったという場合もあると思います。その場合には、まず、共有状態になっている所有権を集めることができるかどうかを考えるべきでしょう。
所有権の共有状態を解消することができれば、問題はありません。そのためには、共有状態になっている所有権の持分を購入するという方法が考えられます。他に共有している人たちが売却する意思を持っており、一人が所有権に関して自分以外の持分を購入することができれば、問題を解決することができます。実際には、不動産は高額ですので、購入するための資金を調達することができるかどうかが問題です。
しかし、元々、所有権に関して自分以外の持分を購入するための資金を現金や預金を持っていたとすれば、相続時に一人が所有権をもらう代わりに、他の人たちに現金や預金を渡すこともできたでしょう。所有権を共有状態にしたケースでは、資産内の不動産が占める割合が大きく、分割するための現金や預金が占める割合が少なかったという場合が考えられます。
それでは、現金や預金で購入することができないとすると、どうすれば良いでしょうか?金融機関などから所有権に関して自分以外の持分を購入するための資金を借りることができれば、購入することは可能であると考えます。貸してくれるかどうかは金融機関次第です。
金融機関が貸してくれるということを前提として冷静に考えると、所有権を集めるために、一人だけが借入れを行い、リスクを背負います。
一方で他の共有している人たちは、所有権に関する持分を売却することにより、現金を手にすることになり、リスクは全くなく、利益しかありません。一人にリスクを背負わせるのは、適切であるとは思えません。
この状態を解決するためには、所有権を共有している人全員で売却するということが考えられます。ただ、購入してもらうためには、ハードルがあると考えます。所有権を共有している人全員が売却に賛成しており、売却を誰か一人に一任していることが必要です。そうでなければ、購入してくれる人もいざ購入するとなったときに所有権を共有している人の一人でも気が変わって、売却しないと言われかねないからです。
また、購入するまでにハードルが高いものをわざわざ購入するということは、相場の価格よりも低い金額でないと、購入してくれないかもしれません。それでも、購入してくれる人が現われれば、問題解決です。しかし、不動産は手放すことになります。
一方で理論上、持分を売却するということは可能ですが、購入する人がいるかどうかは不明です。購入してくれる人がいれば、問題ないでしょう。わざわざ、不動産の所有権が共有状態になっているものを購入するでしょうか?
購入しても、購入者が賃貸経営の改善を行おうと思っても、何もできないかもしれません。購入する人は少ないでしょう。いたとしても、持分の割合から算出される金額よりも大幅に低い額でないと購入してもらえないと考えるべきです。
「受託者」に賃貸不動産に関する経営を一本化する
それでは、家族信託Ⓡを用いると、どうなるでしょうか?
不動産の所有権を共有している人全員が委託者になります。受託者を設定し、受益者は、所有権を共有している人全員です。
このように信託契約を締結することにします。すると、受託者に賃貸不動産に関する経営を一本化することができますので、管理が滞る心配はありません。
一方で、所有権を共有していた人全員は、受益者として、賃料を受け取ることが可能ですので、賃料という利益を損なうことはありません。
また、受益権にすることによって、得られた賃料収入を受託者が管理しておけば良いので、適切な時期に受益者に支払えばよく、すぐに受益者に支払う必要はありません(信託契約書に記載する必要はあるでしょう)。
賃貸業の場合には、修繕、原状回復などお金が必要になることが多いので、すぐに受益者に支払わないほうが良いと考えます。
たとえば、所有権を共有している人がAさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんであったとします。この場合、そのうち一人でも認知症になってしまうと、賃貸経営が凍結されてしまう可能性があります。
受託者をFさんに行ってもらいます。受益者は、Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんです。信託契約を締結するためには、所有権を共有している人のそれぞれが受託者であるFさんと信託契約を締結します。
信託契約を締結したことによって、管理、運用については、受託者をFさんに一本化されましたので、不動産が滞ることはなくなります。
ただし、受託者をFさんに不動産を処分する権限まで与えるかどうかは、話し合う必要があります。場合によっては、売却したくないと考える人もいるかもしれません。個人的には、処分まで権限を与えておいたほうが良いのではないかと思います。
そもそも、自分のものではない財産を自分のものであるかのごとく使おうと暴走するような人を、受託者にしてはいけませんが、受託者になることによって、今まで扱ったことがない資産を管理するわけですから、頭の中で勘違いをおこすかもしれませんので、受託者Fさんが暴走しないような対策は必要です。
次世代に「不動産」を残すという考え方ではなく、次世代に「資産」を残すという考え方をすることによって、次世代にも資産と不動産に対する考え方を承継することができると思います。
やはり、不動産を売却する権限を与えておくことは必要なのではないかと考えます。実際にどのような方法を取るかについては、専門家と話し合ったうえで、信託契約書の内容に落とし込む必要があります。
承継対策で留意すべき信託契約の「1年ルール」
受託者と受益者が一緒になると、「1年ルール」というものがあります。
これは、財産の管理を任される人(受託者)と利益を受ける人(受益者)が一緒になってしまうと受託者が好き勝手にやっても止めることができなくなってしまうと考えられるからです。
受託者と受益者が一緒にならないように信託契約の内容を考えるわけですが、思いもよらず、一緒になってしまうことはあります。受託者と受益者が一緒になってすぐに、「信託契約が終了です」と言われても困ります。
ですので、受託者と受益者が別々の人になるように設定するために、1年という猶予期間を与えたと考えるべきです。その間に、受託者と受益者とを別にしないと信託契約が終了になってしまいますので、ご注意ください。
このようなケースがありえるのか? と考える方もいるでしょう。
たとえば、大家のAさんがCさんに財産の管理を任せるという信託契約を締結した場合、信託契約締結時に、次のように設定したとします。
・財産の管理をお願いする人(委託者)は、Aさん
・財産の管理を任される人(受託者)は、Cさん
・利益を受ける人(受益者)は、Aさん→Bさん→Cさん
・利益を受ける人(受益者)は、1番目をAさんとする
・Aさんが亡くなったら、利益を受ける人(受益者)は、Bさんに変わる
・Bさんが亡くなったら、利益を受ける人(受益者)は、Cさんに変わる
・CさんがAさんとBさんの子どもであった場合に、最終的にCさんを利益を受ける人(受益者)に設定する
そうなると、1年以内に受託者か受益者を変更すれば、信託契約を続けさせることができます。CさんがDさんと結婚しており、子どもにEさんがいるという状態も考えられると思います。最終的に子どものEさんに任せたいと思うのであれば、受託者をEさんに設定すれば、信託契約を続けることができます。
場合によっては、受益者がCさんになった時点で、信託契約をあえて、終了させてしまうというケースも考えられると思います。信託契約を終了させることによって、信託財産から所有権に戻したい理由があるのであれば、戦略的に行って、まったく問題ないと考えます。
受託者と受益者が一緒になるケースをまったく考えていない、忘れているのと、戦略的に考えて行うのでは大きく意味が異なることはおわかりでしょう。
実際に、信託契約を作成する際には、受託者と受益者が一緒になるケースを回避する方法は、いくつかあります。ただし、個別に状況を確認する必要があります。
とくに、家族構成と委託者となる大家さん本人の想い、希望をお聞きしないことには、受託者と受益者が一緒になるケースを回避する方法をお伝えすることはできません。ですから、受託者と受益者が一緒になるケースを回避する方法を理解している専門家を選びましょう!
続いて、「30年ルール」といわれるものもあります。こちらは、1年ルールよりも少し理解がしづらいものになりますので、簡単に説明したいと思います。
信託契約の設定後30年を経過した後は、受益権の新たな取得は一度しか認められない、これが30年ルールといわれるものです。あまりにも長い信託契約や何世代にもわたる信託契約ですと、30年ルールに引っかかる可能性があります。
また、「30年経過後に新たな受益者になった人が死亡した時点で信託は終了する」といわれておりますが、実際にはわかりません。信託法が改正されてから、10数年しか経過しておらず、まだ30年ルールに到達した事例がないからです。今後、事例が発生してから確認するほかありません。
このように、家族信託Ⓡにはルールがありますので、安易に大家さん自身で行おうとはせずに、専門家に依頼することをオススメします。また、専門家に依頼する時に、必ず質問するようにすると良いと思います。質問に対して、方法だけではなく、理由まで説明することができる専門家を選ぶことをオススメします! また、大家さんが理解するまで、説明してくれる専門家を選ぶことも重要です。