人生100年時代といわれ、相続対策の前から被相続人となる親や祖父母の認知症リスクが高まる中、賃貸不動産等の承継においてどのような対策を実施するのが有効なのでしょうか。本記事では、認知症大家対策アドバイザー岡田文徳氏の著書、『大家さんのための家族信託®』(プラチナ出版)から一部を抜粋し、著者自身で実践し体験した、令和時代にふさわしい賃貸業の承継策を紹介します。

「財産を管理する人」に権限を与えることも可能

前回説明した家族信託、法定後見人、任意後見人のそれぞれにおいて、大家さんにどのようなメリット・デメリットがあるのか、くわしく説明していきます(関連記事「大家さんの認知症対策…「家族を巻き込む」ことが重要なワケ」参照)。まずは、家族信託から確認していきましょう!

 

(1)家族信託のメリット

家族信託のメリットは、次に示すとおりです。

 

【家族信託のメリット】

①財産を管理する人を本人が信託契約で決めることができる

②財産を管理する人に報酬を支払う必要がない

③信託財産の管理方法を指定できる

④不動産を好きなときに売却することができる

⑤裁判所の関与がほぼない

 

①財産を管理する人を本人が信託契約で決めることができる

前回説明したとおり、大家さん本人が財産を管理する人を信託契約で決めることができます。

 

②財産を管理する人に報酬を支払う必要がない

この意味がなかなか理解できないかもしれません。家族信託では、財産を管理する人に報酬を支払う必要がありません。逆をいうと、家族信託でなければ、財産を管理してもらうために、報酬を支払う必要があるということを意味しています。法定後見人において、弁護士、司法書士など親族以外の法定後見人が選任された場合、報酬を支払う必要があります。

 

③信託財産の管理方法を指定できる

④不動産を好きな時に売却することができる

信託契約を締結した場合、管理を任せる財産を「信託財産」という言い方になります。不動産、金銭、株式などを信託財産とすることができます。信託財産の管理方法を指定することができます。信託財産の売却や新たな信託財産の購入についても、財産を管理する人に権限を与えることも可能です。どこまで権限を与えるかは、大家さん本人やその家族で話し合って決めることをオススメします。

 

⑤裁判所の関与がほぼない

原則として、裁判所から何か言われることはないと考えられます。ただし、絶対ではありません。裁判所が関与することがないようにするためには、大家さん本人やその家族で必ず話し合いを行いましょう!

損益通算と純損失の繰り越しができないデメリットも…

(2)家族信託のデメリット

続いて、家族信託のデメリットについて説明します。

 

【家族信託のデメリット】

①認知症になった後では契約することができない

②身上監護権がない

③損益通算、純損失の繰越ができない

④信託計算書、信託計算書合計表を税務署に提出する必要がある

⑤信託契約書を作成することができる専門家がまだまだ少ない

⑥信託契約を作成するために費用がかかる

 

①認知症になった後では契約することができない

認知症になった後では、大家さん本人と財産を管理する人との間で合意することができないので、信託契約を締結することはできません。必ず認知症になる前に、信託契約を締結する必要があります。

 

②身上監護権がない

家族信託は、財産の管理だけが目的になります。身上監護権が必要である場合には、任意後見契約も同時に行っておくことを考えても良いかもしれません。

 

③損益通算、純損失の繰越ができない

これは大家さんにとっては、唯一にして最大のデメリットといっても過言ではありません。

 

不動産を購入した年においては、赤字が出ることがほとんどです。家族信託を用いていない場合には、赤字が出たとしても、他の所得との間で損失と利益を1年間で通算することができます。それでも、赤字になった場合には、個人の場合、3年間損失を繰り越しすることができます。

 

一方で、家族信託を用いた場合には、赤字が出たとしても、他の所得との間で損失と利益を1年間で通算することができません。ただし、信託財産となっている不動産からの収入であれば、損失と利益を1年間で通算することができます。信託財産に不動産が何棟もあれば、通算しやすくなると考えられます。それでも、赤字になった場合には、繰り越しすることはできません。

 

大家さんにとっては、損益通算と純損失の繰り越しができないことは、非常に大きなデメリットであるといえるでしょう。この繰り越しができないことを忘れている専門家もいます。大家さんにとっては、本当に痛いデメリットですが、デメリットを理解したうえで、それでも認知症になって、資産が凍結されてしまうよりは、マシであると考えるのであれば、家族信託を用いるべきでしょう!

 

④信託計算書、信託計算書合計表を税務署に提出する必要がある

信託契約を締結し、家族信託を行った場合には、税務署に対して、信託計算書、信託計算書合計表を提出する必要があります。毎年1月末までに前年の信託財産について、税務署に報告する必要があります。確定申告とは別に提出する必要があります。財産を管理する人の義務になりますので、忘れないように税務署に提出しましょう!

 

⑤信託契約書を作成することができる専門家がまだまだ少ない

⑥信託契約を作成するために費用がかかる

2006年に信託法が改正されてからまだ10数年しか経過しておりません。家族信託Ⓡが注目され始めて、5年ほどしか経っていないわけです。大家さんの間で注目され始めたのは、ここ2、3年です。これだけ、家族信託が注目されているので、信託契約書を作成することができる専門家が増えてきました。増えてきたとはいえ、まだ家族信託に否定的な専門家の方が大多数ですので、信託契約書を作成することができる専門家はまだまだ少ないといえます。

 

信託契約書を作成することができる専門家が少ないが故に、経験を積んでいる専門家、経験がまだまだ少ない専門家、まったく経験を積んでいない専門家と入り乱れている状況です。

 

大家さんとしては、家族信託をよく理解し、経験を積んでいて、自分のために信託契約書を作成することができる専門家を選びたいと考えることは、至極真っ当な意見であると思います。専門家を選ぶ際には、疑問に思ったことは、すべてぶつけていきましょう。疑問に真摯に、誠実に答えてくれる専門家を選びましょう!

信託契約書作成にそれなりの費用がかかる理由

また、信託契約書を作成するためには、費用がかかります。物事を行うためには、それなりに費用がかかります。例外なく、信託契約書を作成するために、専門家に支払う費用はそれなりの金額がかかります。

 

この理由としては、次の3つがあげられます。

 

・信託契約書を作成することができる専門家が少ない

・信託契約書が定型化されていない

・信託契約書を作成するために時間がかかる

 

特に、信託契約書は、大家さん本人やその家族に関する状況、資産状況、想いなど、さまざまなことを考慮して作成します。それぞれ状況は異なりますので、なかなか定型化することは、難しいという状況です。さまざまなことを考慮するためには、それらの状況を把握する必要があります。大家さん本人やその家族のみならず、金融機関との話し合いを行う必要も出てきます。すると、信託契約書を作成するためにはどうしても時間がかかってしまいます。信託契約書を作成するためには、早くて3ヶ月、たいてい半年、長くて1年以上かかります。それだけ、専門家にとっては大変責任がある仕事であるということです。

 

そのため、信託契約書を作成するために、専門家に支払う費用はそれなりの金額にならざるを得ないということになります。むしろ、費用がかかるから家族信託を用いないのであれば、認知症になった時にすべてが凍結されてしまうことを覚悟することを考えておくべきでしょう。費用対効果がないと判断されるのであれば、必要ないでしょう!

 

一方で、簡単に信託契約書を作成することができると言われた場合には、なぜ、簡単に作成することができるのか? 疑問に思ったほうが良いでしょう。先ほど説明したように、信託契約書は、定型化されていません。各大家さんのために、オーダーメイドで作成していくものです。定型化してあるのであれば、大家さんの希望に沿う信託契約書になっているのでしょうか?

 

なぜ、定型化できるか、説明があったでしょうか? 希望に沿う信託契約書でなければ、意味がありません。

 

また、費用を抑えようとして、大家さん本人が作成しようとするケースも見受けられます。大家さん自身が信託契約書を作成することができる専門家であれば、まったく問題ありません。しかし、信託契約書を作成することができる専門家でなければ、専門家に任せたほうが良いと考えます。

 

大家さんの希望に沿う信託契約書は、簡単にできるようなものではありません。必ず、抜け落ちてしまうことが出てきます。「餅は餅屋」という諺があるように専門家に任せたほうが、希望に沿う信託契約書を作成することができると考えます。ただし、専門家に丸投げすれば良いというわけではありません。専門家がしっかり仕事をしているか確認することは怠らないでください。

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