家族信託Ⓡにおける「委託者・受託者・受益者」の役割とは?

人生100年時代といわれ、相続対策の前から被相続人となる親や祖父母の認知症リスクが高まる中、賃貸不動産等の承継においてどのような対策を実施するのが有効なのでしょうか。本記事では、認知症大家対策アドバイザー岡田文徳氏の著書、『大家さんのための家族信託®』(プラチナ出版)から一部を抜粋し、著者自身で実践し体験した、令和時代にふさわしい賃貸業の承継策を紹介します。

信託契約の締結後は「名義と受益権」が別々になる

大家さんが家族信託を組むためには、信託契約を締結する必要があります。

 

家族信託を組むと、変わることがあります。それは、所有権が分離するということです。突然、所有権が分離するというと、理解できないと思いますが、そもそも所有権とは、名義と利益の両方を兼ね備えた権利であるということです。不動産で考えてみると、わかりやすいです。

 

不動産の所有権を持っている人は、持ち主が自分であると主張するために、所有権保存登記を行います。これは、名義が自分であることを主張するために行っています。一方で、賃貸している不動産であれば、賃料が入ってきます。不動産から賃料を得るということは、利益を受ける権利を持つということです。つまり、不動産の所有権を持つということは、名義と利益の両方を持ち合わせているということです。不動産に限らず、資産価値があるものに対して、所有権を主張するということは、名義と利益の両方を主張しているということになります。

 

信託契約を締結する前は、大家さんが、所有権の状態で持っています。信託契約を締結した後では、所有権が分離して、名義と受益権が別々になります。受益権は、利益を受け取る権利ですので、利益と同じと考えて問題ありません。

 

ですから、大家さんが不動産を信託した場合には、不動産の所有権が名義と受益権に分離します。認知症対策として、家族信託を組む場合には、名義は財産を管理する人の名前にします。そして、受益権を持つ人は、元の所有者にします。そうすることによって、不動産の元の所有者が認知症になったとしても、財産を管理する人が賃貸経営を行うことができるようになり、滞ることはなくなります。

 

また、元の所有者は賃料を受け取ることができます。不動産の元の所有者が認知症になったとしても、賃貸経営が滞るリスクをなくすことができます。大家さんにとっても、その家族にとっても、不動産の賃貸経営が滞ることがなくなれば、非常に大きなメリットであるといえるでしょう。しかも、信託法という法律の範囲内で行っていることですので、財産を管理する権限を合法的に有することになります。

家族信託Ⓡを組む前に家族全員の話し合いが大切なワケ

そして、信託契約の前後で、大家さん本人、財産を管理する人、利益を受ける人の三者の登場人物が出てきたことに気づいたと思います。

 

まず一人目の大家さんは、自分が認知症になった場合に備えて、財産の管理をお願いする人といえるでしょう。この財産の管理をお願いする人のことを「委託者」といいます。

 

二人目は、大家さん本人から財産の管理を任される人です。財産の管理を任される人のことを「受託者」といいます。

 

最後は、信託契約後に利益を受ける人です。利益を受ける人のことを「受益者」といいます。

 

家族信託には、この「委託者」「受託者」「受益者」の三者が登場します。この単語だけをみると、誰が誰であったか? そんな役割の人間であったか? 正直、頭が混乱すると思います。私も当初は混乱しました。ですから本記事では、次のように表示することにしたいと思います。

 

・財産の管理をお願いする人(委託者)

・財産の管理を任される人(受託者)

・利益を受ける人(受益者)

 

あえて、家族信託の用語も表示するのは、大家さんであれば、今後、家族信託を組むことが考えられます。前述したように、信託契約書を作成することができる専門家は、まだまだ少ないといえます(関連記事『大家さんの認知症対策…信託契約のメリット・デメリット』参照)。家族信託を組む際に、お願いする専門家が家族信託の用語で説明してくるかもしれませんので、その用語も残しておきます。専門家であればこそ、わかりやすく説明してもらいたいと思います。現在専門家になった私も肝に銘じておこうと思います。

 

家族信託を組む、つまり、信託契約を締結するわけですが、信託契約は、財産の管理をお願いする人(委託者)と財産の管理を任される人(受託者)の合意によって、成立します。

 

そして、信託契約書を作成することによって、信託契約の締結を第三者に対して、示すことになります。

 

一方で、受益者の合意は必要となりません。大家さん本人が認知症対策として、家族信託を使用する場合には、委託者と受益者を同じ人間にしますので、受益者は信託契約の内容について理解している状態です。しかし、合意の必要がないからといって、伝えなくて良いわけではありません。

 

また、家族信託は、承継対策としても使用することが可能です。承継対策の際に、受益者が誰になるか? 伝えるべきです。

 

家族信託を組むときに、受託者になると、委託者から頼まれているのだから、なんでもできると勘違いする人がいます。受託者がなんでもやっていいわけではありません。そもそも、家族信託を組む前に、家族全員で話し合いを行うことが必要です。

 

そして、家族全員が信頼できる関係であるということは大前提です。したがって、委託者である大家さん本人と、受託者となる家族との間だけで話し合いを行い、合意すれば良いというものではありません。家族全員で話し合いを行い、全員が納得したうえで、信託契約の内容を作成し締結するものです。

[図表]
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認知症大家対策アドバイザー
株式会社ディメーテル代表取締役社長
日本不動産総合研究所研究員 

1985年東京生まれ、東京育ち。2010年東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻修士課程修了。2010年コニカミノルタオプト株式会社入社(現コニカミノルタ株式会社)。2016年株式会社ディメーテル設立。メーカーの研究員をしていたところ、会社の都合により望まない異動を命じられ、家業の大家業を引き継ぐ。そのころ祖父が90歳を超えて軽い認知症になり、入院した時に銀行口座からお金が下ろせないという経験から、両親と認知症対策を行うとともに、不動産の賃貸経営ノウハウや人脈も含めた資産承継の対策を行い、自身の経験をセミナー等で大家さんたちに発信し始め、のべ1000名以上の大家さんに認知症対策の重要性を伝えている。認知症対策の専門家としてテレビや専門雑誌からのインタビューや取材依頼も多い。

著者紹介

連載親や祖父母が突然認知症になる前に!大家のための「家族信託®」活用法

大家さんのための家族信託®

大家さんのための家族信託®

岡田 文徳

プラチナ出版

「家族信託」や「民事信託」に関する本はたくさん出ていますが、家族間の賃貸業の承継に特化した唯一書です!「なぜ大家さんにとって家族信託は有効なのか?」自分自身で実践し体験した著者が、令和時代にふさわしい賃貸業の承継…

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