終わらぬ香港デモ…諸外国は中国の出方を警戒

11週連続で行われている香港「逃亡犯条例改正案」抗議デモ。中国と香港、どちらも強硬姿勢を貫き、両者の応戦は過激の一途をたどっていたものの、18日のデモは「穏健かつ平和的に」開催された。一方で、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官はいまだ具体的な対策を示しておらず、根本的な問題解決には程遠い。諸外国はこの事態をどう受け止めているのか? Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO長谷川建一氏が解説する。

先週のデモは170万人が参加、6月以降最大規模に

逃亡犯条例改正案に反対して6月から始まった香港のデモは、8月18日にも行われ、これで11週連続となった。主催者として今回のデモを呼びかけた民主派団体「民間人権陣線」によると、参加者は170万人に達したとのことである。これは、200万人が参加したとされる6月16日のデモ以降で、最大の動員規模だったことになる。前週までは、先鋭化・暴力化が目立っており、デモ隊と警察との間で激しい衝突、交通機関の運行混乱や空港占拠による運航停止などがこのところ目立っていたが、今回のデモでは、参加者が穏健かつ平和的に行進して、過激化した反対運動とは様子が異なった。

 

過激化したデモに対する香港市民の違和感は強く、ともすればデモへの支持低下につながりかねないことを嗅ぎ取り、穏健なデモの実施を目指したことで、再度これだけの人数を集められた点は評価されるだろう。もちろん厳しく取締りを実施するようになった警察への不信感は、香港人の多くが感じており、一般市民に向けて催涙弾や暴力的な連行が行われたことは大変遺憾である。一方で、一部のデモ隊により、警官隊への刺激や挑発行為があったことも事実のようで、香港人の間でも溝が深まっているところがあるのは、悲しいことである。

 

香港市内は、日常生活にはほとんど支障がないのが実態である。ただ、デモに巻き込まれると何が起こるかわからないので、リスクを回避という意味で、ネット上に募るデモ情報に留意しているというのが実情である。

 

さて、香港の経済面だが、先週発表された、香港の域内総生産(GDP)の第2四半期(4-6月)改定値は、前期比0.4%減となり、7月31日に発表された速報値0.3%減から一段と下方修正された。前年同期比では0.5%増加だったが、これも速報値の0.6%増からは下方修正である。長引くデモによる抗議活動の影響が出始めたと言わざるを得ない。加えて、米中間の貿易量が関税措置のエスカレートで縮小する見通しが強まるなか、貿易のハブである香港にも逆風となることが懸念される。すでに、香港域内の小売売上高は影響が出ており、小売・飲食などの業種では「急激な落ち込み」に見舞われている。短期的には香港経済がリセッション(景気後退)に向かっていると言えるだろう。

 

香港政府は、2019年通年での域内成長率の見通しを0.0~1.0%と、従来予想の2.0~3.0%から下方修正した。これを受ける形で、香港政府は財政出動を決め、15日に、24億米ドル(2600億円)規模の景気対策も発表した。幼児・生徒1人あたり2500香港ドルの子育て支援や、1世帯あたり2000香港ドルの電気代補助などを支給し、企業向けでは公的手続きに関わる費用を1年間減免する。

 

18日には、陳茂波(ポール・チャン)財政長官が、経済の現状を「台風」になぞらえて、暴風雨(失速状況)に備えるべきだとの表現で警告、憂慮をあからさまにした。こうした見通しは当然ながら市場にとって懸念材料で、不動産価格の下落見通しや株式相場の下押し圧力となっている。

香港政府は強硬姿勢を貫くものの、事態打開は見えず

これまで、香港は、欧米から見ても、もちろん中国にとっても、安全かつ信頼できる商業ハブであり、中国本土と世界を結ぶ自由貿易の街として、ビジネス活動には世界で最も自由でフレンドリーな経済体制を築きあげてきた。しかし、現在の状況が長引けば、その地位は失われ、香港の未来にとって致命傷となる可能性がある。

 

現在の香港の状況は容易に収拾しそうにないなか、注目されるのは中国の立ち位置である。中国の環球時報は15日、香港は安定と混沌のどちらかを選ばなければならないと警告する論説を掲載した。暴力を伴った抗議活動を「テロリズム」と断定し、デモによる騒乱は西側が裏で糸を引く「カラー革命」の一例だと非難した。

 

これまで、香港のデモを一切報道していなかった中国メディアが、香港のデモ(デモとは表現していないが)について、18日初めて掲載した。たとえば新華社通信日本語版では、「暴力反対、香港を救おう」との集会が開催された、との表現で情報を流し始めた。一部には、これが香港救済のために、中国が力の行使に出る準備であるとの見方も出ている。

 

しかし、人民解放軍を派遣して香港の抗議活動を暴力的に抑え込んだら、中国は欧米を含む諸国からの反発を受けるだろう。その場合、中国は深刻な打撃を経済的にも被る恐れがある。また、中国の拡張的な外交政策を警戒している周辺諸国は、米国とのより緊密な関係に傾く可能性がある。「統一」を呼びかけられている台湾では、中国に対して防衛的な措置を強化して、米国との協力関係を明確にする政策を採るだろう。加えて、来年1月に予定される台湾総統選に向けて、世論は中国寄りの政策に耳を傾けなくなり、野党は厳しい戦いを強いられるだろう。また、中国国内でも、今回の打開策については、共産党内の意見集約すら難しい状況が続いており、デモ激化などの場合でも、香港に不用意な介入をするよりは、香港政府による非常事態宣言などを選択する可能性が高いのではないだろうか。

 

残念ながら、香港での一連のデモ抗議活動は、下火になる気配を見せていない。なにより、肝心の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が、混乱を抑える解決策を何も示さないでいる。これでは、混乱を長期化させるだけで、香港にとって大きなダメージにもなりかねない。20日の会見でも、声明では対話を呼びかけた体をしているが、これだけの世論の批判と要請に耳を傾けたというそぶりもなければ、譲歩もない。これでは、対話が始まるとは思えない。

 

過去を振り返れば、香港は、アジア通貨危機や新型肺炎SARSの感染拡大による危機、リーマンショックなど、幾たびもの危機を乗り越えてきた。2014年の「雨傘革命」の時も、最終的には経済的なダメージをそれほど引きずらなかった。今のところ、金融機関には表立った動きはなく、金融の機能には影響が出ていないが、もしこのまま、抗議活動が続けば、外国人投資家や外国企業にとって香港への投資意欲は減退しかねない。そうなれば、金融業と不動産業が占めるウェイトの大きさから考えて、多くの香港人の雇用と生活が危うくなるだろう。香港政府には、小手先の経済対策よりも、問題の根本的な解決につながる早急な判断を期待したい。

 

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長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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