22日ー24日、世界の中央銀行首脳が集う経済シンポジウムが、米ワイオミング州ジャクソンホールで開催された。23日には米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が講演し、(明確な言及は避けたものの)追加利下げの可能性に前向きであることを示した。しかし、市場は、パウエル議長の発言にあまり大きな反応を見せなかった。その背景には、エスカレートする米中関税合戦がある。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO長谷川建一氏が解説する。

追加利下げへの明確な回答は避けたが、可能性は示唆

注目された8月23日のパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長のジャクソンホールでの講演では、パウエル議長が改めて米国経済が「良好な立場」にあり、FRBは足元の景気拡大を維持すべく「適切に対応」すると表明し、このところトランプ大統領などから強まっている大幅な利下げ要請には、明確な回答をしなかった。

 

ただ、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)以降の3週間程度の間に「出来事が多かった」と、中国製品への追加関税や経済の減速を示すいくつかの経済指標、英国のEU離脱がハードブレグジットとなる可能性の上昇など、複雑で混乱に満ちた昨今の状況を挙げた。また、リスク増大を理由に時として政策転換し、適宜適切に判断していくことには前向きな姿勢を示し、追加利下げを示唆した。最近のFRB高官の発言からすると、景気判断や利下げについては、意見が割れており、そう直ぐに行動が取れると思えない。こうしたなかにあって、パウエル議長の発言は、踏み込んだものと筆者は捉えている。

 

しかし、これに対してトランプ大統領は、期待したような速やかで大幅な利下げに言及しなかったパウエル議長を強く批判し、「FRBは相変わらず何もしない」、「パウエルFRB議長と中国の習近平国家主席のどちらが米国に対するより大きな敵なのか」とまで、ツイッターに投稿した。かなりおかんむりだったようである。

市場はパウエル議長よりもトランプ大統領の発言を重視

米中通商交渉については、数週間以内に、閣僚級協議が設定されるとの報道もあるなか、関税合戦はエスカレート気味である。中国商務省は8月23日、米国が9月1日から発動を予定する対中制裁関税「第4弾」に対する報復措置として、米国から輸入する750億ドル相当の米国製品に対し5─10%の追加関税を課すと発表した。対象は、米国から輸入する大豆や牛肉、豚肉を含む農産物や小型航空機など計5078品目にのぼるという。また自動車や自動車部品に対する関税も停止を解除され復活する。

 

これに対しトランプ大統領は、すぐさま反応し、いわゆる追加関税第3弾として、これまでに課してきた2500億ドル相当の中国製品に対する25%の関税を10月1日から30%に引き上げると表明した。さらに追加関税第4弾として表明していた中国製品3000億ドル分に課す税率を予定の10%から15%に引き上げて実施するとした。

 

せっかくのパウエル議長による利下げ示唆発言だったが、上述のとおり、トランプ大統領の振り上げた拳にかき消されてしまった。市場は、パウエル議長の講演内容にはあまり大きな反応を見せなかった。しかし、トランプ大統領のパウエル議長批判と対中強硬姿勢が伝わると、世界経済が景気後退に陥るとの悲観論が台頭し、株価は大幅に下落、NYダウ平均株価は26000台から25500ドル手前まで下げた。国債は、安全資産への逃避の流れもあり、買われて続伸(利回りは低下)した。為替市場では、米ドルが下落し、ドル円は105円代前半に急落、ユーロドルは1.11ドル台を回復した。なお、豪ドルは対円で約10年ぶりに70円台へと下落した。人民元も、対円では3年ぶりに15円を割り込んだ。

 

市場は、総じてリスクに敏感になっており、ことトランプ大統領の言動には、振り回され続けて、辟易してきている。少々経済指標が良好で、経済の現状が悪くなかろうが、市場はダウンサイドのリスクを懸念し続け、株価の上値追いには慎重であり、景気への懸念材料が出るたびに金利はズルズルと下げる展開を続けることになろう。

 

為替は、米国経済にも減速リスクは有ることを認めざるを得ないものの、先進国のなかでは相対的に景気も良く、米ドル金利もあるなかで、米ドルだけが下げるということも難しいと引き続き考えている。また、豪ドルや人民元の対円での水準は、中期サイクルでは、安値水準であることは事実である。今すぐに買いという流れではないものの、注目しておきたい水準であることは申し上げておきたい。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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