年収の7倍程度が健全といわれたマンション価格だが…
いわゆるアベクロ金融政策で生み出されたマネーが、消費拡大、設備投資に結びつかず、ダブついてしまったことが史上最低の金利水準をもたらしました。そして不動産価格が上昇、とりわけ新築マンションの価格が高騰していったのです。
年収の7倍程度が健全といわれたマンション価格も、用地取得難や労務費、建築資材コストの上昇で、その価格レンジはすでに年収の10倍を超え、通常の給与所得者には手の届かないところに来ています。いきおい、マンションの供給数はここ数年低いままで推移しており、それが中古マンションの価格を引き上げる結果となっております。
購買力に見合う物件を供給するべく、野村不動産は「プラウド」とは別に「オハナ」のブランドシリーズで首都圏郊外に展開、過去に供給数ナンバー1を誇った大京も地方都市でのマンション分譲に活路を見いだしたりしています。他のデベロッパーも最近では、新築マンションではなく、リノベーションマンションの企画販売なども手がけるようになっています。
その環境下で供給される新築マンションですが、だいぶクオリティが落ちているように感じています。
タイルの貼付け面積や地盤面の高さなどの外観にもそれは感じ取れますし、商品の企画として窮屈な3LDK間取りが多くなったと思います。以前であれば70㎡、80㎡で3LDKだったものが、60㎡台、なかには50㎡後半でも3LDKを維持しようとするため、子ども部屋は狭く(4帖とか)なってしまいます。モデルルームでは小さめの家具を配置して上手く見せるのですが、実際入居してみると意外に狭いことに気づきます。まるで食料品が内容量を少しずつ減らすことで実質値上げをしているかのようです。
ただ、このコンパクト分譲マンションは、賃貸との親和性は高いのです。広くないゆえに賃料総額が抑えられながら、部屋数が取れている物件は実際ニーズが強いのです。さらに、振り分けタイプと呼ばれる住戸(玄関が部屋の真ん中にある間取り)であれば、廊下面積が小さくなるし、適度に各部屋のプライベートも保たれるので効果的です。こ売買と賃貸がリンクするスキームにおいては、昨今の間取り企画は逆に有効にはたらくと考えています。
これまでは居住用にマンションを取得すれば、終の棲家とは言わないまでも、長期に居住することが前提でした。これからのマンションは、金融資産等とのアセットアロケーションの中で複数保有する資産になっていくと考えています。その中ではコンパクト3LDKは、自己居住でも、賃貸、売却でも利用可能となるため、マンション資産の中でも、有用性の高い物件になると考えています。
「賃貸併用」も可能な新築マンションの仕組みとは?
別件ですが、以前面白いと思った企画があります。新築マンションの1戸の部屋を2分割して使えるようにした物件です。玄関を開けると、さらに別の玄関があり、その第2玄関の先は、それぞれ独立した居住スペースとなっているのです。2LDK+1DKのようなイメージです。3人家族、4人家族のときは全体を1戸として使い、将来、子供が独立し、広い住戸が必要なくなった際には1DK部分を賃貸し、その賃料収益でローン返済してもよし、老後の副収入にしてもよし、そんな使い方ができるマンションです。
これは1DK部分に老親と同居するという親孝行プランにも使えますし、逆にDINKのうちは賃貸併用、子供が増えたら全体を使うといった家族構成の変化にあわせて流動的な利用方法が可能となります。このプランは、三井不動産の「ツグイエ」のように、大手デベロッパーでも展開されていきました。2戸の切り分けについても、二重玄関ではなく、ホテルのように室内連結扉でつなげることが可能となったため、一体使用時の一体感が増し、また2戸を別々に利用する際は、連結扉を撤去、壁を造作することで独立性が高まることとなったのです。
また2つの別住戸として登記できるようになったことは大きく、将来、1戸だけ売るということが可能となり、暮らし方だけではなく、不動産の取得と売却といった資産形成面でも流動性をもたらすことになりました。ちなみに同社では、可動式間仕切り家具ユニットと、可動式キッチンを導入し、自由に間取りレイアウトを変更できるマンション「イマジエ」も企画開発しています。
梁のない居住空間、制御系統をアレンジできるダウンライトなど各所に工夫が見られますが、特筆すべきはシステムキッチンを移動可能としたことです。給排水ユニットを床面に数ヶ所設置することで連結可能にし、換気扇は循環式レンジフードを開発して、排気ダクトへの連結を不要にしたのです。そのシステムキッチンはIHコンロ部分と水栓シンク部分とが分かれた2ユニットになっていてレイアウトが自由になっています。L型やアイランド型にシステムキッチンを模様替えできるなんて主婦のハートを射抜いたにちがいありません。
今後の住設機器開発にともない住戸の分割や、間取り変更が可能になるようであれば、物理的な暮らし方にも可変性が生まれます。所有形態の可変性と生活空間の可変性が融合していくとマンションの選び方も多様な形へ展開するでしょう。提案方法にもバラエティが増えて、将来の不動産業はとても面白そうです。