管理会社は「偽入居者」の申し込みに備えているが…
テレビ番組で新宿歌舞伎町の不動産会社が取り上げられることがあります。
たいていはキャバクラ嬢のお部屋探しを手伝うストーリーです。主人公の彼女はとても性格がよく、お給料が高いにもかかわらず、借りられるお部屋がなくて困ることが少なくありません。いわゆる水商売だからです。番組では、そんな偏見は排除されてしかるべきであり、これを助けてあげる不動産会社こそ社会的に必要とされるべきだという構成となっています。しかし、これに理解を示す不動産オーナーや賃貸管理会社は多くないのが現状です。
この例に限らず、世の中には経済的に不安定であったり、危険な職種に従事していたりするために、部屋探しが難しくなっている人がいます。これに着目して、「身元保証」をしてくれるという商売が存在します。
そこでは、いくつかのダミー企業を用意して、その人が一般企業に在籍しているように源泉徴収票や採用通知書を捏造して、身元がしっかりしている人だと偽装してくれるのです。業界では「在籍会社」とか「アリバイ会社」などと呼ばれています。
当人が勤務先として申告した会社に本当に在籍しているかどうかの確認電話や、緊急時連絡先として登録された親戚への確認電話に対して、専門のオペレーターが、ときには同僚に扮し、ときには叔父さん叔母さんに扮して対応するのです。ちなみに「在籍会社」は入居審査以外にも、保育園の入園手続きやその他、様々なケースにも対応しているようで、ある意味世相を映すものだと考えさせられます。
「在籍会社」は、入居希望者がこれを隠して利用する場合と、賃貸仲介の不動産会社も共謀して利用する場合とありますが、いずれにしても、賃貸管理会社や不動産オーナー側としては、これを見抜かねばなりません。たとえば賃貸管理会社は「在籍会社が用いるダミー勤務先リスト」を作成し、偽入居者の申し込みを見破るべく備えているのですが、その矢先に、「在籍会社」の方から「身元保証します」とか「アリバイ用意します」といった類のDMやFAXが送られてくることがよくあります。不動産会社にローラー営業をかけているのでしょうか、苦笑してしまいます。
一方、名義貸しビジネスなるものも存在します。
一見、属性的には問題のない人が、自身が住む物件として賃貸借契約を締結するのですが、実は手数料目当てに転貸(又貸し)をしているのです。転貸先となる人物は、自身の名義だと賃貸物件を借りにくい属性で、それでもグレードの高い物件には住みたいという人達です。
具体的には反社会的勢力に所属する人や、一般的に敬遠されてしまう国籍の人などが該当します。4LDKなど部屋数が多い物件では、ホストや風俗嬢の共同住宅として転貸されてしまう場合もあり注意が必要です。
競合物件との差別化に「広告費」を付与するのは常識⁉
正規の賃貸募集においても、競合物件が多くなる中、その差別化に賃貸管理会社は苦慮しています。
賃貸物件の募集においては、物件そのものの商品力よりも、不動産会社(賃貸仲介)の接客担当者が、どの物件をお客さんに積極セールスするかに依存しているのが実状です。
たしかに、インターネットには数多くの物件が掲載されていますが、余程の魅力でもなければ特定の物件をピンポイントで指名してくるお客さんは少なく、実際はまず住みたい街・エリアを決めて、その駅前にある「感じのいい不動産屋さん」を訪れることが多いのです。そうしてお客さんが店舗を訪れたとき、(歩合制であることが多い)賃貸仲介の担当者は、通常より多く手数料がもらえる物件を優先することになってしまうのです。
ちなみに宅建業法では、賃貸仲介における報酬は、賃料の1ヶ月分が上限であるとして定められていますが、不動産オーナーが「広告費」の名目で、実質の上乗せ手数料を付与しているものが多くなっています。これを業界ではADとよんでいて、AD付の物件は(先述の)「通常より多く手数料がもらえる物件」に該当します。
賃貸物件がダブついているマーケットで、特筆すべき点がない物件を募集する不動産オーナーが、差別化としてADを付与するのは、常識にさえなってきました。不動産投資信託に組み込まれている物件では、ADが3ヶ月分も付与されている物件もあるくらいです。
賃料利回りを高く表現したい不動産投資信託においては、募集費用をかけてでも高い賃料を維持したいからです。このような募集営業の背景があることを読み解きながら、賃貸物件を選択していかねばなりません。本質的な賃料を見抜く力が求められるでしょう。