本連載は、不動産投資アドバイザーでCFPファイナンシャルプランナーの大林弘道氏の著書、『儲ける不動産ビジネス 7つの新規事業アイディア』より一部を抜粋し、投資をはじめとした不動産ビジネスをめぐる課題を解決するための具体的なアイデアを提案していきます。今回は、マンションのモデルルームを介して行われる完成前の「青田売り」の実情等について見ていきます。

消費者にとっても合理性がある「青田売り」

新築マンションは実際の建物が完成する前に販売活動を行います。

 

完成前であっても、完成予定物件の建築確認(行政による建築許可)がおりていれば販売してもよいことになっていて、「青田売り」と言われています。事業主であるマンションデベロッパーからすると、ゼネコンへの多額の工事費支払いと売買代金の入金のタイミングをあわせることができるため、青田売りはほとんどの新築マンションにおいて採られている手法です。

 

ただ、消費者目線で考えるのであれば、完成住戸を見てもらって購入意思を固めてもらうのが本来の姿のはずです。過去には、ライオンズマンションを展開する大京が青田売りを中止し、竣工売りへと方針転換したことがあります。しかし完成在庫が積み上がり、金利負担が増えた結果、収益を圧迫するようになり、結局青田売りに後戻りしたのです。

 

結局デベロッパーの金利負担分や、販売経費がマンション価格に上乗せされることを考えれば、消費者の見地からも、青田売りには合理性があるということに至っています。

モデルルームが混雑していても惑わされてはいけない

そのモデルルームは、豪奢な調度品やスタイリッシュな家具でステージングされて、音楽やアロマとともに来場者に「素敵なライフスタイル」を提案します。また環境ムービーを多用してお客さんを魅了したり、青田売りであることを逆手に間取り変更やビルトイン家電のチョイス(有料の場合が多い)を可能にしています。

 

集中的に販売することで、広告費も効率よく投下できるし、何よりモデルルーム来場者を集中させて、賑わい感をもり立てれば、人気物件であることを演出、検討者同士の買いたい意欲をかき立てることができます。とても効率の良い販売方法と言えるでしょう。

 

ちなみに来場者プレゼントを多用するのは、買うために来場してほしいのではなくて、本当に買おうとしている人を煽るべく、さほどの関心のない人にも来場してもらうための撒き餌であり、モデルルームが混雑していても惑わされてはいけないのです。

 

一方、営業現場としては、何十戸とあるマンションについて、1戸につき1人の購入者を当てはめなければいけません。購入検討者を鳥カゴ(マンションの住戸価格表のことを指します)に、薄く広く、均して振り分けていくのです。もし価格設定を間違えると特定の住戸に申し込みが集まってしまうので、住戸位置と価格設定には気をもむところです。

 

通常、価格発表をする時期までは随分と時間をとります。その間に要望ヒアリングなどと称して、希望度合いの分布を測ることで、全体の販売価格総合計について、住戸別按分を調整し、部屋ごとの価格を決めるのです。

 

ちなみに販売戸数に対して、反応客数が少ない場合には販売時期を分散させます。第2期第3次とか小分けにするのです。もし申し込みが特定の部屋に集中した場合には、抽選を行って購入権利者を決めることになります。この抽選、公平に行われるはずですが、「希望住戸がハズれても、棟内で第2希望の住戸を買ってくれる」という人と、「希望住戸がハズれたらそのマンションは他のどの部屋も買わない」という人の2人がいた場合、どちらが抽選にあたりやすいか、事業者の思惑を読んで行動するのが得策です。

 

ところで、このような集中販売戦法で売れ残った物件が出てしまった場合、人件費をはじめ諸経費をかけて、ずるずると販売しつづけることは、大変効率の悪い販売方法として、デベロッパー側の収支を圧迫していくことになります。

 

そもそも価格が高いために売れないのですが、表立って値引きもできません。仮に販売当時、完売マンションであることを演出していたとすると、売れ残り物件はローンキャンセル住戸として、水面下の販売活動とせざるを得ず、一層売りにくくなってしまいます。

 

この場合、一般的なデベロッパーとしては、値引き販売をしてでも手仕舞いしたくなるのが普通で、マンション買取り会社に対し、残戸一括をいくらで買い取ってくれるかという問いあわせをすることになります。特にリーマンショック後にはそのようなケースが多くなり、結果「アウトレットマンション」などとマイルドなネーミングが添えられて、別会社から値引き物件として販売されることになったのです。

 

今では、仮にデベロッパーがマンション完成在庫をどこかの会社に引き取らせるとしても、「アウトレットマンション」などと称して再販売されるようだと、定価で購入した既存顧客からクレームがでてしまいます。そのため、価格は低くても、再販売しない相手先に売ることを重要視します。

 

購入した会社は一定期間、賃貸として運用することを絶対条件として、デベロッパーから残戸を安価で取得するのです。こうして購入する会社は、「将来売る予定があるが、しばらく賃貸中として寝かしておくマンション」を取得できることになり、まさにここで提案している「すみとらくん」事業用の物件を仕入れることになるのです(関連記事『空室率の算出方法はひどい…注意すべき不動産の「データ」とは』参照)。

 

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本記事は、筆者の個人的な解釈、見解を踏まえて書かれたもので、情報提供を目的としたものです。各種法規、税制に照らして検証されたものではなく、記載の内容と実際とが異なる場合もございます。筆者ならびに当社関係各社は、これにより生じた損害について一切の責任を負いかねますのでご了承下さいますようお願い申し上げます。

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