「税の抜け道」は、いずれ封じられる運命にある?
収益物件資産を保有していて、資産の入れ替えを検討する場合「事業用の買い換え特例」を検討するケースがあります。
事業用の買い換え特例とは、10年超保有の事業用資産を売却して、新規の事業用資産を取得した場合に、売却した資産の譲渡益について、一定の課税繰り延べが認められるというものです。
特に不動産価格が上昇している昨今、築古の資産を売却して、築浅のものに入れ替えたいという方は多いようです。ただ、この事業用の買い換え特例は、取得物件の土地が300㎡以上のものでないと、土地部分には適用されないという規定があるため、物件数が限定されてしまい、現実にはとても使いづらいものになっています。
なぜ土地が300㎡も必要なのでしょう。これは買い替えの際、売却で得た金額を「先に」土地購入に充当したと申告することにより、建物割合が増え、減価償却や経費算入の面で節税しやすくすることが出来るため、これを封じるために300㎡に変更されたという経緯があるのです。税金を取る側の思惑がちゃんとあるのです。
ところで、都心不動産の贈与、特に親から子への贈与がずいぶん増えているそうです。2016年は贈与税収ベースで前年比2倍とのことです。この背景はなんでしょう。2015年に相続税の基礎控除が縮小され、評価額の高い都心に自宅を保有しているだけで、相続税がかかるようになってきました。
ただ自己居住用で利用していく土地とそうでないものとは区別する必要があるし、みんながみんな相続税納税のために自宅を売らなくてはならないようではあんまりです。そこで相続人がその土地を居住用として継続利用するであろうことをひとつのモノサシとして、土地の評価減(小規模宅地の特例)が認められており、これに関係があるのです。
この特例が適用されるか否かでは相続税額に相当の差ができます。ここで、相続人が過去3年にわたりマイホームを保有していなければ、その相続土地を継続利用すると考えられるため、小規模宅地の特例を受けられるという規定があるのです。これを通称「家なき子の特例」と言っています。
この規定を逆手にとれば、あらかじめ自分の子供に自宅を贈与しておくことで、自分が「家なき子」になれたのです。だから贈与税を払ってでも、子供に贈与するケースが増えたという、そんなカラクリがあったのです。ただし、この抜け道も2018年には封じられてしまいました。
「税金を取る側の思惑は何なのか」を読み行動しよう
このように効果的な税務スキームが考案されると、封じ込め策が採られることがよくあります。記憶に新しいところでは、資産フライト税制(税率の低い海外へ資産を移す場合の要件強化)や、10年しばり要件(相続財産評価に絡む海外居住の年数要件強化)などの改正があります。不動産投資の分野でも、土地取得に要した金利の損金不算入、自動販売機税制(仕入税額控除を見越した消費税還付スキーム)、建物設備減価償却における定額法への移行などがあげられます。
つまり「税金を取る側の思惑は何なのか」ということを念頭において行動しなければなりません。税務の個別テクニックは今後もいろいろと出てくると思いますが、一貫して言えるのは、日本の税制は「個人」に対しては増税で、「法人」に対しては減税ということです。
少ない働き手で多くの高齢者を支えなければならない社会の到来を目の前にして、日本が医療、介護、年金、子育てを機能させるためには、所得水準が高い個人から所得税、資産を持っている個人から相続税(贈与税)をとっていかないと立ち行かなくなります。
反面、法人は国際競争力の強化、景気浮揚に直接影響があるとして減税する傾向にあります。国際的に高いとされていた法人税率は実効税率で30%を切るように改定され、今後も減税の方向にあると考えられます。また、起業が増えると納税者(法人)があらたに生まれることになるので、IT関連を中心に起業の後押しがさかんです。
この前提において、個人は収入を納める主体を、できるだけ法人としたほうが得策です。資産の保有についても同様です。税率自体も法人は低いのです。法人の設立、運営に関してのハードルも低くなった今、将来を見据えた、「自身と家族を守る装置」として個人会社の準備が求められると思いませんか。