戦後、大規模に整備された日本のインフラが、老朽化により崩壊の危機に直面しています。「物理的な寿命=耐用年数」について十分に議論されてこなかったため、思うように修繕が進んでいないのです。不動産投資も同じリスクを抱えており、物件の修繕、さらには解体まで想定することが重要であると、第一カッター興業株式会社で経営企画室長を務める石川達也氏は警鐘を鳴らします。本記事では、将来の補修や更新を意識した初期投資の基本的な考え方について紹介します。

将来の「メンテナンス」を意識した設計

突然ですが、ガスや石油の大型タンクは、どのように解体するか、ご存知ですか? 以前はタンクの周りに足場を構築し一番上から徐々に切り刻んでいくというのが一般的でした。時間も費用も掛かるうえに、危険な作業を伴うもので、非効率的な方法です。今は、リンゴの皮むきのように解体していく工法が確立し、より短期間で、より安全に、より安価に行えるようになりました。

 

プラント解体に特化したベステラ株式会社による「リンゴ皮むき工法」。ガスタンクや石油タンク等の球形貯槽の解体において、あたかもリンゴの皮をむいていくように大型タンクを壊していく
プラント解体に特化したベステラ株式会社による「リンゴ皮むき工法」。ガスタンクや石油タンク等の球形貯槽の解体において、あたかもリンゴの皮をむいていくように大型タンクを壊していく

 

そもそも、なぜガスや石油のタンクは効率的な解体方法が確立されたうえで建てられなかったのでしょうか。それは建設の現場は壊すことを考慮して新築の建造物が設計されることは稀であり、解体する時になって初めて解体についての設計がされることがほとんどだからです。筆者自身もインフラ構造物の維持・補修・解体の専門施工業者として長年携わってきましたが、これまで一度も新築設計図書(設計図面など)のなかに解体図面が記載されたものを見たことがありません。

 

これは、一般住宅や集合住宅にも広くあてはまることでしょう。解体を検討する際には、必ずその時になって初めて解体のやり方を検討することから始めるのです。そうすると、解体時にはちょっとした条件が重なることで、解体工事がやり辛くなったりします。やり辛いとはコストが増えることを意味します。

 

解体とまではいかなくても、メンテナンスにおける更新についても、綿密な計画の有無が将来コストに大きな影響を与えます。

 

新築の場合は一からの設計ですが、中古物件においても投資の際に少なからず室内設備を更新したり、クロスの張替えを行ったりと、多少なりとも手入れをすることがほとんどでしょう。入居してもらう人をイメージしつつ、内装や間取り、そして什器を考えるのは賃貸不動産投資の醍醐味や楽しみの一つです。その際に注意したいのが、チョイスする項目の更新のやりやすさです。

 

住居には時間と共に劣化が進行することで、更新(取り替え)が必要になるものはたくさんあります。そのなかでも更新にあたり「比較的簡単なもの」と「複雑なもの」に分けてみると以下のように分類できます。

 

賃貸不動産は経年と共に様々な設備の更新が必要となる
賃貸不動産は経年と共に様々な設備の更新が必要となる

 

更新のなかでも簡易な部類に入る項目として、電球などの簡単に取り替え可能な消耗品に始まり、水道のパッキン(Oリングといわれる止水用ゴムなど)や蛇口などの部分的なパーツなども消耗品として発生します。簡易という意味でドアや窓などの比較的大きなものまでを対象としています。

 

特に消耗品に関しては、時間が経てば交換が必須のものには「入手しやすいかどうか」が最も重要となります。入手の難易度とコストは比例関係にあるといっても差し支えないほど、入手困難なものはコストが高くなる傾向があります。額としては小さいかもしれませんが、頻度が高いだけに注意が必要です。

 

また、入手に時間がかかるようだと入居者にストレスを与え、緊急性が高い場合には追加の費用を出してまで急な手配が必要となることもあります。

 

照明を例にすると、ヨーロピアンテイストにこだわったアンティーク調の内装に統一した部屋の場合、照明器具もアンティークで手に入れることがあったとしても、その照明に使われる電球は汎用品であることを確認する必要があります。水道周りでも同じことがいえます、たとえ一風変わった見た目の製品を採用したとしても、消耗品にあたるパッキンやネジなどが日本にある規格とは違い簡単に入手できないとなると、後々大変な思いをします。

 

そして更新のなかでも複雑な部類に入る項目についてですが、これらの更新に際しては基本的にメンテナンス業者に見積りを依頼し、工事を伴った更新が行われることになります。最近の新築マンションでは将来の配管更新を考え、床下にスペースを設けて将来の工事を比較的やりやすくする構造がありますが、考え方は同じです。

 

中古物件の場合は、最初から部屋の構造が決まってしまっているので制御不可能ですが、購入の検討の際に明らかに規格外の部屋の形をしていたり、風呂やシンクなどの大物を搬入するには部屋の動線が狭すぎたり、様々なことをチェックする必要があります。

 

中古物件の場合は、やる・やらないに関わらず、リフォーム工事を想定し、見積りをとるようにしましょう。見積項目はフルリフォームとします。出てきた見積りをチェックすれば、更新時に工事がやりやすい物件なのか否かが見えてきます。

 

また工事費用が高くなる要因に物件の立地が絡むことがあります。工事をする業者のほとんどはトラックで物件までやってきて、場合によっては大物什器や工事用機械をトラッククレーンなどで部屋に移動します。その工事の際に、物件に至る道路が狭くてトラックが近くまで行けないとか、トラックは寄れても部屋までは人の手によってすべてのものを運び込む必要があるとなると、追加の作業員手配が必要です。さらに効率も下がることから工事費用が増額となってしまいます。

 

実際に、インフラ構造物の補修工事で多くの見積りを作成してきましたが、機材の搬入条件は必ず確認事項としていました。それによって見積金額も変動させてきたのです。更新対象物の値段もさることながら、工事を伴う更新の場合は、工事費用の占める割合の方が大きい場合が多く見られます。更新対象物の値段だけの検討では不十分です。工事全体の費用感を掴むことで、将来的に発生するコストを織り込むことができるのです。

事前見積りで、更新時の費用感を把握しておく

初期投資時に設備更新時の様々な見積りを取っておくことが重要
初期投資時に設備更新時の様々な見積りを取っておくことが重要

 

ここまで解説した部品の規格や値段、工事のやりやすさなどは、専門的な知識がないとポイントを掴むことも難しいと感じるでしょう。しかし初期投資の時点で可能な限り見積りを集めておけば、専門的な知識がなくても、更新時の費用感を算段することができるようになります。

 

新築・中古関係なく、初期投資時に水道周りのパーツごとの値段やドアを交換した際の費用、配管を更新する場合の費用などを見積もってもらうのと同時に、将来に関する見積りも依頼してみましょう。中古物件の購入で、仲介する不動産業者に専門的な細かな見積りを依頼するのは難しいことがあります。そのようなときは、リフォームを前提としてリフォーム業者に細かな見積りを頼めば、多くの場合は対応してもらえるでしょう。物件の様々な場所の補修・更新費用を把握できれば、10年スパンでの費用算出の精度が格段に向上させられます。

 

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