戦後、大規模に整備された日本のインフラが、老朽化により崩壊の危機に直面しています。「物理的な寿命=耐用年数」について十分に議論されてこなかったため、思うように修繕が進んでいないのです。不動産投資も同じリスクを抱えており、物件の修繕、さらには解体まで想定することが重要であると、第一カッター興業株式会社で経営企画室長を務める石川達也氏は警鐘を鳴らします。本記事では、アスベストの特徴とアスベスト関連病の増加が予測される背景について説明します。

ニュースを賑わす「アスベスト」の8つの特徴

いまでもニュースを賑わしている「アスベスト」。最近では、大阪市守口市の旧庁舎解体でアスベストの飛散があったとの報道がありました。アスベストの特徴をまとめると、以下の8項目があげられます。

 

1.鉱物であるアスベスト

・鉱物ながらも繊維形状で綿のようであることから、石綿と呼ばれる

・単繊維は0.02μm(1mmの5万分の1)と極めて小さい

 

2.夢の材料と言われたアスベスト

・不燃性・気密性・粘着性・耐性・絶縁性・防音性を兼ね備えている

・安価かつ加工が容易である

 

3.身近に存在する建材としてのアスベスト

・天井材・壁紙・床材・下地材・配管周りなどの内装材として使用

・ベランダ仕切り板・軒下天井・外壁・屋根などの外装材として使用

 

4.健康被害に繋がるアスベスト

・成分ではなく繊維形状に起因する発がん性

・空気中に浮遊する単繊維を吸引することで病気に繋がる

 

5.危険な状態は限られるアスベスト関連材

・剥離や削れが見られない安定状態の関連材はアスベスト曝露(ばくろ)の危険性は極めて少ない

・製造・加工過程や改修・解体過程が最も危険な状態

・経年劣化と振動で微量の曝露状態が続く天井材も危険

 

6.健康被害の症状が特殊なアスベスト

・吸引蓄積から発症まで平均40年という長い潜伏期間(静かな時限爆弾、サイレントキラー)

・潜伏期間には検査を受けても症状が発見されない

 

7.アスベスト被害の可能性がある条件

・職業性アスベスト曝露(アスベスト作業による曝露)

・建物被害アスベスト曝露(建物内の吹付け材等による曝露)

・環境アスベスト曝露(発生源の周辺での曝露)

 

8.今後増えると考えられているアスベスト被害

・アスベスト関連病である中皮腫だけでも年間1500名以上の方が亡くなっている

・アスベスト関連病全体では推計で3,000名以上が毎年亡くなっていると考えられる

・アスベスト関連病は使用量と潜伏期間を考えると今後さらに増えていく見通し

 

その利便性から利用が進み、使用禁止となった今でも身の回りに多くのアスベスト含有建材が存在しています。安定状態である使用状態のアスベスト含有建材は危険性が高いものは少なく、特段の処置は不要ですが、1900年代に設置された建物自体の寿命が訪れる今後は、安定状態にあるものを解体によって破壊することでアスベスト単繊維が空気中に拡散されるリスクが高まってきたと言えます。

 

建物の解体現場では、アスベストの飛散の危険性が付きまとう
建物の解体現場では、アスベストの飛散の危険性が付きまとう

アスベストの新規使用は「実質ゼロ」に

続いて、石綿(アスベスト)の規制の流れについて見ていきましょう。アスベストの規制が国内で始まったのは、1960年にまでさかのぼります。

 

1960~1991年

・5%超のアスベスト含有建材等の使用が禁止される

・労働安全・大気汚染の観点からアスベストを扱う場所での管理規制が制定

 

1995~2005年

・1%超のアスベスト含有建材等の使用が禁止される

・労働安全・大気汚染の観点からアスベストを扱う場所での管理規制が強化

・労働安全から石綿障害に関する事項を分離し予防するための法律が制定

 

2006~2014年

・0.1%超のアスベスト含有建材等の使用が禁止される

・大気汚染の観点からアスベスト関連工事の届け出義務が拡大、解体では事前調査義務化

・アスベスト関連工事の作業基準を強化

 

2016年

・石綿粉じん飛散防止処理技術指針により関連工事での細かな指針が示される

 

アスベストを取り巻く関連法規等は、当初5%規制から始まり、現在では0.1%規制と50分の1にまで規制が強化されてきました。現在でも0.1%以下のアスベスト含有率であれば使用可能ということになりますが、製造・販売はされておらず、実質的にアスベストの新規使用はゼロという状態になっています。

 

また、健康被害に着目した関連法規も年代と共に厳格化されており、1995年までは労働安全関連法規の一部として施行されていた規制も、同年に石綿障害予防規則としてアスベストに限定した健康被害に着目した法規へと独立して取り扱われるなど、今後訪れる健康被害の増加に向けて被害拡大を抑える取組みが強化されてきました。

「アスベストと無縁な人はいない」という認識をもつ

アスベスト被害の可能性がある人の中でも特に注意が必要なのは、以下のような方たちです。

 

・過去アスベスト製造過程に従事したことのある人

・アスベスト製品を扱っての作業をしていた人

・アスベスト除去の作業をしていた人

・アスベスト製品が身近にあり、振動の多い場所に長時間いた人

 

アスベストは安定状態では危険ではありませんが、細かく砕かれて空気中にアスベスト粒子が飛散する可能性がある場所にいた人は、少なからずアスベストを吸引していた可能性があり、リスクが高まったといえます。身近なあらゆる建材にアスベストが使用されていたことから、建材を扱って仕事をする建設業で作業をされていた方は、気が付かないうちにアスベストに触れ、吸引していた可能性があるといえます。

 

上記以外にも、危険性は相対的に低いものの、アスベスト関連病を発症した事例が出ていることから、リスクの高いといえる人たちがいます。

 

・アスベスト加工工場の近隣に住んでいたことのある人

・アスベスト除去が行われていた近隣に住んでいたことのある人

・アスベスト製品が身近にある中に長時間いた人

 

アスベストは非常に細かな粒子であることから、空気中に飛散すると非常に広範囲に渡って飛散をしてしまう特徴もあります。身近に多く使用され、気づかれずに加工や設置、解体(除去)が行われてきたアスベストなだけに、危険性の大小を除けば誰にでもアスベスト被害の可能性があるのです。

 

過去にアスベスト吸引があったからといって、すぐにアスベスト関連病にかかることはありませんが、危険は存在します。また発症までの潜伏期間に症状を発見することも難しいことから、対処法はこれ以上のアスベスト吸引を防ぐしかありません。

 

アスベスト使用のピークが20年程早かったイギリスでは、現在でもアスベスト関連病の発症者数が上昇していることから、少なくとも日本でもこれから20年程度はアスベスト関連病発症者数が右肩上がりで増えていくことが予想されます。

 

現時点でもアスベストが問題視され、ニュースでも目にすることがありますが、今後の発症者数を考えれば、より大きな社会問題へと発展していくと考えられます。

 

アスベスト被害を最小限に食い止めるには、これからのアスベスト飛散を最小限に食い止めることが最も有効な手段です。自身が知らないうちにアスベストの被害を受ける可能性もあることから、自己防衛だけではアスベスト被害を食い止めることは難しく、少しでも早くアスベストの危険性が社会問題として広く周知されることが望ましいでしょう。

 

多くの人に認知をしてもらい、どこにアスベスト製品が使用されていて、どのように処分されるかが明確になっていくには、法規制だけでは追いつきません。社会に認知され、社会全体で適正処分を後押ししていく必要性があるのです。

 

アスベストと無縁な人はいないという考えに立って、不動産オーナーは自身が所有する物件から適正化を進めてもらいたいと願っています。

 

 

※本文中には「アスベスト」と「石綿」という表現が登場しますが、同じ意味となります。アスベストとはオランダ語で、近年はアスベストの表現が多く使われるようになっていますが、各種法令や発表資料では石綿と表現されることがあり、本文中でも両方の表現が使用されています。

 

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