戦後、大規模に整備された日本のインフラが、老朽化により崩壊の危機に直面しています。「物理的な寿命=耐用年数」について十分に議論されてこなかったため、思うように修繕が進んでいないのです。不動産投資も同じリスクを抱えており、物件の修繕、さらには解体まで想定することが重要であると、第一カッター興業株式会社で経営企画室長を務める石川達也氏は警鐘を鳴らします。本記事では、家屋の中でアスベストが使われている可能性があるのはどこなのか、具体的に見ていきます。

「夢の材料」ともてはやされたアスベスト

アスベストとは地中で生成される鉱物の一種です。鉱物とはいうものの、綿のように軽いことから石綿(いしわた・せきめん)と呼ばれています。軽さの理由は繊維状の形状にあります。その繊維が極めて細いことから(アスベストの繊維一つ一つは0.02μm(=1mmの5万分の1)と極めて小さい)、材料としての多くの長所はあるものの、長期間大量に吸引をすると、肺がんや中皮種の誘因となることが指摘されています。

 

アスベスト単繊維は非常に小さい
アスベストと小さな粉塵、花粉との大きさの比較 アスベスト単繊維は非常に小さい

 

アスベストは、加工や破損のときに空気中に飛び散り、人が吸い込むことで肺に長期間にわたって留まってしまいます。多くのアスベストを吸い込むと徐々に肺の中で累積されていき、何十年も経ってから病気を引き起こします。アスベストはその成分が原因で病気を引き起こすのではなく、その形態が発がん性を持っているというのが大きな特徴です。症状の一つである中皮種は、アスベストを吸い込んだ後30年から40年後に発症することから、アスベストはサイレントキラー(静かな時限爆弾)と表現されることがあります。

 

写真:国立科学博物館
石綿の種類と発がん性 写真:国立科学博物館
 

 

現在は使用が禁止されているアスベストも、石綿関連法規によって禁止されるまでは広く使用されていました。その長所として、燃えないことから不燃材料として耐火建築物や耐火構造物に、気密性が高いことから断熱材・保温材・吸音材に、軽いことから屋根や天井などに使用されています。加工が容易なこともあり、布状・帯状・糸状など加工品としての形状は様々であり、粘着性が高い特徴もあったことから塗料やセメントに混ぜて使用される手法も普及していました。

 

さらには頑丈という特徴もあり、強い力や摩擦のかかる場所にも使用され、絶縁性・防音性まであることから「夢の材料」として建設資材・電気製品・自動車・家庭用品に至るまで、ありとあらゆる場面で活用されていました。アスベストはその長所だけをあげれば、他に替えのない程の多機能かつ安価な夢の材料とだったのです。

建物の寿命は50年…様々な場所にアスベストは残る

1900年代後半に急速に普及したアスベスト含有製品は、前述の長所から様々な場所で利用がされてきました。使用が中止されてから20年近く経過していることから、電気製品・自動車・家庭用品としてアスベスト含有製品が残っているケースは少なくなってきていると言えますが、建設資材はそもそも建物の寿命が50年超と長いことから、現時点でも様々な場所に残っています。

 

国土交通省発行の『目で見るアスベスト建材(第2版)』においては、アスベスト含有建材の使用部位例として、RC・S造において40部位、戸建て住宅で12部位が紹介されていますが、多過ぎてあまり理解できない状態となっています。

 

出所:国土交通省『目で見るアスベスト建材(第2版)』より抜粋
家の中でアスベストが使われている可能性がある部位 出所:国土交通省『目で見るアスベスト建材(第2版)』より抜粋

 

それでは数多くあるアスベストが使用されている可能性がある建材の中でもいくつかを具体的に紹介していきます。あくまでも使用可能性があるだけであり、見た目が同じでもアスベストが使用されているかどうかは専門の調査が必要となります。

 

アスベストは製品として設置されている間は安定状態であり、危険性は極めて小さい特徴があります、自身の周りに疑わしいものがあった場合でも慌てる必要はありません。

 

天井用断熱材、吸音材、結露防止用としてアスベスト含有のひる石(バーミキュライト)を吹付けた天井です(左写真)。現在でもひる石(バーミキュライト)を使用した天井材はありますが、アスベストは含まれていません。成形版として使用されるケース(右写真)では不燃・吸音天井板として使用されていることが多いのが特徴です。その為、学校・講堂・病院などでの使用が多くなっています。

 

アスベスト使用の可能性がある天井例

 

壁紙そのものにアスベストが含まれるものも存在します。製品としてはアスベスト含有の紙に表面化粧を施した壁紙となります。不燃材料としての性質と修繕・張替えが容易にできることから、内装制限が適用されているオフィスビルの廊下やスポーツ施設、商業施設などを中心に使用されていました。

 

アスベストの使用の可能性あがる壁紙

 

ビニル床タイル(Pタイル・左写真)にもアスベストが含まれていることがあります。事務所、病院、公共施設で多く使用されていますが、住宅の場合でも洗面所や台所の床材として使用されていることがあります。また、表面床材は大丈夫でもその下(下地)にアスベスト含有建材が使用されていることもあります。これは床だけに限った話ではなく、壁材の下地にアスベストが含まれるケースも存在します。こうした隠れた場所のアスベストは解体時などに全体調査をしないと発見しにくい存在となります。

 

アスベスト使用の可能性がある床材

 

保温材として配管を保護する形で利用されてきたケースです。配管は壁の裏側や天井裏などの見えない場所にあることから、発見しづらい場所とも言えます。ただ、住宅ではあまり配管保温の必要がないことから少なく、工場・倉庫などの産業用目的の使用が多いのが特徴です。

 

アスベスト使用の可能性がある配管まわり

 

不燃材料としての性能に加えて高強度・強靭性をもつことから防火材としてベランダの仕切り版(左写真)として使用されてきました。また軒下の天井部分にも軽量・耐火性・断熱性に優れていることから使用されてきました

 

一般住宅の外壁材としても使用されてきました(左写真)。防・耐火性能だけでなく、耐震性、耐久性が高く、壁体内通気が取りやすいなどの特徴があります。

 

アスベスト使用の可能性がある一般住宅の外壁

 

また、倉庫や工場でよく見かけるスレート波板(左写真)にもアスベスト含有材が多く存在します。見た目で波を打っているのでスレート波板と言います。こちらも強度があることに加えて軽量であることから利用が進みました。実際にアスベスト規制が進む前に建設された倉庫などに使われたスレート波板はアスベスト含有であることが多いと感じています。壁・天井材は大丈夫でも、内部の鉄骨にアスベストを含む吹付材が利用され、アスベストが何かしら存在する可能性が高いと感じています。

 

アスベスト使用の可能性あがるストレート波板

 

先ほどのスレート波板の天井も含みますが一般住宅にもスレート材が使用されています。波板ではなくとも住宅屋根用化粧用スレートと言われる材料となります。セメントに補強材としてアスベストを混入しており、平板状などに成形した屋根材となっています。

 

 

アスベストが存在しても、すぐに処置が必要ではない

身近にアスベストが存在する可能性があることを、具体例にて紹介してきました。何度も言いますが、アスベストが含まれる建材が見つかったからと言って慌てる必要はありません。建材はアスベストを材料に混ぜて固めた状態、つまりアスベストの特徴である非常に小さな繊維が製品の中に押し固められ、身動きできない状態にあります。アスベストの発がん性はアスベストの成分にあるのではなく、その非常に小さいという形状にあります。製品として封じ込められている状態は安定状態であり、そのまま置いておいても危険性はありません。

 

ただ、不用意に傷つけたり壊したりすると、破壊された部分から舞い上がるホコリの中にアスベスト粒子が含まれる可能性があり、危険性が発生します。

 

アスベストが疑われる場合にはまず調査、そして発見されたとしても改装や解体が必要なタイミングまでは、そのまま処置をしなくてもあまり問題はありません。

 

その代わり、解体時にはアスベスト処理の報告が義務付けられていたり、法律に則り処分する必要があったりします。まずは自身が所有する物件の建築年代が2006年以前の場合には、調査をしてみることをおすすめします(一部2006年以降でも違法にアスベスト含有建材が使用されていることもあります)。

 

 

 

※本文中には「アスベスト」と「石綿」という表現が登場しますが、同じ意味となります。アスベストとはオランダ語で、近年はアスベストの表現が多く使われるようになっていますが、各種法令や発表資料では石綿と表現されることがあり、本文中でも両方の表現が使用されています。

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