不動産経営で収益悪化…知られざる「アスベスト」のリスク

戦後、大規模に整備された日本のインフラが、老朽化により崩壊の危機に直面しています。「物理的な寿命=耐用年数」について十分に議論されてこなかったため、思うように修繕が進んでいないのです。不動産投資も同じリスクを抱えており、物件の修繕、さらには解体まで想定することが重要であると、第一カッター興業株式会社で経営企画室長を務める石川達也氏は警鐘を鳴らします。本記事では、筆者が不動産オーナーに最も意識してほしい物件の「解体投資」、そして「アスベスト」について説明します。

将来発生するコストを「コントロール」する

筆者は不動産投資のコストを「初期投資」「継続投資」「解体投資」に切り分けて検討すべきと考えています。新築・中古問わず初期投資は見えやすく、検討段階で多くの時間を割きますが、あなたが設定する投資期間(新築から解体まで物件のトータルライフにおけるどの期間に投資をするか)のなかで、日常発生する様々なコストから、投資期間終了時に発生する解体コストやリセールバリューまでのトータルライフサイクルコストを計算に入れなければ、本当の収益計算とはいえないからです。

 

[図表1]「攻め」の事前コストと「守り」の事後コスト

 

保有物件の収益率の向上のためには「収入を上げる」「費用を下げる」の2つの切り口が存在しますが、費用については継続・解体コストの把握が必要であり、中・長期といった投資期間に関係なく、トータルライフコストという概念が必要不可欠な要素となってきます。

 

物件は時間と共に劣化が発生し、大小さまざまな頻度・金額でコストとして発生してきます。メンテナンス費用は一般的には時間経過と共に、その発生頻度・コストが増大していく傾向がありますが、どのようなコストが発生するかを把握することで、事前の対策が打てる項目が存在します。コストには、発生してから対応する「守り」のコストと、予防・保全を事前にすることによって将来コストを低減させる「攻め」のコストがあります。

 

[図表2]「攻め」の事前コストと「守り」の事後コスト

 

賃貸用不動産オーナーに当てはめてみると、攻めのコストとは具体的には「各種配管の定期洗浄」「外壁メンテナンス(漏水対策)となります。目に見える部分の対策は進みやすい一方で、配管や細かなひび割れ等の漏水対策は「問題が起こってから」対応する守り型になりがちですが、問題が起きてからでは大きな費用が発生してしまうことから、計画的なメンテナンスが重要となります。

 

いつ発生するかわからないコストは不動産運用においてリスクが高いことから、計画的な攻めのコストによって、ある程度費用を見える化できますし、予期せぬ大きなコストを抑えることにもつながります。こうしたコストをコントロールするという考え方を持つことが、不動産運用という経営においては持っておくべき考え方となります。

 

しかし賃貸用不動産投資において、リセールバリューを考慮に入れることはあっても、解体について検討することはほとんどないのが現状です。明確な投資期間を設定している方であれば、その終了時にいくらで売却できるかを見積ることもあるかもしれません。しかし、あまり投資終了時の検討に時間を使うことはありません。

 

しかし、解体に伴う費用にも様々な要素が存在し、「解体」「処分」「整地(原状回復)」の項目別の費用が発生します。解体費用が大きくなることが明確であれば、リセールバリューも低下することから、どんな投資期間の設定であっても、解体についての検討をすることは必要です。

「アスベスト」の存在で解体費用が急騰する可能性

筆者が賃貸不動産オーナーに最も伝えたいリスクが、アスベストの存在です。アスベストとは、一つひとつの繊維が非常に小さい(単繊維で0.02μm、1mmの50,000分の1)好物ですが、人が吸い込むことで肺に長期間にわたって留まり、中皮種などの症状を引き起こす原因となっています。その潜伏期間は30年から40年と長く、潜伏期間には何の症状も出ないことから「サイレントキラー(静かな時限爆弾)」と表現されています。

 

アスベストの危険性が知れ渡る前にアスベスト含有製品が流通したこと、また、アスベストはその性質から加工がしやすく、高機能、そして安価という三拍子揃っていたことから爆発的に建材として使用がされてきました。

 

その危険性が認知され、年代を追って使用基準が厳格化されたことにより、実質的には2006年以降、アスベスト含有建材はほとんど使われなくなりました。しかしそれ以前は、外壁から内装までありとあらゆる場所に、壁紙からボード・塗装・タイル・屋根材など形も様々に使用されていました。

 

そして2019年現在では、解体にあたりアスベストを分離処分することが法律によって定められています。アスベストの分離(除去)は、その使用状況によって莫大な費用が必要となるケースがあります。筆者の勤める会社でも、不要となった守衛所を解体するにあたり、アスベストがあることがわかったのですが、解体費用が250万~450万円にほぼ倍増してしまった経験があります。将来発生する解体コストが上がれば、リセールバリューも低下しますし、不動産投資の収益も悪化してしまうのです。

 

不動産オーナーは、まずは現状の認識が必要となります。「建築年代のチェック」「建築図面のチェック」によって、疑わしい年代であったり、図面にアスベスト使用が明記されていたりする場合は、改めて専門家に調査を依頼することをおすすめしています。

 

それによってどこにアスベストがあるのか、それを処分するにはどれくらいの費用がかかるのかを把握することが可能となります。アスベストの処分は高額になるケースと、ボードのような成型板に使用されているケースなどは、そこまで処分費用がかさまないケースもあります。対象となるアスベスト含有建材がどこにあるのかがわかれば、費用も見えてくるので、まずは慌てずに冷静な対応が重要となります。

 

健康被害の観点からも、アスベストは安定状態では危険性が発生しないという特徴があることから、むやみに破壊をしなければ、居住者や近隣にも影響が出ないことから、時間をかけて正しい把握をすることが求められます。

 

正しい把握をした上で、解体時にアスベスト処分をするのか、事前に処分を済ませてしまうのかなどの対応方針を決めればいいのです。

 

また不動産投資家のなかには、中古物件を取得して運用をしている方も多くいるでしょう。アスベストの適正処分は、物件オーナーの責任の下で行うことが義務付けられていることから、これから取得する物件に関しては「アスベスト調査結果」を確認することが必須の防衛手段となってきます。

 

アスベストに関する法令では、ほとんど逃げ道がないほどに整備が進んでいますが、民間アパートやマンションの解体においてアスベストが適正処分されている割合はまだまだかなり低い水準となっています。法令遵守が進まない原因は、法令の周知不足や費用負担となっていますが、どちらにしても、中古不動産取得時のリスクとして「知らずにアスベスト含有物件を買ってしまう」ことです。

 

アスベスト調査結果を確認してその存在がわかっていれば、取得しない選択肢もありますし、その分の値引き交渉もできます。調査結果だけを鵜呑みにするのも危険なので、現地確認は事故調査も含めて必要な手順となります。信頼できる不動産業者を見極める観点においても「アスベスト」という不都合な真実に対して、しっかりと相談できる相手を見つけることが最も重要です。

 

第一カッター興業株式会社 経営企画室長

1979年生まれ、静岡県静岡市出身。途中一年休学でのイギリス留学を挟んで2003年に上智大学物理学科卒。りそな銀行の一期生となるが入社1ヵ月後に国有化を経験。その後、2004年に第一カッター興業株式会社に入社、一年目は超高圧水にてコンクリートを破壊する職人を経験、その後札幌・千葉営業所所長を経験しながら2016年ビジネス・ブレークスルー大学院に入学、2018年に卒業し経営学修士(MBA)を取得。2018年より経営企画室業務を行い、経営全般のサポート業務および戦略立案から立ち上げまでを行う。
保有資格は高所作業車や移動式クレーンから宅建、保険販売と幅広い。
趣味は旅行で学生時代はバックパッカー、趣味と実益を両立するためにも海外進出を画策中。

著者紹介

連載日本の建物が危ない!インフラメンテナンスの専門家が提唱する「修繕&解体」を見据えた不動産投資

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