全国で空き家が増え続けていますが、その活用法として宿泊施設への転換が注目されています。本記事では株式会社SRコーポレーションで不動産コンサルティングを行う高澤啓氏が、戸建での旅館業経営について解説していきます。

空き家の戸建てを「旅館業」で有効活用

転勤や引越しのため、使わなくなってしまった戸建ての自宅はありませんか。

 

「いずれあの家に戻るかもしれない」

「いつか誰か親戚(子供)がいつか使うかもしれない」

 

と考えて、そのまま空き家として放置している方は多いのではないでしょうか。空き家のままにしておくのは経費ばかりがかかりもったいないので、ぜひ、活用したいものです。

 

では、空き家の有効活用法として「旅館業」があるのをご存じでしょうか。「住んでいた家を旅館業に」といわれても、なかなかピンとはこないでしょう。「そもそも戸建ててなんかに旅行者が泊まるのだろうか?」といった疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか。実は、「戸建ててに泊まりたい」という旅行者のニーズは高まっています。

 

みなさんが家族旅行する立場になったときを想像してみてください。都心のホテルを、二人一部屋で何部屋か予約するとしましょう。せっかく家族で旅行をしているのに一体感のなさに加え、周りの旅行者に対して気を遣うことにもなり、さらに料金も高い……。それが、もし家族で自分の家のように使える戸建ててが旅行先にあれば、周りの目も気にせず、家族だんらんを楽しみながら旅を満喫できるようになります。

 

地方の温泉宿にでも行けばこのような旅館もありますが、都心部は旅館が少なく、狭小ホテルばかり。さらに1人部屋や2人部屋が多いため、家族旅行には適しません。海外からの旅行者であれば家族客が多く、2020年開催の東京オリンピックの影響もあり、特に都心の戸建てては旅館業に向いているといえるのです。

「旅館業」とみなされる条件は?

では、旅館業を行うにはどのような条件が必要でしょうか。旅館業法(1948年法律第138号)において、

 

旅館業とは、「施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」であることとされ、「宿泊」とは「寝具を使用して施設(ホテル、旅館等)を利用すること」

 

とされています。この「営業」とは宿泊施設の提供が「社会性をもって継続反復されるもの」という部分に該当するかどうかで判断されます。旅館業にあたるかを判断する4つの判断基準として、

 

① 宿泊料徴収の有無

② 社会性の有無

③ 継続反復性の有無

④ 生活の本拠かどうか

 

という基準になります。1つひとつ見ていきましょう。

 

まず「①宿泊料徴収の有無」です。「宿泊料」の定義ですが、宿泊する料金以外にも、休憩料金、寝具賃貸料、クリーニング代、光熱費、室内清掃料なども含まれます。食事サービスや、テレビ使用料、ランドリー使用料など、宿泊に絶対必要なものではないサービスなどは、関係ありません。つまり朝食が付いていても、付いていなくとも宿泊料が発生しているものになります。

 

ただし、食事代が社会通念上食費の対価として考えうる額を上回る場合は、実質的な宿泊料を支払っていると判断され、旅館業に該当する場合もあります。

 

次に「②社会性の有無」についてです。ここでいう「社会性がある」とは、人を泊めるという行為のうち、友人や親戚を泊めるという範囲を超えたものを指します。たとえばインターネットを通じて、不特定多数の宿泊者を募集することは、「社会性がある」とみなされます。

 

続いて「③継続反復性の有無」についてです。たとえば年に1回(2~3日程)の自治体のイベントなどで、宿泊施設として使わせてほしいと要請を受ける場合など、公共性の高いものは継続反復性がないと判断されます。一方、インターネットを通じて定期的に宿泊者を募集している時点で旅館業に該当します。なお、公共性の有無に関してはガイドラインを参考にしてください。

 

最後に「④生活の本拠かどうか」です。宿泊施設の使用期間が1ヵ月未満の場合や、1ヵ月以上であっても、部屋の清掃や寝具の交換提供等を施設提供者が行う場合は、旅館業に該当します。つまり利用者自身が、生活の本拠にしているかということです。1泊2泊や1週間単位で施設を利用したとしても、利用者の生活の本拠とはなりません。

 

また、宿泊滞在期間が1ヵ月を超える場合でも、施設の衛生維持管理者が施設提供者(営業者)にある場合、当該施設は利用者の生活の本拠ではないとみなされ、旅館業に該当します。

「民泊」と「旅館業」はどこが違うのか?

「民泊」という言葉は、多くの方が聞いたことはあるでしょう。では「民泊」と「旅館業」の違いはどこにあるのでしょうか?

 

民泊とはホテルや旅館などの宿泊施設の代わりに、一般家庭の空き部屋を有料で旅行者に提供することです。これまで民泊は、宿泊施設の不足する地域において、国体などのイベントや修学旅行で一時的に多くの人が訪れるような場合に活用されてきました。この場合は旅行業に当たらず、自治体やイベント主催者が、受け入れ家庭を募集するという名目でした。

 

その後、新しいサービスとして登場したのが、インターネットを活用した民泊の仲介でした。世界の旅行者に民泊情報をウェブ上で提供するAirbnb(エアビーアンドビー)は、2008年創業の米国の企業で、貸したい空き部屋を登録しておくと借りたい旅行者が申し込む仕組みで、日本でも2万件以上の登録物件がありました。

 

しかし、旅館業に当たる実態がありながら営業許可を得ていない貸し手が多いと見られ、賃貸物件を無断で転貸する不正行為、いわゆる「ヤミ民泊」が増えてきたため、2016年には旅館業法施行令を改正し、民泊を民宿と同じ簡易宿所と位置づけ、営業許可を取りやすくするよう面積基準などの規制を緩和しました。

 

さらに営業日数の上限を年間180日とするなどの条件付きで、民泊を全国解禁するため、2018年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されました。この民泊新法により、旅館業と民泊とでは、1年で倍近くの稼働率に差が出るため、非常に大きな差になってしまいます。また必要な許可を得ずに宿泊営業を行った場合は、罰則の対象となるため、いわゆる「民泊」は注意が必要となります。

 

つまり、戸建ててを民泊ではなく旅館業として貸すことができれば、民泊以上の収益性や遵法性を保つことができる可能性が高いということです。

旅館業法政省令改正による緩和と影響

さて、話を旅館業に戻します。改正旅館業法により、ホテル営業および旅館業を統合し、営業種別として新しく「旅館・ホテル営業」が設けられました。このことを受けて、旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準を新たに定める、旅館業法施行令と衛生管理要綱も2018年1月に改正されました。

 

この改正により、最低客室数や玄関帳場の設置などの構造設備要件が撤廃や緩和が行われました。下記にて大きな改善点をまとめてみました。

 

出所:厚生労働省「旅館業における衛生等管理要領の改正」
改正旅館業法の主な改善点 出所:厚生労働省「旅館業における衛生等管理要領の改正」

 

最低部屋数5部屋の基準が撤廃されたことにより、戸建てても旅館業取得しやすくなり、また玄関帳場の電子化が認められたことで、無人の受付も可能になりました。

ここまでを見て、ほとんどすべての建物で旅館業が可能なように思えますが、旅館業を営むためには旅館業法だけではなく、建築基準法と消防法の理解も必要になってきます。

旅館業における「建築基準法」と「消防法」

建築基準法は建物建築においてもっとも基礎となる法律で、建物の用途で建築基準が比較的に緩やかな「一般建築物」と、様々な厳しい建築基準を設けられた「特殊建築物」とに分けられます。

 

そのなかで、旅館業と呼ばれる、旅館・ホテル営業、簡易宿所営業の許可取得が可能な建物は、建築基準法上では「特殊建築物」のなかの「ホテル又は旅館」に該当するため、通常の住宅よりも厳しい建築基準を課されています。

 

どういった戸建ててが条件を満たすかは、各自治体によって要件が変わります。必ず物件所在の役所に確認しましょう。

 

続いて、消防法に関してです。消防法は火災を予防することにより国民の生命や身体、財産を火災から守り、火災や地震などの災害被害を軽減することなどを目的とした法律です。

 

火災から宿泊客の安全を確保するために、ホテルや旅館などの宿泊施設は、「防火対象物」として指定されており、消防用設備などの設置、防火管理の実施などの防火安全対策を守ることが義務づけられています。旅館業を始めるには、消防法令に適合していることを証明する「消防法令適合通知書」が必要です。対象物件所在の消防局に問い合わせる必要があります。

 

戸建ててレベルの大きさであれば、消火器の設置や漏電火災警報器や誘導灯・誘導標識が必要になります。細かな部分を含めて、専門家に相談・確認をしたほうが確実です。

戸建ててが「旅館業」に向いている3つの理由

戸建てを利用した旅館業経営は不動産投資のひとつの手法として知られていました。そのようななか、2018年の法改正で最低客室数の制限が撤廃されたことにより、さらに始めやすい投資手法となったのです。そのようにいえる理由は、大きく3つあります。

 

まず戸建ててには管理組合が存在しません。区分マンションで旅館業や民泊を営もうとしても、不特定多数の宿泊者が共有施設を利用することを嫌う他の入居者がいるため、管理組合の規約で又貸しや民泊、旅館業、スモールオフィスなどを禁止していることがほとんどです。

 

つまり分譲型の区分マンションでは旅館業や民泊を営むことは厳しいですが、戸建てての場合は管理組合による禁止もありませんので、自分の意志で始めることができます。

 

次に、戸建てての場合は広さにもよりますが、リビング以外にも2部屋以上あることが多く、4人家族や5人家族、ソファーベッドの活用によっては8人宿泊なども可能になることから、家族旅行者にリーチできます。

 

特に都内のホテルは狭小ホテルが主流。家族全員で泊まれる部屋となるとスイートルームなどになってしまい、料金も恐ろしいほど跳ね上がります。そのため、家族旅行者は2人部屋を3つ4つ予約することも多く、結果として家族旅行なのに、寝るのは別々といったケースも生まれています。

 

ところが、戸建てての場合は、前述したように家族全員でリビングを共有できるため、一家団欒を旅先でも実現できるため、特に海外からの家族旅行者に重宝されます。またスイートルームや、ホテルの部屋を複数借りるよりも割安で泊まれることも、有利に働きます。

 

一棟アパートや一棟マンションの場合もオーナーは1人であるため、管理組合を気にすることなく旅館業には向いています。しかし1Rタイプの一棟では、家族向けの稀少性といった部分で戸建ててに軍配が上がります。

 

最後に、旅館業を取得するためには建築基準法への適合や、消防法を遵守するための設備が必要ですが、この点も戸建てては有利です。一棟アパート・マンションの場合、旅館業をクリアするために、階段の位置や構造など大きなリフォームを要する場合があります。戸建てての場合は軽微なリフォームで済むケースが多く、なかには何も改築しなくても旅館業申請できてしまう戸建ててもあるのです。

 

 まとめ 

ここまで「使わなくなった自宅の活用法」として「旅館業経営」について説明してきましたが、これは新築で始めることもできる話です。また、エリアや建物構造によっては、通常の賃貸経営よりも旅館業で運営した方が月々の収入が倍以上になるケースもあります。

 

しかし、「旅館業経営」は専門的な知識も必要になります。興味のある方は、一度、専門家に相談するといいでしょう。

 

本連載は、株式会社エワルエージェントが運営するウェブサイト「Estate Luv(エステートラブ)」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら

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