日本では、「会社も個人も借金はないほうがいい」という考え方が根強く残っている。これは「人から借りるのは恥ずべきことで、コツコツとお金を貯めることこそが美徳である」という文化が続いてきたからだろう。しかし、お家騒動で有名になった株式会社大塚家具が長らくしていたような「無借金経営(銀行からの融資がない状態)」だと、支援を受けにくいという皮肉な現象も事実である。借りたほうがいいのか? また、返せなくなったらどうすべきなのか……。

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会社状況や将来像が融資の可否に直結するわけではない

◆クレジットヒストリーという考え方

 

米国でビジネスをしている人は、常にクレジットヒストリーを意識して支払いを行っている。なぜならば、カード会社や金融機関に対して、返済もしくは支払いをしたという実績を残すことにより、次の融資を受けやすくなるからである。

 

クレジットカードの利用限度額は、基本的に利用実績に応じて引き上げられる(年収が大幅に減少した場合などは除く)が、これはカード会社が「いくら借りたのか?」というよりも、「いくら返せたのか?」によって判断しているからである(そうでないと、カードを使えば使うほど限度額は少なくなり、最後には使えなくなってしまう)。この考え方を踏まえれば、「現金で支払う=どこにも実績が残らない」ことになるため、米国では「借りて払う」のが基本となっているのだ。

 

◆借入れのノウハウ本はいくらでもあるが……

 

「資金繰りのノウハウ」や「銀行からスムーズにお金を借りる方法」などの書籍をたくさん見かけるが、どれも「会社の状況や将来像を、どれだけ銀行に理解してもらえるか」を中心に説明している。

 

確かに間違いではないが、実際は会社の財務状況だけでなく、銀行の決算状況や、そこの支店(支店長)・担当者のノルマ達成状況によって著しく異なる。

 

10年ほど前、銀行が海外取引をしている会社に対し、為替デリバティブ商品をすすめるかわりに、融資に手心を加えているケースを指摘されたことがあった。その結果、たくさんの事案が金融ADR(金融分野における裁判外紛争解決のための機関)に持ち込まれたのも記憶に新しい。

 

現在は、かつて運用されていた「金融検査マニュアル」などをベースに、金融庁の厳しい管理下に置かれているとはいえ、会社が融資を受けられるかどうかは、いまだに「担当者次第」なのである。この辺を理解せず、マニュアルどおりの事業計画書を作っても残念な結果となる。

 

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◆返せなくなったら破産するしかないのか?

 

日本では上場企業や政府系金融機関を除いて、会社で借入れをする場合には、代表者の個人保証が求められる。そのため、会社が返済できなければ個人に請求がいき、個人が返済できなければ、破産して債務を帳消しにすることになる。

 

しかし、中小企業の経営者で自己破産している方は最近見かけない。これは、2009年12月に施行された「中小企業金融円滑化法」で、会社側からの返済猶予や金利の減免などの要望に、銀行が対応することを義務付けられたのが要因だ。つまり、個人保証の前に「返済猶予」という選択肢が与えられたのだ。

 

この法律はすでに失効しているが、金融庁からの通達で同様の事項が発令されているため、いまだにその効力は持続している。破産などしたものなら、「銀行の支援打切りによる倒産」となり、銀行側の姿勢が問われることになる。

税理士が解説!銀行への返済よりも、事業内容の改善を

◆銀行返済は後回しにすべし

 

「銀行への返済を止めてしまうと信用を失い、商売ができない」と考えているため、資金繰りがショートしたとき、「仕入先への支払い延期」「賞与のカット」「外注経費の削減」「オフィスの移転」「リストラ」などを実行し、もうどうしようもなくなってから銀行のリスケ(返済猶予)の申し出をする会社が多い気がします。

 

銀行のリスケを後回しにする経営者も多いが…
銀行のリスケを後回しにする経営者も多いが…

 

しかし、いろいろやりつくしてから銀行の返済をストップしたとしても、その姿勢が評価されて追加融資を受けられるかというと、そうではありません。そのような状況では、どちらにしろ追加融資が難しいため、先に返済をストップし、猶予期間中に傷の手当てや手術(仕入先の変更、縮小のための移転、雇用調整)をすべきなのです。

 

体力がなくなってからでは、手術もできません。返済をストップしたお金で、まずは改善計画を実行すべきなのです。

 

◆状況が悪くなって初めてメインバンクの出番が……

 

複数の銀行から借入れをしているケースで、すべてストップするならいいのですが、減額の場合は各銀行でプロラタ計算(按分計算)をすることになります。

 

担保があったり、保証協会の保証を付けていたりと、それぞれ保全状況が異なるので、各行と交渉して調整することになりますが、この場合はメインバンクにリードしてもらうことになります。条件を競わせるため、どの銀行がメインバンクかわからないような借方をしている会社も見かけますが、こういう時のためにも、担保提供やメインの売掛金入金口座、手形決済などで、どこがメインかわかるようにしておくべきなのです。

 

◆銀行もリスクを負って貸し付けている

 

銀行は、融資先の財務状況が悪くなると、一定の引当金を計上しなければなりません。格付としては正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先と区分されています。実質破綻先や破綻先となると、貸付金に対し100%の引当金を設定しなければなりませんので、そんな会社にはその後の融資はできません。つまり、自分の会社の格付がどれかを理解していないと、ほかの支払いよりも優先して一生懸命に返済しても、意味がないことになります。銀行もビジネスとして(リスクを負って)貸し付けているので、経営者は悩みすぎて命を絶つ必要などないのです。

 

 

内藤 克

税理士法人アーク&パートナーズ 代表社員/税理士

著書に『残念な相続』(日本経済新聞社)など

 

 

 

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本連載に記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり(2019年8月)、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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