税制改正大綱発表、海外不動産節税スキームへの影響を最速解説

会計検査院の平成27年度検査報告で「中古海外不動産に対し、日本の減価償却の特例を用いるのは合理的でない。財務省はこの制度を見直すべき」と指摘されてから3年。いつ改正されてもおかしくないといわれながら、節税目的の海外不動産は買われ続けていた。今回、自民党の税制調査会が公表した「税制改正大綱」でその全貌が明らかになったので解説したい(あくまでこの大綱通りに改正されるという前提である)。税理士法人アーク&パートナーズの内藤克氏が語る。

税制改正大綱発表、「海外不動産節税」封じ込めへ

検査院が指摘したのは「各国の不動産は、気候や構造の違いにより、滅失までの期間が大きく異なるにもかかわらず、昭和26年から見直しされていない<中古資産の耐用年数の簡便法>(耐用年数を経過した古い建物については、耐用年数の20%の年数で償却してよいという制度)を適用するのは合理的でない」というものであった。

 

さらに減価償却で節税を図った場合、短い耐用年数で償却したあとは、減価償却の計上ができなくなるため、納税に転じるはずにも関わらず、いわゆる「売り逃げ」により低い税率(分離課税)の課税で「永久節税(繰り延べでなく税率差を利用した節税)」ができることも問題視されていた。

 

これらを受けてまともに改正すると、車両や機械も含む耐用年数(簡便法含む)を見直すだけでなく、分離課税制度の見直しにも着手しなければならなくなり、税法の根幹を揺るがす大議論となりかねなかった。さらに消費税の軽減税率の問題もあり、改正時期が今回のタイミングまでズレたのであろう。

 

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当初は「海外中古不動産については簡便法の適用ができなくなる」という改正が予想されていた。この場合、改正後の取得資産から適用されるため、現在の所有者には影響がなく、逆に駆け込み需要も見込まれたのだが、結果的にはもっと広い範囲の増税で現在の保有者にも影響を及ぼすものとなった。

 

現在のスキームは不動産の貸付による損失(多額の減価償却が要因)と給与所得を相殺して所得を圧縮するという「損益通算」を利用するものだが、これを認めなくするという改正となったため、「改正日以降に購入した物件から適用」ということではなく、「改正日以降の申告から適用」となり、現在の所有者も影響を受けることになる。

改正ポイント「所得税の損益通算」…法人所有の検討を

細かい点は今後政令や通達で明確になると思われるが、ポイントは以下のとおりである。

 

●2021年分の所得税(2022年3月15日が提出期限の確定申告)から適用されるため来年1年間は損益通算できる。

●国外不動産所得の損失がある場合、損失のうち償却費に相当する金額はなかったものとみなす。つまり赤字のうち減価償却相当額は認められないという扱いだが、ほとんどの場合赤字が切り捨てられると考えてよい。

●簡便法でなく、残存使用期間を合理的に見積り、かつ一定の書類(所在地国の耐用年数がわかる書類や使用可能期間の年数が適切であるという書類)がある場合は、その耐用年数はたとえ短くてもOKとされているが、実務的にどう見積もるのか今のところ不明。

●国外中古建物の貸付による損失は、ほかの国外不動産から生じる所得と通算できる、とされているが、節税目的でこのスタイルを行う投資家はほとんどいないと思われる。

●不動産所得に関しての取り扱いであり、事業所得に関しては触れていないので、今までどおり簡便法も適用できる。一部バケーションレンタルを事業所得として申告している投資家もいるが、その場合、事業所得と雑所得の所得区分の問題は残る。

●譲渡所得の計算上、なかったものとみなされた減価償却費は取得費から控除しない。本来、損益通算はできなくても減価償却は進むため、売却したときの譲渡原価(必要経費)がどんどん下がりキャピタルゲインが増加するのだが、切り捨てられた減価償却費についてはキャピタルゲイン課税の対象としない、つまり切り捨てられた減価償却費は譲渡時に必要経費としてよみがえることになる。

 

このスキームを活用していた投資家には大きくわけて「会社の経営者」と「高額の給与所得者」がいる。「会社の経営者」に関しては、今回の改正はあくまで所得税の損益通算の問題であり、会社が保有する中古海外不動産には影響がないため、法人の活用(法人に譲渡して法人税の節税に切り替え、受け取る役員報酬を減額し、所得税を抑えるなど)を考えるべきである。ただし法人へ譲渡する場合の譲渡価額や現地での課税(ハワイであれば
FIRPTAやHARPTAの免除申請)や外国税額控除の適用により余計な税金が発生しないような工夫が必要となる。

 

高額の給与所得者に関しては、いままでの節税効果+物件の値上がり益(値下がり損)のバランスを考えて、保有しつづけるのか売却するのか(その時期も)、検討しなければならない。損益通算できなかった減価償却費は売却時の必要経費として使えるのと同じ効果があるため、ある程度値下がり額が生じても今までの節税額で挽回できればいいことになる。

 

最後に、節税の場合は出口戦略が重要であるため、多額のキャピタルロスが生じてしまえば節税ではなく単に不動産投資で失敗したことになる。この意味では早めに状況を判断しアクションを起こすことが必要であり、こういう時こそ購入した不動産業者や関与税理士の対応力が問われることになるのかもしれない。

 

 

内藤 克

税理士法人アーク&パートナーズ 代表社員/税理士

ハワイ相続プロジェクト・代表

著書に『残念な相続』(日本経済新聞社)など

 

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税理士法人アーク&パートナーズ 代表社員 税理士

日弁連、金融機関、後継者団体などで相続・事業承継の講演多数。
著書に「残念な相続」(日本経済新聞出版社)など。

弁護士、司法書士、社会保険労務士などの周辺専門家との共同コンサルティングを得意とし、
オーナー企業の経営課題を社長とひとつひとつ解決していくスタイルは定評がある。

ハワイと日本の専門家で構成する「ハワイ相続プロジェクト」代表。

著者紹介

連載世の中のリアルが見えてくる!税金にまつわる「ほんとの話」

本連載に記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり(2019年8月)、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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