「相続税の税務調査」に 選ばれる人 選ばれない人
>>1月16日(木)開催・WEBセミナー
コロナ禍で一番先にお金が出たのは「生命保険会社」
緊急事態宣言発令後、飲食店や小売店からお客様が消滅し「売上ゼロ」の事業者が続出した。もともと手元流動性が高くない事業者にとっては資金繰りが喫緊の課題であったが「セーフティネット保証」や「政府系金融機関によるセーフティネット貸付」の窓口には申込みが殺到し、感染リスクを避ける意味でも受付けに制限がかかり、なかなか融資が実行されなかったのも記憶に新しい。
その後定額給付金や持続化給付金などが次々と打ち出されたが、感染拡大時に真っ先お金を調達できる先として注目されたのが「生命保険の契約者貸付制度」である。
契約者貸付は保険料の支払いが困難な場合に一時的に利用されるケースが多く、金利も高めだったことから、まとまったお金を調達する手段として捉えていなかった経営者も多いはずだ。しかし解約防止に奔走する各保険会社ともに「当面の間(2020年3月末または2021年3月まで )、契約者貸付金利ゼロ」を掲げ、契約者に対しこの制度を広く周知させたことから利用者が急増した。
「貸付」か「解約」か「払済み(減額)」か、今回はコロナ禍における生命保険契約を会社経営の視点から考えていく。
契約者貸付制度は早くて2、3日で実行される
◆解約返戻金がなければ貸付は受けられない
そもそも生命保険に加入していれば誰でも契約者貸付を受けられるわけではない。解約返戻金が生じていない場合は不可能である。
解約返戻金は通常の掛捨て保険では生じないため、法人加入では「終身保険」「養老保険」「長期平準保険」「逓増定期保険」が対象となる。
法人が生命保険に加入するのは、オーナー経営者の突然の死により借入金の返済ができなくなるリスクを回避する目的、節税を兼ねて将来の役員退職金を積み立てる目的、事業承継目的などさまざまであるが、解約返戻金が生じる保険は、役員退職金準備を目的とするものが多い。
事業承継には欠かせない自社株贈与における株価評価の計算上、生命保険料の評価は解約返戻金をベースに評価することになっていること、また加入時から解約前提で契約しているケースも多いことから、ほとんどの経営者はこの解約返戻金のピークを意識しているはずである。
契約者貸付制度は、解約返戻金の70%~90%を限度として早ければ2、3日で実行される。もちろん会社の財務状況の審査など必要なく、仮に返済できなくても解約時または満期時の受取保険金と相殺されるだけの話である。
課税リスクも…決断前にそもそもの加入理由を考えて
◆払済み時に課税される場合も
契約者貸付金には返済期限がない。そのため返済せずにその保険契約を継続して保険料を支払っているケースも見受けられる。コロナ禍においては貸付利息がゼロであるため返済を据え置いたほうが損益上は有利となるが、金利が発生し始めたときに「このまま保険料を払い続ける」「解約する」「払済みにする」のどれかを決断することになる。
そもそも払済みとは今まで貯めた解約返戻金を原資に、残りの保険期間の保障を買うということである。これから保険料を払わなくて済むわけだから、それなりの保障額に減額される。
これに対して解約は保険契約そのものがなくなるわけであるから保障額はゼロとなる。解約すればお金も戻ってくるしこれからの保険料の負担もなくなるが、一度解約すると数年後に同じ保険に加入しようとしても健康状態が悪いと加入できない。
これらの意思決定を行うにあたって、そもそもの加入理由を再確認したい。先に説明した借入金対策の定期保険は「絶対必要な保険」、役員退職金対策の長期定期保険は「あったらいい保険」と考えると、後者が解約・減額の対象となる。
税務処理を考えた場合、解約すると通常課税関係が生じるが、払済みの場合は所定の保険種類においては課税関係が生じない(特約付加状況や商品によって異なる場合がある)。このように考えると契約者貸付を受けた長期定期保険契約に関しては、払済みにして保障額を減額するケースが多いと思われる。ただし、貸付額が解約返戻金額を上回っていた場合はまずそれを返済してからの手続きとなる。
また、契約者貸付を受けている状態で払済み手続きを開始すると「解約返戻金で契約者貸付を返済し、残りのキャッシュで保障を減額した保険に切り替える」ことになるため、上記の単純な払済みと異なり、契約者貸付の返済分だけは収入計上しなければならなくなり、課税関係が生じてしまうことに注意が必要だ。
健康問題や課税リスク、すべてクリアなら解約の手も
◆節税保険から保障重視へ
保険種類が同一でこれから先の保険料を負担せずに保障額を縮小するのが「払済み」であるが、この際保険内容を変更する方法には「転換」「変換」「期間変更」などがある。
コロナ禍で金融機関からの借入れが一気に増えた場合、その状態でオーナー社長が相続を迎えると多額の保証債務が遺族に残ってしまう。保険料が少なくて保障の大きいタイプに変更したほうがいい場合などは、これらの手続きを行うことになる。
ただ必ずしも希望する種類の保険に「転換」できるとは限らない。自分の加入している保険がどの保険に転換できるのかは、あらかじめ保険会社に確認しておく必要がある。「節税対策で社長の退職金の準備をしている場合ではない! 銀行借入金対策に切り替えねば!」というとき、ぜひとも活用したい。
以上のように、保険料が払えないからといってあわてて解約する必要はないが、健康状態に問題がない場合や課税の問題がクリアできるのであれば、思い切ってすべてを解約し、保障の大きい定期保険に入りなおすことで、「変換」「転換」「期間変更」など状況に応じた見直し方法の選択肢が増える。当初の計画やライフプランにこだわるのではなく、発想を転換したほうがいいケースもあるだろう。
今後はコロナにより多業種で事業転換を迫られることから、そのときの状況に合わせて保険もシフトすべきである。
また、こういう時ほど丁寧な先手先手でアドバイスをくれる保険会社と付き合う必要があるのではないかと感じる。
内藤 克
税理士法人アーク&パートナーズ 代表社員/税理士
ハワイ相続プロジェクト・代表
著書に『残念な相続』(日本経済新聞社)など
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