1:委託者の財産を受託者へ預ける
たとえば、父親が持っている賃貸不動産を長女に預ける場合を考えましょう。家族内で信託契約を締結します。つまり、父親は「私の不動産を預かってください」、長女は「はい、わかりました。私が預りましょう」という契約です。その結果、不動産の所有権は父親から長女に移転します。
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この場合、預ける人である父親を「委託者」、預かってくれる人である長女を「受託者」といいます。父親は長女のことを信じて、大切な個人財産を託しているのです[図表1]。
不動産の所有権移転ですから、登記を行い、名義を長女に変更します。ただし、登記の原因は「信託」となります。
2:財産から生じた利益は受益者へ渡される
しかし、信託契約で面白いのは、財産を預かった人が、その財産から生じる利益を享受するわけではないということです。つまり、財産を持っているにもかかわらず、単に預かっているだけで、そこから発生する利益については、別の人に受け取る権利(債権)が与えられます。この権利を「受益権」といい、それを持つ人を「受益者」といいます[図表2]。
ここでのケースであれば、賃貸不動産の名義は受託者である長女となるにもかかわらず、賃貸不動産から発生する家賃収入は長女のものにはなりません。たとえば、家賃収入を受け取る権利を父親として設定することが可能です。もちろん、次女や長男などほかの家族に設定しても構いません。
賃貸不動産の入居者が支払う家賃はいったん長女の銀行口座に振り込まれることになりますが、長女はそれを受益者である父親に渡さなければならないのです。
3: 受託者は信託財産に係る法律行為を行う
たとえば、父親が自ら設立した法人を受託者として賃貸不動産を信託するケースを考えましょう。受益者は長女です。
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この場合、信託財産である賃貸不動産の所有者は受託者である法人となります。したがって、賃貸不動産への入居者と賃貸契約書を締結する場合、賃貸契約書の当事者は法人となり、代表者が契約書に署名・押印することになります。そのほか、修繕の委託や、マンション管理会社への外注など、すべての契約書は法人の代表者が契約することになります。
4:受託者は信託財産の財務を管理する
入居者から支払われる家賃は、いったん受託者である法人が受け取ります。一時的に預かったのち、受益者である長女に引き渡されることになります[図表3]。
同様に、賃貸不動産の所有に伴う固定資産税は、いったん受託者である法人が支払います。一時的に立て替え払いしたあと、受益者である長女から精算されることになります。結局は、収入から経費を差し引いた残額が受益者に支払われることになるでしょう。
5:信託財産の経理を行う
受託者である法人は、会計帳簿、決算書を作成し、受益者へ報告しなければなりません。また、法定調書を作成し、税務署へ提出しなければなりません。さらに、受益者の変更があった場合、信託目録の記載を変更しなければなりません[図表4]。
法人である受託者が、これらの作業を行うためには、その代表者または使用人が実際に働くことになります。少々煩雑な作業となるため、申告までをまとめて顧問税理士に委託するケースのほうが多いようです。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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