戦後、大規模に整備された日本のインフラが、老朽化により崩壊の危機に直面しています。「物理的な寿命=耐用年数」について十分に議論されてこなかったため、思うように修繕が進んでいないのです。不動産投資も同じリスクを抱えており、物件の修繕、さらには解体まで想定することが重要であると、第一カッター興業株式会社で経営企画室長を務める石川達也氏は警鐘を鳴らします。本連載では不動産投資を始める際に軽視されがちな「建物の老朽化」に焦点をあてていきます。

資産価値に影響を与える「要因」を正しく理解する

賃貸不動産の価値は常に変動するものである、ということは議論の余地がないでしょう。変動にはプラスもマイナスもあり、この変動をいかにコントロールしていくかは、物件の生涯収支に大きな影響をもたらします。賃貸不動産の価値に影響を与えている要因を切り分けてみたのが下図になります。

 

賃貸不動産の価値に影響を与える要因
賃貸不動産の価値に影響を与える要因

 

ひとつひとつ、見ていきましょう。まずは「環境要因」です。物件の立地するエリアにはどのくらいの競合物件が存在するか(=需給バランス)、駅からの徒歩は何分か(=利便性)、近くにスーパーはあるか(=利便性)などといった、所有する物件についてというよりはその周辺の状況についての項目です。それ以外でも近年では、273万人を超える在留外国人(2018年末時点)や、年間3,119万人を超える訪日外国人(2018年)の存在も無視できません。外国人の増加は入居者トラブル増加の一因にもなっており、集合住宅の場合はどのような居住者の属性も、重要な変動要因となっています。

 

次に「構造要因」。基本構造は初期投資に大きな影響を与えますが、単純に木造やコンクリート造という分類だけではなく、耐震・免震構造や防音など付加価値を付けられる項目は数多く存在しています。また基本構造をハード面とすると、ソフト面に相当するのがクロスや洗面やトイレなどの内装・什器や、ネットワーク環境などの設備といえます。

 

ハード面の基本構造は比較的万人に訴求できる価値ですが、ソフト面の設備関係はライフスタイルや嗜好によって、受け止め方は千差万別です。つまり、ソフト面の組み立て方ひとつで特定のニーズを持った居住者をある程度意図的に集めることが可能で、マーケティング要素が深く関わる要因であるといえるでしょう

 

そして、構造要因のなかで時代と共に強制的な変動を生み出す要因に、法令対応が挙げられます。その代表例が建築基準法で、耐震基準や建物を建てる時の最低限の決まりを定めており、建築構造物にとっての絶対的なルールブックといえます。大地震を経験するたびに建物の被害状況などを検証し、改正を繰り返しているため、「生きた法律」とも呼ばれています。現時点で必要とされていない耐震性や安全性を高める構造なども、将来的に必須構造に変わる可能性があります。ひとたび必須構造と定められ、自身の物件にその機能がないとなると、大きな価値毀損に繋がってしまうことがあります。

 

そして最後が「経年劣化」。賃貸物件を探す際の検索条件の代表格である築年数や、パッと見でわかる外壁・内容などの劣化、そして住んでみないとわかりにくい配管や給湯設備などの劣化などに分類することができます。

 

余談ですが、筆者は転勤を繰り返していることから賃貸物件を転々と渡り歩いていますが、基本的に賃貸物件を借りる際は企業運営の物件(直営物件やサブリースによって企業が管理する物件など)を選択するようにしています。その理由は目に見えにくい設備へのメンテナンスの違いです。企業運営の物件であれば、定期的に配管洗浄が行われ、共有施設のメンテナンスも行われます。さらに、住民間の苦情をきめ細かく取り次いでくれることもあり、極端に周辺住民に迷惑をかけるような居住者が発生しにくいのではないかと考えています。

 

実際に賃貸物件を内覧する際、空室に入ると配管の嫌な臭いがすることがよくあります。しかし、同じ築年数の物件でも配管洗浄を定期的に行っている物件に入ると、明らかにその嫌な臭いが少ないことがあります。企業管理の物件のほうが若干賃料は高くなりますが、メンテナンスの重要性を認識するとそれを上回る価値を感じるため、物件選択の重要な基準と筆者は考えています。

「継続投資」は、物件価値をコントロールできる手段

冒頭のインフラ価値に対する変動要因を並べてみると、いったん建ててしまった物件(立地や仕様が確定してしまった物件)に対しては、変動要因をコントロールできる要素が少ないことに気が付くかもしれません。そうなると「環境」「構造」の要因はあまり変更することができなくなるため、必然的に「経年劣化」を受け入れざるを得なくなります。

 

だからこそ重要となってくるのが「継続投資(=購入した不動産を継続的に運用するのに必要な費用、修繕費など)」です。時間と共に劣化を進行させる設備に対して、予防・補修・更新など必要に応じた正しい手段を選択することで資産価値の低下を防ぎ、場合によっては資産価値をプラスに導くことも可能となります。

 

また前回(関連記事:『待ち受ける修繕と解体…不動産投資「見えない出費」の恐怖』)、メンテナンスコストは個別の計画が必要であると警鐘を鳴らしましたが、その個別の事情をしっかりと拾い上げることが資産価値を最大化する手法です。

 

資産価値の変動要因には、個人の力では動かしようのない要因もたくさんありますが、逆にいうと、個人の力で動かすことができる要因も存在します。そのコントロール可能な要因を管理することで資産価値を守ることを考えると、賃貸不動産を運用するにあたり、継続投資がいかに大事であるか、理解できるでしょう。

 

   (初期投資+継続投資+解体投資)-(収入+節税効果)=収益

 

上記の収益計算において、継続投資を計画的に行うことは費用の増大を意味します。しかし将来にわたっての収入増、そして継続投資実行時の節税効果の高まりによって、収益性向上に資するものであるといえます。

 

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