不動産投資では「初期コスト」に意識が行きがち
いまや不動産投資は広く一般化したといっても過言ではありませんが、建物の修繕などで、収益に大きな差異が生じる事態が相次いでいます。筆者はインフラメンテナンス業界に身を置く者として、メンテナンスの重要性と、収益計算に織り込まれにくいものの確実に発生する解体のコストについて解説し、それらが軽く見られている不動産投資業界に警鐘を鳴らしていきます。まずは不動産投資のトータルコスト(=ライフサイクルコスト)について見ていきます
そもそも「不動産投資を検討してみよう」と考えたとき、収益計算は下記のようになります。
出費-収入=収益
この計算をする際には、どのようなことを具体的に想定しているでしょうか? 多くの方は、「中古or新築」「一棟or区分所有」などの投資対象の大枠の設定から始まり、立地条件・管理委託の範囲(サブリース・仲介のみなど)、そして税金(節税含む)についてなど、実に幅広い項目についての検討をされるでしょう。
収益計算とは極めてシンプルな計算ですが、本来、「投資期間」という時間軸の設定が重要となります。不動産に関しては、短期よりも中長期スパンでの組み立てが基本となりますが、投資期間の長短に関わらず、新築~解体までのライフサイクル全体を知り、自身の設定する投資期間を切り出すことで、正しい出費を把握することに繋がります。
投資期間を設定したら具体的な物件の選定に移りますが、収益計算の「出費」にあたる投資には「初期投資(=不動産を購入する際に必要となる費用)」「継続投資(=購入した不動産を継続的に運用するのに必要な費用、修繕費など)」「解体投資(=購入した不動産を解体するために必要な費用)」の3つが存在します。解体投資は投資期間が短い場合には絡みませんが、次のオーナーへの売却関連費用と置き換えることができます。
初期投資に関しては、新築・中古問わず大きな出費を伴うことから最大の関心事項となります。立地・構造・築年数など、様々な要素を加味して、金額の妥当性を図ることができますし、初期投資に関連した記事や出版物は世の中に溢れています。
もちろん一時金として大きな出費が必要なタイミングなので、検討には細心の注意を払うことは必須です。しかしメンテナンスなど、それ以降の出費=継続投資については、一般的なモデルケースを適用し、月単位や年単位の費用見積で済ませてしまう、というケースがほとんどではないでしょうか。
筆者は社会インフラのメンテナンスに深く関わり、これまでビル・マンションから橋梁・ダム・鉄道などを、一般の人は見ることのない裏側から見てきました。その経験から断言できるのは、メンテナンス費用の見積とは、多くの要素が積み重なることによって、発生タイミングと金額が非常に大きな幅を持って発生し、トータルコストも大きく変動します。
つまり、メンテナンスコストの見積はモデルケースでの算出は不可能であり、個別の実情に合わせたオーダーメイドの算出が必須となります。
大きく変動する可能性のある継続投資、また今後説明をする解体投資についての想定をしっかりすることは、収益計算において不可欠な要素となります。特に中古物件の購入からスタートする場合は、その見極めが将来の出費を大きく左右する要素となります。
不確定費用を精度よく織り込み、出費をきめ細かく算出
冒頭で不動産投資の収益計算の式を表記しましたが、実際に必要な計算では
出費 (=初期投資+継続投資+解体投資) -収入 (=賃料+節税効果)=収益
と、出費や収入の項目を分解して検討することが重要となります。そして収益計算を分解してみると、比較的精度よく金額が把握できるのが、初期投資と節税効果しかないことにも気が付かされます。収入をある程度固定させる手法としてサブリースなども存在しますが、継続投資と解体投資の金額は不確定要素の割合が高く、「不動産投資におけるリスク」として理解しておくことが、不動産投資の出発点になると考えるといいでしょう。
このように不動産投資を細かく見てきましたが、収益を想定する際には、金額の大きな初期投資だけにとらわれず、物件ごとに算出が必要な不確定費用(メンテナンス費用や解体費用、賃料など)を計画的に織り込むことが重要です。そうすることで、投資決定時の想定収益率の精度は高まり、冷静な投資判断に繋げることができるのです。
次回は、資産価値と深く関連性のある継続投資について理解を深めていきます。