戻し方①相続人の1人に共有物分割請求権を行使してもらい、価格賠償による分割を経て、売買契約を締結する
戻し方②一部の相続人から共有持分を買い、他の共有者からも持分を買う
戻し方③一部の相続人から共有持分を買い、共有者として共有物分割請求をする
戻し方①相続人の1人に共有物分割請求権を行使してもらい、価格賠償による分割を経て、売買契約を締結する
当該不動産を相続人間で共有とする遺産分割協議を経た後は、共有物の売却について同意してくれない共有者がいる場合、共有物を売却したいと考える共有者は、共有物分割請求権を行使するほかありません。
他方で、遺産分割協議を経る前であれば、共有物分割請求ではなく、遺産分割審判手続によることになります(最判昭和62・9・4集民151号645頁)。
なお、共同相続人の一部から遺産を構成する特定不動産の共有持分権を譲り受けた第三者が共有関係の解消のために取るべき裁判手続は、遺産分割審判ではなく、共有物分割訴訟となります(最判昭和50・11・7民集29巻10号1525頁)。
共有物分割請求については、(2)で述べた通り、裁判によって、㊀現物分割、㊁換価分割(競売による売却代金を分配する)、㊂価格賠償による分割(特定の者の所有物として、ほかの共有者には金銭が支払われる)のいずれかの判断がなされます。
この点、共有物を売却したい相続人が㊂価格賠償による分割で完全な所有権を取得できれば、その者から買主は土地を購入することができます。
そうすると、裁判所が㊂価格賠償による分割を選択するように裁判を進めていくことが重要になります。そのためのポイントは以下ⅰ~ⅲです。
(ⅰ)特定の持分権者が全部取得することに相当性がある
まず、不動産を特定の持分権者が全部取得することに相当性があることが必要です。当事者の希望やそれぞれの持分権者の持分割合、共有物の利用状況なども考慮されます。
(ⅱ)不動産を適正に評価できている
価格賠償による分割を行うためには、不動産を適正に評価することが必須です。適切に評価が行われない場合に価格賠償による分割を行うと、当事者間で不公平な結果になってしまうので、価格賠償による分割は認められません。
(ⅲ)全部取得者に代償金の支払能力がある
価格賠償による分割を行う際には、不動産の全部取得者は他の共有持分権者に対して代償金を支払わなければなりません。そこで、その支払ができることが必須となります。
これらの事情を総合的に考慮したうえで、価格賠償による分割方法が当事者の実質的公平にかない、その方法による分割が相当な場合に価格賠償による分割が認められます。(前掲最判平8.10.31参照)
戻し方②一部の相続人から共有持分を買い取り、他の共有者からも持分を買う
戻し方①の方法による場合、買主としては、確実に物件を買うことができる保証はありません。裁判所の判断で競売にかけられてしまうと、他の人に競落されてしまう可能性もあります。そこで、一部の相続人から共有持分を購入することで、自ら共有者となる方法を検討します。
この点、共有者は、自身の持分のみを売却するのであれば、他の共有者の同意は不要です。当然、遺産分割協議書も必要ありません。そして、単独で自由に使うことができない土地の持分のみを買い取るという買主は見つかりにくいのが現実ですので、購入価格はかなり安くなります。
自ら共有者となった買主は、さらに他の相続人に対しても持分の売却を持ち掛けます。他の相続人は、持分を売り渡した相続人との関係では感情の対立等で話合いすらできない状況であっても、第三者である買主との関係では売却に応じる可能性が十分あります。
これにより買主は、各相続人から割安な価格で持分を購入して、結果、完全所有者となることができます。
戻し方③一部の相続人から共有持分を買い取り、共有者として共有物分割請求をする
戻し方②の方法によっても、買主はすべての持分を購入できないこともあるでしょう。その場合、買主は、共有者である自身の権利行使として共有物分割調停や訴訟を提起して、土地を共有持分に応じて分割してもらいます。価格賠償による分割により、自らが土地すべての持分を取得することができれば、買主は完全所有者となることができます。
仮に裁判所が換価分割の手続きを選択して、競売の方法によるとしても、買主は自らが共有者となっていますので、売却代金を持分に応じて取得することができます。元の持分は安く買っているはずですので、投下資本は十分に回収できることになります。
堀 鉄平
弁護士/弁護士法人Martial Arts代表