新規融資額は増加傾向も、景気後退の懸念高まる
■新規融資額の見込み
本調査対象のレンダー25社によると、2019年度の不動産ノンリコースローン※1の新規融資額は増加する見込みであることがわかった。不動産会社や不動産ファンド等にノンリコースローンを提供する主要なレンダーを対象に、2019年度の融資方針を、シニアローン※2(以下、シニア)とメザニンローン※3(以下、メザニン)に分けて質問。2018年度の融資額実績と比較して2019年度は「変わらない」または「増加する」と回答したレンダーは、シニアで90%(前年比+12ポイント)、メザニンで91%(同-1ポイント)と高い水準となった。特に、シニアについては「増加する」の回答率が前年より26ポイント増加した。
この積極的な姿勢は2018年度の実績にも表れている。2018年度融資実績のうち、新規融資が占める割合を質問したところ、全体の81%を占めるレンダーが、融資額の7割以上が新規だったと回答した。
※1:返済原資を家賃収入や不動産収入に限定している貸付方法
※2:裏付け不動産の第一順位の担保権等が設定された返済順位の高い貸付方法
※3:裏付け不動産に設定される担保権等が第二順位以下となる、シニアローンより返済順位が劣後する貸付方法
■最大の脅威は?
ただし、レンダーは景気の後退を懸念しているようだ。不動産ファイナンス市場における最大の脅威について質問したところ、「国内外の経済ショック」が前年の38%から64%と大幅に増加した。なお、「国内外の経済ショック」は、CBREの投資家調査においても、もっとも多くの投資家が最大の脅威としてあげている。
■もっとも重要な検討項目は?
景気動向の先行きに対する不透明感が増すなか、レンダーの融資姿勢にも変化が表れている。不動産ノンリコースローンの融資の可否を判断する際にもっとも重視する項目を尋ねた。もっとも回答率が高かった項目は前年と同様に「LTV※4」(36%)だったが、「安定した収益」の回答率(28%)も前年に比べて大幅に増加した(前年比+8ポイント)。
安定したキャッシュフローを生む物件は、出口(物件売却)の際に買い手がつきやすい。また、景気サイクルの浮き沈みのなかにあっても返済が滞りにくい。総じて新規融資に積極的な一方で、より多くのレンダーが、融資対象については元本回収がより確実で景気サイクルの影響を受けにくい物件を求めているとみられる。
※4:(=Loan to Value)不動産の評価額に対する貸付金額の割合(LTV=貸付金額÷不動産の評価額)
■もっとも魅力的なアセットタイプは?
アセットタイプに対する融資姿勢については、オフィスを嗜好するレンダーが増加していることがわかった。2019年度の融資対象として魅力的なアセットタイプを1つ選択してもらったところ、もっとも割合が高かったのは「オフィス」(64%)で前年から10ポイント増加した。次いで多かった「賃貸マンション」は18%で、前年から15ポイント減少した。オフィス賃貸マーケットは全国的に需給タイトな状況が続いていることがレンダーにも好感されていると考えられる。特に地方都市については供給が抑制されており、当面は需給バランスが悪化する可能性も低いとみられる。
■魅力的な都市ランキング
エリアに関する融資姿勢については、東京の他に、福岡などの主要地方都市にも注目しているレンダーが多いことがわかった。魅力的なアセットタイプとしてレンダーが選んだオフィス、賃貸マンション、物流施設について、魅力的な都市の順位を質問したところ、「東京23区」および「首都圏」が前年に続き1位を占めた。一方、地方都市では福岡に対する関心が高まっている。福岡の順位はオフィスで横浜に次ぐ4位(前年と同順位)、賃貸マンションでは横浜に次ぐ4位と、前年の6位から上昇した。福岡を含む地方都市のオフィス賃貸市場は、テナント需要が堅調な一方で今後の新規供給は限られている。タイトな需給バランスが続くことで賃料は上昇が続く可能性が高い。中でも、福岡は、勤労人口が増加すると予測されている数少ない都市の一つだ。レンダーは将来的な需要の拡大を評価していると考えられる。
■アセットタイプ別スプレッド※5(シニアローン)
東京のプライムアセットを融資対象とする場合の、シニアローンのスプレッド(レンジ上下値の中央値を平均したもの)は75bps~103bpsとなった。もっともスプレッドが小さかったのは「オフィスビル(丸の内・大手町)」で、次いで「商業施設(ハイストリート)」(78bps)、「賃貸マンション(シングル、主要5区)」(88bps)と続いた。
前回調査と比較すると、5アセットタイプ中、3アセット(オフィス、商業施設、物流施設)でスプレッドの平均値は縮小、残り2アセット(ホテル、賃貸マンション)は拡大した。スプレッドの平均値が縮小したオフィスと商業施設は、上下レンジの水準も縮小、希少性の高いプライムアセットに対するレンダーの前向きな融資姿勢が窺える。一方、スプレッドの拡大幅がもっとも大きかったホテル(運営委託型)は前年より12bps拡大。堅調なインバウンド需要に支えられたホテルマーケットだが、都市によっては供給により収益が影響を受け始めているといわれている。今回のスプレッド拡大はオペレーショナルアセットに対するレンダーの慎重姿勢を示唆していると考えられる。
※5:貸付人が設定する、基準金利に上乗せする利率(貸付金利=基準金利+スプレッド)
■アセットタイプ別スプレッド(メザニンローン)
東京のプライムアセットを融資対象とする場合の、メザニンローンのスプレッド(レンジ上下値の中央値を平均したもの)は250bps~325bpsとなった。もっともスプレッドが小さかったのは、シニアと同様「オフィスビル(丸の内・大手町)」で、次いで「商業施設(ハイストリート)」(260bps)だった。
前回調査と比較すると、オフィスを除くアセットタイプでスプレッドは縮小し、下限値の低下が目立った。不動産価格の上昇によりメザニンローンに対する需要が増加傾向にある。プライムオフィスに対してはスプレッドの最低ラインを維持しつつも、他のアセットタイプにおいて多少柔軟に対応するといった前向きな融資姿勢が窺える。
■アセットタイプ別NOI利回り
東京のプライムアセットを融資対象とする場合の期待NOI利回りは、「オフィスビル(大手町)」と「商業施設(ハイストリート)」がともに3.50%ともっとも低く、次いで「賃貸マンション(シングル)」が4.35%となった。CBREが資金の借り手である不動産投資家に対して実施した2019年4月の調査結果と比較すると、NOI利回りはレンダーが回答した水準の方がやや高い結果となっている。
LTVや収益の安定性を重視する、慎重な取り組みが続く
■今後の見通し
今後1年間の見通しについて、前年より多くのレンダーが不動産価格が上昇するとみていることがわかった。ボロワーの投資意欲が引き続き高いことを反映しているといえる。融資基準については、LTVは前年から変わらないと回答したレンダーがもっとも多かった。一方、スプレッドについては「拡大する」と「縮小する」の両方で回答率は増加。レンダーの見方は分かれており、また、貸出額が前年より増加する見込みであることからも、積極的なレンダーが前年の結果より増加した。
CBREが不動産投資家に対して実施した2019年4月の調査結果では、「金融機関の貸出態度」が「厳しい」と回答する投資家はいなかった。低金利が続くなか、より高い収益が期待できる不動産投資事業はレンダーにとって重要な融資先に変わりなく、レンダーの貸出姿勢は前向きだ。その一方、今回の調査結果は、個別物件の収益安定性を重視し、リスクを見極める、慎重かつ冷静な取組みが続くとみられることも示唆している。
関連レポート:CBRE レンダーアンケート2019