国内富裕層と訪日外国人による「高額品需要」が伸長
国内富裕層や訪日外国人の消費意欲拡大により、高額品や免税品の売り上げが伸張。2017年下期から回復の兆しをみせていたラグジュアリーブランドの出店ニーズは、2018年に入ってから勢いを増している。
2018年の個人消費は緩やかな回復、株高や為替の安定で高額品が好調
2018年の消費市場は、緩やかな回復の途を辿っている。4~6月期の実質国内総生産(GDP)で個人消費は前期比0.7%増となり、2017年4~6月期以来となる1年ぶりの高い伸び率を示した。2018年7~9月期の個人消費(1次速報)は0.1%減と2四半期ぶりのマイナスに転じたが、今夏に相次いだ自然災害による一時的な動きとみられる。直近10月の小売業販売額は前年同月比3.5%増(速報)と、前年実績を12カ月連続で上回った。ただし、物価変動の影響を除いた実質賃金が伸び悩んでいる。10月は前年同月比で0.1%減(速報)と、物価の上昇が実質賃金を押し下げている。
一方、高額品や免税品の売り上げは伸張している。株高による資産効果や為替の安定などにより、国内富裕層や訪日外国人の消費意欲が堅調なことが背景にある。2018年10月の全国百貨店売上高では、「美術・宝飾・貴金属」が対前年同月比3.3%増と2カ月連続のプラスとなった。「免税品」も同6.5%増の298億円で23カ月連続のプラスとなり、2018年4月の316億円に次ぐ過去2番目の売上高となった。
1~10月の累計売上高は2017年の年間実績(2,704億円)を4.2%上回る2,817億円となり、2012年の統計開始以来、過去最高となった。訪日外国人に人気の高い化粧品のほか、ハイエンドブランドなどの高額商材が売り上げを牽引した。好調な売り上げを背景に、2016年下期から弱含んでいたラグジュアリーブランドの出店ニーズは2017年下期から回復の兆しをみせ、2018年に入ってから勢いを増している。
「銀座」であっても出店場所に厳しい選定眼
2018年はラグジュアリーブランドの出店ニーズが増加
2018年のリテール賃貸市場は、リテーラーの旺盛な出店ニーズがみられた。出店ニーズを牽引したのは、ラグジュアリーブランド、ドラッグストア、化粧品、スポーツブランドなど。国内富裕層やインバウンド需要の取り込みに成功している業種だ。銀座では、ラグジュアリーブランドがエリア内で立地改善の移転を決め、賃料が現行よりも高額となる事例が複数あった。また、同エリアに路面店舗がない複数のブランドによる新規出店のニーズや、既にエリア内に路面店舗を持つブランドによる2店舗目の出店ニーズもあった。
2018年Q3の銀座ハイストリート(銀座エリアの中でCBREが独自に設定した、繁華性が特に高い通り)の空室率は1.7%、対前期比で横ばいとなった一方、前年同期に比べると0.9ポイントの上昇。背景として、賃料総額が高額となる比較的面積の大きい物件や、賃料水準が相場を超える物件で空室が長期化していることが挙げられる。ただし、好立地で面積が30坪前後と比較的使いやすい区画では、業績不振などを理由に既存テナントが退店しても、時間を掛けずに後継テナントが決定している。
銀座ハイストリート賃料は既に底入れ、プライム賃料は高止まり
銀座ハイストリートの賃料は2016年Q2をピークに下落が続いたものの、2017年Q3以降は25.4万円/坪で4期連続の横ばいとなっている。2015年から2016年にかけては、インバウンド需要の拡大を背景とした激しい出店競争により賃料が高騰したが、2017年上期にはインバウンド需要の拡大が安定期に入り、賃料にも落ち着きがみられた。2017年下期からは、リテーラーの出店ニーズは多い一方、賃貸条件に対して慎重なリテーラーが散見されたことから、賃料水準は横ばいで推移している。現状では、相場をやや超える賃料水準で募集していたハイストリートの物件が、オーナーの希望どおりの賃料でテナントが内定する事例もみられ、賃料は底入れしたといっていい。
銀座4丁目の交差点に近い超一等地の物件については、ラグジュアリーブランドなどブランディング戦略のためには高額な賃料を支払ってもよいと考えるリテーラーが存在する。ただし、現状では賃料レンジの上限値をさらに押し上げる事例はなく、2018年Q3のプライム賃料は40万円/坪で13期連続の横ばいとなった。オリンピックのスポンサー企業など、2020年の東京オリンピックを視野に入れているリテーラーの中には、視認性のよい好立地であれば相場を超える賃料もいとわないところがみられていた。ただし、そのほとんどが期間限定の出店を想定しており、相場全体への影響は限定的だ。
「インバウンド需要」の獲得に期待
2019年はラグジュアリーブランドの出店ニーズがさらに増加する見込み
これまでの株高や円安を背景に、高額品の好調な売り上げが2019年も続くと期待するリテーラーは多い。既にラグジュアリーブランドの出店ニーズは増えており、現行賃料よりも高額となる立地改善の移転や、相場を超える賃料で新規出店をする事例は、さらなる増加が見込まれる。
10月には、銀座のハイストリートに既存店を構えていたラグジュアリーブランドが、さらなる好立地に旗艦店を移転オープンした事例があった。その移転元のスペースには、既に銀座エリアに路面店舗を持つラグジュアリーブランドが2店舗目を出店することで内定しているようだ。好調な売り上げを背景に、ラグジュアリーブランドが銀座で2店舗目の出店を検討するケースは複数ある。
一方で、ハイストリートの募集物件は限定されているため、今後の新規開発に出店ニーズが集まっている。オリンピック直前に竣工予定の中央通り沿いの物件では、銀座エリアに路面店舗がないブランドを含む複数のラグジュアリーブランドが既に内定している。また同じく中央通りで2019年に竣工する予定の物件では、既存店舗からの拡張移転となるラグジュアリーブランドが、現行賃料を超える高額な賃料で内定している。
建築費の高騰により建替計画をオリンピック後に延期した複数の物件オーナーが、計画に着手しはじめている。建て替えに伴い、退去の必要があるラグジュアリーブランドが、移転先を探す事例も複数みられるようになった。これら新規開発のリーシングが本格化することで、ラグジュアリーブランドの出店ニーズが今後さらに顕在化する可能性が高い。
インバウンド需要を取り込んだ化粧品ブランドが路面店舗を拡大
訪日外国人の消費額も、さらなる伸びが期待される。2018年の訪日外国人数は昨年2017年の2,869万人を上回り、12月18日時点で史上初めて3,000万人を突破した。2018年7~9月期の訪日外国人消費額(速報)は、前期比4.0%減の1兆884億円。自然災害の発生に伴い訪日外国人数が前期を下回ったことが影響しており、一時的な落ち込みとみられる。訪日外国人1人あたりの旅行支出は15.6万円と、前期の14.5万円から7.6%増えている。消費額の総額は減ったものの、訪日外国人の消費意欲の落ち込みはみられていないといえる。
インバウンド需要の取り込みに成功している化粧品ブランドの売り上げが好調だ。2018年10月の全国百貨店売上高では、「化粧品」が前年同月比9.4%増と43カ月連続のプラスとなった。現状では、主にプレステージと呼ばれる比較的高額な化粧品ブランドが路面店舗を探している。インバウンド需要の拡大によって百貨店内の店舗が手狭になったため、従来からの国内顧客とインバウンドの双方に落ち着いた買い物環境を提供したい意向があるようだ。
銀座ハイストリートの新規開発案件では、インバウンドに人気の高い化粧品メーカーが内定した事例があった。また、ハイストリート至近の物件では、国内化粧品ブランドが旗艦店をオープンした事例もあった。相場を超える募集賃料に対して慎重姿勢のリテーラーが多かったものの、リーシングに時間を掛けることで、いずれもほぼオーナー希望の賃料水準でテナントが決定している。インバウンドに人気の高い化粧品ブランドが含まれていたことから、相乗効果を狙った他のブランドが近隣への出店可否を探る事例も複数あった。また、eコマースからスタートし、インバウンドの支持を得ているブランドが、相場を越える賃料でセカンダリーエリアの物件に申し込みを入れた事例があった。採算性ではなくブランドの認知度向上を狙った出店戦略と推察する。
国内の化粧品ブランドは、訪日中国人を中心に人気が高い。日本製の品質の高さが好感されており、帰国後も現地の百貨店やeコマースで継続購入されたり、口コミによってリピーターが増えるなど、好ましいサイクルが生まれている。インバウンド需要のさらなる拡大が見込まれる中、化粧品ブランドによる路面店舗の出店ニーズは今後も増えることが予想される。
日本の医薬品を嗜好するインバウンド需要に支えられた、ドラッグストアの出店意欲も引き続き高い。訪日外国人の買い物動線となる東京のハイストリート全般では、複数のドラッグストアによる出店ニーズがみられている。銀座のハイストリートに物件を持つ多くのオーナーは受け入れ業種を限定しているが、中央通りの募集物件で複数の候補テナントの中からドラッグストアの出店が決まった事例が出た。
コマーシャルを目的とした「ショールーム型」店舗
ショールーム型店舗が増加、eコマースでは得難いブランド体験を提供
eコマースの市場拡大が続く中、実店舗のあり方に変化がみられている。経済産業省によると、2017年における日本国内の消費者向けeコマースの市場は、前年比9.1%増の16兆5,054億円に拡大。eコマースの浸透度合いを示すEC化率(eコマースの売上高/小売売上高)も0.36ポイント上昇して5.79%となった。今後もeコマースの市場拡大は続くと予想されることから、商品の販売よりもショールームとしての機能を重視した実店舗の出店が散見されている。
このような出店を志向する主な業種として、家電、スポーツ、自動車、インターネット関連企業などが挙げられる。実際に商品を体験してもらう場として実店舗を位置づけ、購入はeコマースに誘導している店舗がみられている。あるファッションブランドは、スマートフォンなどのアプリを使って試着したい商品のタグを読み込み、フィッティングルームの案内からeコマースでの購入まで、実店舗でおこなえるサービスを提供している。メリットとして、実店舗に商品在庫を置かないためバックヤードに割く面積が不要になること、店頭商品の整頓や品出しなどの在庫作業が不要となり、店舗スタッフが顧客対応に十分な時間を割けることなどが挙げられる。また、VR(バーチャル・リアリティ)やAR(オーグメンテッド・リアリティ=拡張現実)などのテクノロジーを使った新しい買い物体験の提供や、顧客の特性や嗜好に合った商品をカスタマイズする実店舗もある。いずれも、現状のeコマースでは提供しがたい消費者のブランド体験を重視しているといえる。
CBREが2018年3月におこなった「リテーラー意識調査2018」によると、eコマース市場の拡大が原因となって実店舗で商品が売れなくなる、いわゆる「ショールーム化」した実店舗はないと回答したリテーラーは8割を超えていた。どの販売チャネルからも消費者がスムーズに商品を購入できるオムニチャネルを構築しているリテーラーは、むしろ実店舗のショールーム化を、新しい店舗のあり方として推奨している。
ショールーム型店舗の多くは、歩行者量が多く視認性の高いハイストリートに出店立地を限定している。実店舗を広告・宣伝の場と位置づけることで広告宣伝費を出店費用に充当しているケースも散見されており、結果としてそのようなテナントの賃料負担能力は比較的高い。そのため、ハイストリートの中でも好立地の物件で募集が出れば、比較的高額な賃料でテナントが内定するケースがみられそうだ。
銀座地区の賃料は上昇…予測の根拠は?
銀座ハイストリートの賃料は、今後2年間で約8%の上昇を見込む
銀座の主要エリア全体を対象とした銀座ハイストリート賃料(プライム賃料を含む)は、2016年Q2をピークに弱含んだものの、2017年Q3 以降は概ね2014年の水準で横ばいに推移している。賃料は既に底入れしたとみられ、今後は向こう2年の間に約8%の上昇を予測する。
賃料が上昇すると考える理由は、以下の2点である。まず1つは、高額品の好調な売り上げを背景に、賃料負担能力の高いラグジュアリーブランドの出店ニーズが、今後さらに増えると考えられることだ。既に出店予定物件が決まっているブランドが複数あるほか、出店先を探しているラグジュアリーブランドも多い。現在、高額品の売り上げを牽引しているのは、訪日外国人と国内富裕層だ。訪日外国人数は今後も増加が見込まれる。また、株価が大きく崩れない限り国内富裕層の消費意欲が減退することもないとみられる。2019年10月には消費税の再増税が予定されている。ただし、前回2014年の増税時よりも増税割合が低いことなどから、富裕層の消費意欲への影響は限定的であろう。
なお、ラグジュアリーブランドの多くは、出店エリアをハイストリートに限定している。限られた募集物件に対して、ラグジュアリーブランド同士が競合することで、賃料は上昇する可能性が高い。ただし、銀座4丁目の交差点に近い超一等地を対象としたプライム賃料は13期連続の40万円で、既にリーマンショック前の水準を約2割上回っている。そのため、今後もこの水準が大きく上昇することは考えにくい。
もう1つは、ハイストリートの中でも割安感のあるエリアの賃料が、今後は上昇する可能性が高いことだ。このようなエリアでは、相場をやや超える賃料水準で募集していた物件がオーナーの希望どおりの賃料でテナントが内定するなど、既に上昇の兆しがみられている。今後、このような事例が増えることで、ハイストリートの下値賃料が上昇するだろう。
関連レポート:不動産マーケットアウトルック2019