客室数急増!それでも「国内ホテル」が供給過剰にならない理由

今回は、特別レポート「2021年のホテルマーケット展望」から抜粋し、国内のホテルマーケットの現状と今後の展望を見ていきます。※ロサンゼルスを本拠とする世界最大の事業用不動産サービス会社のシービーアールイー株式会社(CBRE)。本連載では、そのリサーチ部門が世界の不動産市場の最新情報をお伝えします。

訪日外国人数増加…全国でホテルの新規開業が続く

【インバウンド需要拡大のなかで浮上するホテル開発計画】

2018年の訪日外客数は3,119万人と、初めて年間3,000万人の大台に乗った(図表1)。海外からの訪客数が3,000万人超の国は、世界でも10カ国程度、アジア・パシフィック地域では、中国、タイに次いで日本が3カ国目になる。増加率は対前年比+8.7%で、2016年から続いた20%前後の増加率と比べると鈍化したが、2018年は日本各地で豪雪、豪雨、台風、地震の災害に見舞われたことを考えれば、なお順調なペースで増加していると言えるだろう。ここに2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックといった国際的祭典による観光客数の上積みが加われば、2020年の政府目標である訪日外客数4,000万人の達成が見えてくる。

 

[図表1]訪日外客数と政府目標※2020 年は政府目標値(出所:日本政府観光局JNTO、首相官邸、CBRE、2019年1月)
[図表1]訪日外客数と政府目標※2020 年は政府目標値(出所:日本政府観光局JNTO、首相官邸、CBRE、2019年1月)

 

訪日外客数の増加を受け、外国人宿泊需要も増加している。2018年の外国人延べ宿泊者数*1は対前年比11.2%増(約900万人泊増)の8,859万人泊。一方、日本人は海外への旅行が増加したこともあり、日本国内での延べ宿泊者数は対前年比2.2%減(約900万人泊減)の4.2億人泊。国内での日本人宿泊需要の減少分を、ほぼ外国人宿泊需要の増加分で埋め戻す結果となった(図表2)。

 

*1 延べ宿泊者数:各日の宿泊者数を足し合わせた数。仮に二人組の旅行者が7日間宿泊した場合は、2人×7日=14人となる。

 

[図表2]延べ宿泊者数の推移(出所:日本政府観光局)
[図表2]延べ宿泊者数の推移(出所:日本政府観光局)

 

こうしたインバウンド需要の拡大が一時的なものではなく、今後も継続して見込まれることを背景に、各地でホテルの開業が相次いでいる。主要9都市における2019~2021年開業予定のホテルの開発計画も、この1年の間に公表ベースで約3万室から2.5倍の約8万室に増加した。改めて主要9都市で2019年から2021年に供給される客室数を集計した結果、2018年末時点の既存ストックの24%に相当する見込みである。既存ストックに対する供給客室数の割合を都市別に見ると、京都が最も高い51%、次いで大阪の32%、東京が24%と続く結果となった(図表3)。供給のインパクトが最も大きい京都は、賃貸オフィスの貸室総面積が2010年末時点との比較で唯一減少している都市でもある。オフィスからホテルへの建て替えといった、他用途からの建て替えも進んでいる。

 

[図表3]都市別ホテル客室新規供給(CBRE、2019年2月)
[図表3]都市別ホテル客室新規供給(CBRE、2019年2月)

2021年には供給が需要を上回るホテル市場だが…

【2021年のホテルマーケット】

政府目標は、2020年の訪日外客数を4,000万人、2030年は6,000万人に定めている。また政府目標値に基づき外国人延べ宿泊者数を計算すると、2020年に1.4億人、2030年に2.2億人という目標値となる。この目標が達成されることを前提に、主要9都市の2021年のホテルマーケットの需給バランスを検証した。2021年の外国人宿泊需要については、2020年と2030年の政府目標から年平均成長率を用い推計した。日本人の国内宿泊需要については、将来の人口減少を考慮して推計した。この推計によって得られた2021年の宿泊需要を基に、ホテル運営にとって適正とみられる空室を見込んで必要客室数を算出し、これを同年の予想客室数ストックと比較した。

 

[図表4]2021年需給推計のイメージ
[図表4]2021年需給推計のイメージ

 

都市全体で見ると、需給バランスは逼迫しない

推計の結果、主要9都市のいずれにおいても、2021年の必要客室数(=需要)は予想ストック(=供給)を下回る結果となった(図表5)。必要客室数と予想ストックのギャップは都市によって異なり、大阪で2.1万室、東京及び京都で1.2万室、名古屋で8千室、仙台で4千室、札幌で3千室、広島及び那覇で2千室、福岡で1千室となった。三大マーケット(東京、大阪、京都)に属する都市のギャップが大きい一方、地方部に属する都市のギャップは比較的小さい。

 

[図表5]客室数と必要客室 数 2021 年(出所:CBRE、2019年2月)
[図表5]客室数と必要客室 数 2021 年(出所:CBRE、2019年2月)

 

■潜在化した需要の回帰の可能性

ただし、予想ストックが必要客室数を上回ることは、必ずしも供給過剰を意味するものではない。これまでストック不足に起因して、予約が取り難くなったことから、需要の一部が顕在化していなかった可能性もある。実績値をもとに推計された需要の予測値には、この潜在需要は織り込まれていない。

 

実際、東京都、大阪府、京都府、福岡県、沖縄県を訪問した外国人訪問者のうち、訪問先で宿泊できた訪問者の割合は他のエリアに比べて低い*2(図表6)。中でも大阪府は、2014年に大阪府を訪れた90%の外国人が大阪府内で宿泊していたが、2017年にはその割合が64%まで低下している。外国人訪問者の宿泊率の低いこれらの地域では、供給によって予約の取り難さが解消されれば、これまで流出又は潜在化していた需要の回帰・顕在化が期待できるだろう。現に供給が進む京都府では、2017年に外国人訪問者宿泊率が上昇しており、需要回帰の兆しが見られる。

 

*2福岡及び沖縄県の外国人訪問者宿泊率が低いことについては、クルーズ船の寄港が多く、ホテルに宿泊しない外国人が多いことの影響もある

 

[図表6]外国人訪問者宿泊率※注:外国人訪問者数に占める外国人実宿泊者数の割合(出所:国土交通省「FF DATA」、観光庁、CBRE、2019年5月)
[図表6]外国人訪問者宿泊率※注:外国人訪問者数に占める外国人実宿泊者数の割合(出所:国土交通省「FF DATA」、観光庁、CBRE、2019年5月)

 

■競争がホテルマーケットを成熟させる

すでにホテルの開業が相次いでいる都市の中には、正常な競争原理が働くことで、ホテルによって優勝劣敗が分かれ始めている都市もある。ストックが増加する今後は、あらゆるホテルがインバウンド需要拡大の恩恵に与れるわけではなくなるだろう。単純な価格競争を避け、誘客力の強いホテルを作るには、差別化が鍵となる。

 

関連レポート:ジャパンホテルビューポイント - 増加する需要と供給の中で勝ち残るホテル​

 

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CBREグループ(NYSE:CBG)は、「フォーチュン500」や「S&P 500」にランクされ、ロサンゼルスを本拠とする世界最大の事業用不動産サービス会社です(2018年の売上ベース)。全世界で90,000人を超える従業員、約480カ所以上の拠点(系列会社および提携先は除く)を有し、投資家、オキュパイアーに対し、幅広いサービスを提供しています。不動産売買・賃貸借の取引業務、プロパティマネジメント、ファシリティマネジメント、プロジェクトマネジメント、事業用不動産ローン、不動産鑑定評価、不動産開発サービス、不動産投資マネジメント、戦略的コンサルティングを主要業務としています。

写真は、リサーチ エグゼクティブディレクターの大久保寛氏。
CBREのリサーチ部門の責任者として、オフィス、物流施設、商業施設の賃貸市場ならびに売買市場のリサーチ業務を統括。製鉄会社および投資銀行勤務を経て1997年から2013年まで証券アナリストとして株式リサーチ業務に従事。2000年からはJREITを中心に不動産セクターを担当。UBS証券、ゴールドマンサックス証券、マッコーリーキャピタル証券、みずほ証券を経て、2013年10月より現職。

著者紹介

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※本連載は、シービーアールイー株式会社(CBRE)が発表するレポートから一部抜粋し、転載したものです。今回の取り上げたレポートはこちら
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