中小企業の生産性がますます低下している背景
生産年齢人口の減少や原料コストの上昇といった経営環境の変化に伴い、近年は多くの企業が「労働生産性の向上」に取り組んでいます。
なかでも喫緊の課題と言えるのが「人材の有効活用」です。2019年4月からは働き方改革関連法の施行によって長時間労働に対しペナルティーが課せられるため、限られた時間内で仕事を効率良くこなしてもらわなければなりません。
対策としては、ITの導入や作業工程の見直し、パート・アルバイトの活用といったものが挙げられますが、中小企業にとっては思うような結果が出ていないというのが現状です。2018年版の「中小企業白書」の企業規模別労働生産性の推移を見ると、資本金1億円以上の大企業の労働生産性が年々向上しているのに対し、資本金1億円未満の中小企業ではほぼ横ばいの状態が続いています。
そもそも、ITの導入や作業工程の見直しには、専門的な知識を持った人物の存在が不可欠です。近年、人材不足が慢性化している中小企業にとって、そうした人材の獲得は決して簡単な話ではありません。現在の従業員がこれまでの業務をこなしながら新たな業務を覚えるとなると、一人当たりの業務時間が長くなり生産性は低下してしまいます。
パート・アルバイトの活用も同様です。正社員の負担軽減のためにパート・アルバイトを活用する場合、当然ながら人件費が発生します。有効求人倍率の上昇とともに高騰しているパート・アルバイトの平均時給は、2018年10月現在で1042円です(パーソルキャリア「an平均時給レポート」より)。この傾向は今後も続くと考えられることから、その活用には資金力が求められます。また、比較的単純な作業が任されがちのパート・アルバイトでは、時給の良さが選択の大きなポイントとなるため、より高い時給を提示する企業へ転職されてしまう可能性も少なくありません。
新たな取り組みに挑戦したくても専門家がいない、人材を増やそうとしても資金が足りない…。このままでは大企業との格差は広がるばかりです。では、人材も資金も不足している中小企業はどうやって労働生産性を高めていけばいいのでしょうか。
私は1964年に大阪で菓子卸販売の会社を創業。その後、小売業にも進出し、現在はフランチャイズも含めて関西地区に100店舗以上を展開、年間1億5000万個を超えるお菓子の販売を行っています。多くの中小企業が苦戦を強いられるなか、私の会社ではこれまで赤字転落もなく、全国トップクラスの利益率と在庫回転率を実現してきました。
理由は社員一人ひとりの「モチベーション」の高さにあります。社員のほとんどは仕事に対するモチベーションが高く、責任感を持って自ら考え行動するなど、高い能力を発揮してくれています。
頑張っている社員を「褒める」ことも重要だが…
「労働生産性の向上」というと、どうしても「作業効率化」という業務内容のほうに目がいきがちですが、実際には同じ業務でも社員の気持ち一つで得られる成果は随分変わるものです。それが全社員分ともなれば、生産性は飛躍的に向上します。新たに人材を獲得したり、無理に費用を捻出したりする必要はないので、中小企業でもすぐに導入して成果を得ることができます。
社員のやる気を引き出し、生産性を高める方法はとてもシンプルで、頑張って仕事をしていることを褒めることです。もちろん言葉がけも大切ですが、私が最も重視してきたのが実際に手にすることができる「ご褒美」です。
私の会社は関西にある一中小企業に過ぎませんが、毎年必ず「ご褒美」を提供することで、社員のモチベーションをぐっと高め、会社を成長させることに成功しています。過去には同業他社、あるいは大企業でも考えられないような規格外のご褒美を提供したこともあります。
もちろん、はじめから多額のご褒美を提供できたわけではありません。当初は、タオル1本、商品券1枚ということもありましたが「毎年、利益の数%を社員に還元する」と決めた以上、どんなことがあっても実行してきました。
すると、社員も「ああ、今回は売上があまり良くなかったんだな」「今回は成果が上げられたから前回よりもいいものがもらえた」と成果を意識するようになり、進んで努力を始めていきました。そうして私の会社は少しずつですが、確実に業績を伸ばしていったのです。
さらに「ご褒美」の贈り先は社員だけではありません。社員の家族に加え、仕入先や得意先にも折を見てお礼の品を届けるなど、仕事に関係するすべての人に対し、「ご褒美」を提供し続けてきました。
結果、みんなが「少しでも恩返しをしたい」と頑張ることで徐々に業務が効率化され、業績が上がり、得られた利益の一部を再び「ご褒美」として還元することで社内に活気が出て──という好循環サイクルが生まれたのです。
本連載では、私がどのように「ご褒美」を与え、組織の士気向上や人材育成、業績アップにつなげてきたのか、また、中小企業の経営者としてどのような心構えで社員に向き合ってきたのかを紹介していきます。
いきなり「規格外の報酬を渡さなければ…」と負担に思う必要はありません。これからお伝えする「ご褒美」の費用は、ちょっとした工夫だけで簡単に生み出せるものです。しかも、明日から始められることですので、人材活用に悩む中小企業経営者の皆さんの参考になれば、これに勝る喜びはありません。
株式会社吉寿屋 相談役
神吉 武司