※本連載では、公認会計士・米国公認会計士の資格を持ち、数々の企業でコーポレートファイナンスを通じて新たなスキームを構築してきた株式会社H2オーケストレーターCEO、一般社団法人M&Aテック協会代表理事および公認会計士久禮義継事務所代表である久禮義継氏が、新時代に中小企業が生き残るための経営戦略を提案していきます。

「戦略検討は難しそう」という大いなる誤解

今回から4回にわたり、企業の戦略検討(※1)のプロセスについて少しまとめて整理してみましょう。総じて比較的ソフトな内容と思われますが、ここからいくつか学んでいただければうれしいですね。

※1 ここでいう「戦略検討」とは企業の全体戦略の検討と特定事業の戦略の検討の双方を含むものとします。

 

いずれも行動を抜本的に変えるというよりも、行動を深化させるという表現が馴染むかもしれません。

 

さて、戦略検討と聞き、「難しそう」と構える人が多いのではないでしょうか? 実はそれほど難しいことはないんですね。といいますか、無駄に難しく考える必要がないといったほうが正しいかもしれません。

 

ご存知の方も多いと思いますが、企業戦略を検討する場合においては、3C分析(※2)、SWOT分析(※3)、4P分析(※4)などなど、本当に色々なフレームワークが存在します。

※2 顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の観点から市場環境を分析するツール。

※3 外部環境や内部環境を強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威 (Threats) の4つのカテゴリーで要因分析し、事業環境変化に対応した経営資源の最適活用を図る経営戦略策定方法。

※4 どんな製品(Product)を、いくら(Price)で、どこで(Place)、どのように(Promotion)して売るかといった、マーケティングにおける4つの視点を組み合わせた企業戦略を策定するための分析手法。

 

これらは、頭の中で色々と思いを巡らしていることを、体系的に整理することができる非常に有用なツールであるため、大いに活用すべきです。

 

しかし、有用であるためにいくつか落とし穴も仕込まれています。それらを順に見ていきましょう。

「戦略フレームワーク」の落とし穴とは?

中小企業に限ったことではありませんが、戦略フレームワークに基づき各種検討を進めるにあたって、次のような「誤用あるある」によく遭遇します。さて、あなたの会社はどうでしょうか?

 

「作ること」が目的になる

戦略フレームワークに従ったアウトプットをひねり出すことは手段であって、目的ではありません。没頭するあまり、気がついたら「目的ってなんだっけ?」ということになり、迷子になってしまうことがよくあります。

 

作りっぱなし

これは非常に重要なことですが、行っていない企業が非常に多いです。 つまり、①とも関係しますが、苦労して一定のアウトプットをひねり出しても十分活かしきれていないケースが散見されるということです。

 

例えば、実務責任者が経営陣にアウトプットを報告して、一定期間はそれに従って行動するものの、担当者の異動や単なる時の経過による忘却効果(※5)によってやがてしりすぼみになってしまい、放置プレーになってしまう、というような状態です。

※5 「時間が経つほど記憶は減る」という論理を整理したものとして「エビングハウスの忘却曲線」が有名です。これは、人の脳は1度勉強したことを1週間後には77%、1カ月後には79%を忘れるという理論です。

 

目新しい理論やフレームワークに目を奪われる

さまざまな切り口で、新たな理論やフレームワークが世に提供されています。それらを活用すること自体は全く悪いことではありません。しかし、理由は後述しますが、場合によっては避けた方がいいでしょう。特に経営者や担当者が新しい物好きな場合は注意が必要です。

できる限り「複数の人間」で協働しながら進めるべき

では「戦略フレームワークの落とし穴」に対して、どう対処するのがいいのでしょうか? それほど難しい話ではありませんが、前述の3点に対応する形で一つ一つ答えを提示したいと思います。

 

目的の明確化

作成担当者はどうしても盲目的となりがちです。これはしょうがないところもあるでしょう。また、中小企業ですから、ヒトの経営資源は限定的な場合が多いでしょう。しかしながら、戦略検討においては、できる限り複数の人間で協働しながら進めることを強くお勧めします。

 

またこの場合、タスクダイバーシティを念頭にさまざまな部署がメンバーとして参画を行うことが望ましいです。そういったチーム編成のもとで作業を進めて、目的を見失わないように、お互い指差し確認をしながら進めることが重要です。

 

また、その過程でお互いの主張をぶつけ合い、アウトプットの精度をさらに高めたり、メンバー間の関係性を深めるなどの効果も期待できるでしょう。

 

一定期間ごとにアップデート

戦略フレームワークが効果的に機能するのは、アウトプットを出してからです。 単発で検討を行なった後、やりきった感でそのまま棚ざらしになっているケースが多いのが実情です。

 

アウトプット後に放置状態に陥らないために、一定期間ごとにアップデートしましょう。企業を取り巻く外部環境は内部環境よりも変動が大きかったり、急速であったりするケースがあります。定点観測を行うことは企業の方向性を舵取りしていく上でとっても必要なプロセスとなります。

 

シンプルイズベスト

簡単なもので構いません。なぜか中小企業の場合、SWOT分析を活用して検討することが非常に多いですが、全然それで構わないのです。ここは奇をてらう必要がないところです。

 

関係者全員が直感的にわかるものを用いた方が効果的です。ポイントは関係者全員がきちんと理解していること。関係者の中で少しでも中途半端な理解のもとで作業を進めた場合、出てきたアウトプットは同じく中途半端な結果に陥るケースが多いです。

 

[図表1]
[図表1]

 

以上、いかがでしたか?

 

3点に絞ってポイントを示してきましたが、個人的に一番重要だと思うのは、「作りっぱなし」をやめて、「一定期間ごとにアップデート」することです。他の2つについて、ある程度直感的に理解している人は多いと思いますが、これについては問題意識を持ってきちんと進めているケースは本当に少ないと感じています。

 

では、さらに次回から2回に分けて、「戦略フレームワークの利用マニュアル」と題して、中小企業が戦略フレームワークを活用して戦略検討を進める際の、より実践的なポイントを、有効性と効率性の両面を意識しながら説明していきたいと思います。

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