地価が低く、自治体からのインセンティブも手厚い
■研究所立地として選ばれる神奈川
神奈川県における研究所の新規開設数は、1989年から2018年の30年間で80件以上と全国1位(図表2)。直近では世界的に有名なIT企業が、工場跡地に研究開発拠点を建設した。
一般的に、生産拠点である工場の近くに研究所が設置されることが多い。横浜市、川崎市などの港湾部を中心に京浜工業地帯が広がっていることも、神奈川県で研究所の立地件数が多い理由と考えられる。
また、東京と比べて地価が低いことは言うまでもなく、自治体からの手厚いインセンティブも要因。最大10億円の県の補助金などに加え、各市町のインセンティブ(横浜市の場合、最大50億円)も用意されている。
■企業の研究開発費はリーマンショック以降、増加傾向
研究開発費は、実質GDPとの相関性が高く、2000年から2007年まで年々増加していた。しかし、リーマンショック後の景気後退とともに2009年には12兆円と、2007年のピークから13.4%と大幅に下落した。
2012年以降は研究開発費は再び増加基調にあり、2017年には13.8兆円まで回復した(図表3)。
■みなとみらいでメーカーの研究開発拠点が増加
あらゆるモノがネットにつながるIoT(Internet of Things)も企業の研究開発の推進を促し、そのための拠点の開設や拡張につながっている。
「みなとみらい」では、研究所を建設・取得する場合、県・横浜市から合計で最大60億円のインセンティブが用意されている。
近年は、研究開発拠点としての用途を目的として、賃貸オフィスビルに移転するケースも多くみられる。IoTに関連した研究開発拠点は、化学系のように危険物を扱うこともなく、工業系のような重厚な機械設備も不要であることから、オフィスビルにも入居しやすいと考えられる。
自動車や半導体メーカーやシステム会社が、研究・開発拠点を設ける目的で「みなとみらい」のオフィスへの移転を決めた(図表4)。また、日産自動車の本社が所在していることもあり、自動運転に関する技術を持つ企業の集積も見られている。
ストックに対する「オフィス新規供給率」が全国トップ
■研究開発拠点に適した大型オフィスの新規供給が続く
横浜では大型ビルの新規供給が続いている。2019年Q1時点のオフィスビルのストックは38万坪。そのストックに対する2023年までの新規供給の割合は19%(約7万坪の供給)と、全国で最も高い割合である(図表5)。
「みなとみらい」で土地を取得する場合、一定の公募条件のもと横浜市からの助成金を受けることができることもあり、デベロッパーが積極的に用地を取得してきた。開発未計画の土地はまだ1.8万坪程度あり、今後も新たなオフィスビルの供給計画が出てこよう。
「みなとみらい」では、2020年以降、複数のビルが竣工を予定している(図表6)。いずれも、ワンフロアの広い大型ビルだ。オフィスと研究開発施設の集約や、部門間を越えたコラボレーションの促進といった最近の研究開発拠点のニーズとも合致している。
■東京と比べて横浜は賃料が割安
横浜と東京23区のオールグレード賃料差額は、過去平均で約7,000円/坪(図表7)。このため、景気後退局面では、コスト削減目的で横浜に移転する傾向がみられた。その一方、ここ数年のような景気回復局面においても、賃料の増額改定を回避する目的で東京から移転する事例がみられている。
大型ビルでは、賃料の格差はさらに大きい。横浜で、東京グレードA* と同じ規模・築年数のオフィスビルに移転する場合、平均賃料は18,750円/坪。東京グレードAの37,600円/坪と比べて、約19,000円の開きがある。
*東京グレードAの定義
規模:延床面積10,000坪以上、基準階面積500坪以上貸室総面積6,500坪以上
築年数:11年未満
立地:主要5区中心
横浜市では、賃貸ビルに入居する場合、一定の条件のもと、一事業年度につき最大1億円、最長5年間(外資系企業であれば6年間)の税軽減措置を受けることができる制度がある。また、環境・エネルギー、IT、製造業などの特定の分野における研究開発機能や本社機能の場合、一定の面積・従業員数等の要件を満たすことにより、最大1,000万円の助成金制度がある(ただし、税軽減との併用不可)。