総合課税の税率と譲渡所得の税率の違いに注目
本連載の第19回~21回をまとめると、中古資産の減価償却費を活用することにより、所得税の総合課税となる所得を減らして、課税を繰り延べ、最終的には物件を売却して、譲渡所得が課税されることとなったわけです。つまり、不動産所得の課税を繰り延べて、その結果、不動産所得が譲渡所得に変換されたと見ることもできます。
ここで注目すべきは、総合課税の税率と土地・建物の譲渡所得に適用される税率の違いです。総合課税とは、不動産所得、事業所得、給与所得などの各種の所得金額を合計して所得税額を計算するというものです。課税される所得金額が1800万円超の部分には、50%(地方税を含む。平成27年分以降55%(課税所得4000万円超))の税率が適用されます。
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他方、土地や建物の譲渡による所得は、他の所得と合計せず、分離して課税することとなっています。譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える土地や建物を売ったときの税額の計算は、税額=長期譲渡所得金額×20.315%となります。なお、所有期間が5年以下の土地や建物を売ったときの税額の計算は、税額=短期譲渡所得金額×39.63%(地方税と復興税を含む。以下同じ)です。
本連載の第19回で紹介した設例1では、累計1000万円の不動産所得の赤字が発生し、55%の税率が適用される所得と相殺されたとすると、550万円の節税になります。
他方、不動産所得の赤字1000万円は繰り延べられて、譲渡所得1000万円に変換されました。適用税率は、20.315%ですので、税額は約204万円になります。
550万円節税し、その分204万円の税金が発生したので、最終的には550万円−204万円=約346万円の得をしたことになるわけです。これは、総合課税の最高税率55%と長期譲渡所得に対する税率20.315%の差を利用した節税手法です。
したがって、タックスメリットを享受するためには、土地・建物の長期譲渡所得を活用する必要がありますので、譲渡した年の1月1日時点で土地・建物の所有期間が5年を超えていることが極めて重要なのです。
投資金額を全額回収できるような物件選びが重要
しかし5年にわたって保有するわけですから、その間に賃貸経営で充分に収入を得て、なおかつ売却時に投資額を回収し切れていなければ、いくら節税になっても意味がありません。ですから不動産の購入時には、売却までを考えた出口戦略が必要になります。
不動産を取得する際の条件をまとめると、次の三つです。
①不動産所得の赤字額に見合う総合課税の適用税率23%以上の所得額があること
②不動産所得の赤字額に見合う物件の売却による長期譲渡所得があること
③物件取得の投資額が純収入(賃貸収入−経費)と物件の譲渡代金で全額回収されること
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出口戦略としては、純収入と物件の譲渡代金でどれだけ投資額を回収できるかにかかっています。投資額が全額回収できる物件選びがタックスマネジメントを行ううえでの大前提です。
【中古木造アパートを使った節税額のまとめ(個人)】
(設例)
●取得物件:築23年の中古木造アパート
●取得価額:4000万円(建物2000万円、土地2000万円)
●年間賃貸収入:320万円
●年間必要経費(減価償却費を除く):120万円
●保有期間:5年間
●売却価額:3000万円
●1~4年目の各年の減価償却費:500万円
●1~4年目の各年の不動産所得:
320万円-120万円-500万円=▲300万円
●1~4年目の合計節税額(最高税率55%適用):
▲300万円×55%×4年=660万円
●5年目の不動産所得の税額(最高税率55%適用):
320万円-120万円=200万円×55%=110万円
●6年目の物件売却時の税額:
1000万円(3000万円-2000万円)×20.315%
=約204万円
●節税額
660万円-110万円−約204万円=約346万円