財務省OBで、現在、日本ウェルス(香港)銀行独立取締役の金森俊樹氏が、「中国経済の実態」を探る本連載。今回からは、当面の最大の政策課題である「過剰生産能力の解消」について見ていきたい。

過剰生産能力が深刻化する中国の鉄鋼産業

2.当面の最大の政策課題―過剰生産能力の解消
中国では、世界の鉄鋼生産ランキングは、1位中国(河北省を除く)、2位河北省(唐山市を除く)、3位唐山市(隠ぺいされ、報告されていない分を除く)、4-8位は日、米、ロシアなど、9位が唐山市の報告されていない分、10位がドイツだと言われているらしい。ジョークではあろうが、深刻な過剰生産能力を抱える中国鉄鋼産業の現状をよく表している。

 

これに伴い、鉄鋼産業内で両極化も進んでおり、中国工業信息化部(工信部)統計によると、2014年、重点大型企業のうち黒字企業20社の利潤総額が280億元と全体の92%を占める一方、19社が赤字で総額116億元の損失を記録している。

 

 

昨年末の中央経済工作会議は経済の供給側構造改革の重要性を強調、地元紙や専門家の間でも「中国版サプライサイドエコノミクス」だと称され、一種の流行語になっている(後述)。この改革が目指すべき任務として5つの項目が掲げられているが、その第一に、産業の過剰な生産供給能力を解消することが挙げられている。(注)

(注)その他は、住宅在庫の解消、企業の生産コスト引き下げ、経済のレバレッジ引き下げによる金融リスク制御、経済の‘補短板’、弱い部分の補強による有効供給拡大)。

 

2016年初頭、習近平国家主席はまず重慶を視察したが、その際にも、供給側構造改革の重点課題として真っ先にこの問題に言及、中国メディアでも大々的に報道された。また李克強首相は経済状況が全国の中でも最も深刻な地域のひとつである山西省を16年の視察先の第一に選んだが、山西の経済不振は、上述の通り、まさにその主要産業である石炭が深刻な過剰生産能力を抱えていることによる。

 

李首相は東北部視察の際、合わせて、山西の他、やはり生産能力過剰が顕著な鉄鋼産業などに依存し、経済不振にあえぐ河北、内蒙古、山東の省幹部も集め、過剰問題にどう対応するかについての検討会を開催したと伝えられている(2016年1月14日付渤湃新聞)。こうした一連の動きは、中国当局が、いわゆる経済の新常態への移行を進める鍵として、当面、過剰生産能力の解消を最重要課題と考えていることを示すものだ。

過剰生産能力を解消するための5つの政策

これらを受け、経済政策を企画する最重要部門である国家発展改革委員会(発改委)は1月初、過剰生産能力解消のため、下記の5項目にわたる政策の柱を打ち出した(2016年1月12日付人民網)。


①政府によるマクロ調整、市場への管理を強化し、生産能力過剰産業がさらにその生産能力を拡大することを厳禁。


②環境保護、省エネ、製品の質・安全性について、法規に基づき管理を強化。


③企業が主体的に市場から退出すること、また減産することにインセンティブを与える政策を検討。


④政府が市場に過度に干渉することを止め、良好な市場環境の整備に力を入れる。生産能力過剰企業の退出、減産に伴う企業再編、またそれが従業員などに与える影響を法規に基づいて処理するとの認識を徹底し、社会安定を図る。


⑤鉄、石炭などを重点として、一定期間内に過剰解消の突破口を確保すること。中央がこの問題専用の対策基金を設立し、地方政府や企業が過剰解消に取り組むことを補助、奨励する。具体的には、基金を、主として、従業員の再配置対策に使用する。

 

その後、国務院(日本の内閣に相当)は2月4日、5日と立て続けに、鉄鋼と石炭産業を対象に、「鉄鋼(石炭)産業の過剰生産能力を解消し、困難から脱却、発展を図るための意見」を発表、その中で、鉄鋼については、向こう5年間で1-1.5億トンの能力を削減、また各地区、各部門が、いかなる名目であれ、生産能力を増強することを厳禁、石炭については、向こう3-5年の間に、生産「退出」で5億トン、「減産・再編成」で5億トンの生産能力を削減(一部に、減産・再編成の過程でさらに2億トンの生産「退出」が見込まれるとの予測もある)、2016年から3年以内は、新規の石炭採掘プロジェクトの審査・承認を停止し、新たな能力増強を厳格に制限することなどを公表した(2016年2月6日付人民網他中国各紙)。

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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