財務省OBで、現在、日本ウェルス(香港)銀行独立取締役の金森俊樹氏が、「中国経済の実態」を探る本連載。今回は、中国地方債務の「金融リスク」について見ていきたい。

地方政府の他に複数の関係主体が存在し、利害も複雑化

一般的に金融リスクは市場リスク、信用リスク、流動性リスク、およびオペレーションリスクに分類されるが、これを中国地方債務の現状に照らして見ると以下のようになる。

 

①市場リスク
経済成長率が大きく鈍化している東北3省、山西など、また償還財源の土地譲渡収入への依存が大きいにもかかわらず、不動産市場の低迷が深刻で、その回復も遅い地方省市区で高い。

 

②信用リスク
貴州、寧夏、陝西など、債務に比し財政基盤が弱い内陸部を中心にリスクが高い。

 

③流動性リスク
地方債務の城投債(地方融資平台が発行した債券)は2016-18年に償還のピークを迎える一方、調達した資金の運用は期間の長いインフラ事業という「期間のミスマッチ」がある。その中で、当局の金融リスク管理強化を目的とした「穏健」なマクロ金融政策運営の影響からデフレ傾向が強まり、全般的に実質資金調達コストが高止まりしている。

 

④オペレーションリスク
一般的には、取引参加者のガバナンスの問題などに伴うリスクを指すが、中国地方債務について言えば、地方政府の伝統的な経済成長志向、土地開発・インフラ投資重視のマインド、中央と地方の歳入歳出分担の関係で、地方政府は歳入基盤が弱いにもかかわらず、常に歳出圧力がかかっているという財政構造上の問題が指摘できる。

 

 

上記のうち、④は高成長が続く中で、長年、一貫して見られてきたことで、最近になって出てきた要因ではないが、①、②、③はいずれも近年、地方債務の金融リスクを高める要因となっているものだ。さらに地方債務の難しさとして、通常の企業債務と異なって、関係する主体が地方政府の他、融資平台、金融機関、金融監督当局と多岐にわたり、その利害も複雑に交錯していることがある。

 

地方政府は、政府の一部として、財政収入が制約される中で、金融部門から資金を調達し、それによって中央の発展目標に沿うべく、インフラ建設・都市化を進め、投資にけん引された経済成長を達成しようとしている。融資平台は、その地方政府の支持を背景に、資金の調達、投資の実行を担い、自らの経営能力・存在価値を示そうとしてきた。

 

金融機関は地方債務の最大の資金の出し手として、リスクが制御されている限りにおいて、そこから利益が得られる。また監督当局の政策目的は、安定的な成長を確保するため、システミックな金融リスクを発生させないことだ。

 

こうして見ると、地方債務については、当局が“剛性兌付”、デフォルトを絶対容認しないという“潜規則”、暗黙の保証が維持されることが、いずれの関係主体にとっても居心地がよく、それが地方債務のデフォルトは起きないという市場の安心感につながってきた。

金融リスク顕在化の危険性はやはり高まっている!?

借換債発行や地方債の独自発行解禁、地方の成長至上主義の見直し(そのための新たな成績評価システムの定着)といった2014年来の政策の動きは、上記④、すなわち、長年地方債務問題の根底にあった要因を取り除きつつ、借換債で期間のミスマッチに伴う当面の流動性リスク③を回避しようとするものだ。

 

ただ、中央が14年以降示している「中央は地方の救済は行わない」「融資平台債務の整理」という方針は、方向としては正しいと言えるものの、それがドラステイックに進められると、これまであった「デフォルトは生じない」という市場心理が崩れ、東北部や内陸部を中心に金融リスクが顕在化する危険性が、以前よりは高まっていると見るべきだろう。

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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