財務省OBで、現在、日本ウェルス(香港)銀行独立取締役の金森俊樹氏が、「中国経済の実態」を探る本連載。今回は、中国の「貿易統計水増し疑惑」について見ていきたい。

日中貿易における両国統計のギャップは意外に小さい

貿易や対外直接投資など、相手先の統計がある場合には、それとの齟齬が問題になる。たとえば日中貿易について見ると(図表1)、中国の海関(税関)統計では、2014年の対日輸出額は約1494億ドル、対日輸入額は1630億ドルで136億ドルの対日赤字を記録している。他方、日本の貿易統計では、対中輸入が1821億ドル、対中輸出1271億ドルで、日本側が550億ドルの赤字であり、一見、両統計が矛盾している。

 

【図表1 日中貿易の統計(2014年)】

 

しかし、以下の要因を考えると、どちらの統計がより正確という問題では必ずしもなく、また両統計のギャップは見かけほどではないと推測できる。

 

①一般に、通関統計では、輸出側がFOB(本船渡し価格)、輸入側がCIF(輸送費、保険料込み価格)ベースのため、輸入側の統計が大きくなる

 

②中国側の輸出統計では、別途、対香港輸出が3632億ドル計上されているが、このうち、中国から香港を経由して日本に輸入された分は、日本側では対中輸入に計上されている

 

③日本側輸出統計で、最終輸出先がメインランドと把握できないものは対香港輸出として計上されているが(14年383億ドル)、中国側では、輸入元が日本と判明しているものは、対日輸入として計上されている

 

④為替換算レートの相違

 

 

対外直接投資は香港経由で別の地域へ

中国の対外直接投資(Outward Direct Investment, ODI)の公式統計は、商務部所管である。そのODI統計公報2014年版(15年9月発表)によると、14年の中国のODI(フローベース)は1231.2億ドル(対前年比14.2%増)で世界3位、14年末のODI残高は8826.4億ドルで、世界シェア3.4%、第8位だ。15年版はまだ発表されていないが、商務部によると、15年のODI(金融部門を除く)は1180.2億ドル(前年比14.7%増)と過去最高、15年末の残高は1兆ドルの大台を超えたとされている(2016年1月15日付上海証券報)。

 

商務部は、産業別、地域別の計数も発表しているが、たとえば、地域別については、一貫して圧倒的に香港が多く(約6割)、ケイマン、英領バージン諸島といったタックスヘイブン地域を合わせると、全体の7割近くを占める。これについては従来から、商務部はこれら地域を最終投資先としているが、実際にはこれらの地域は通常単なる経由地にすぎず、最終投資先は中国本土への回帰も含め別の地域である(いわゆるラウンドトリップ効果)場合が大半で、中国の公式統計は実態を表していないという批判がある。

 

このため、海外ではより実態を把握する試みが行われている。代表的なものは、米国American Enterprise Institute (AEI)とHeritage Foundationが共同で行っている調査で、個々の中国企業の海外投資、建設プロジェクト契約を積算した数値を発表している。

 

それによると、2015年の海外投資、建設プロジェクト(フローベース)は1937億ドル、年末残高は1.2兆ドル、残高の地域別内訳を見ると、サブサハラアフリカが2200億ドル(18%)、西アジア1813億ドル(15%)、東アジア1654億ドル(14%)、欧州1638億ドル(14%)、米国・北米1612億ドル(13%)などとなっており、香港、ケイマン、バージンなどで7割を占める商務部統計と大きく様相が異なる(図表2)。ただし、1937億ドルのうち、投資は1104億ドルで、これは商務部の計数1180億ドルとそれほど大きな差異はない。


 

【図表2 中国対外直接投資先の内訳(ストックベース、%)】 

●AEI & Heritage Foundation推計(2015年)

●中国商務部(2014年)

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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