会社の「運転資金」の借り入れをしてはいけない理由
少し前に取り上げましたが、今回も銀行から借りまくれ!という類のミスリード本が絶えないというお話です(関連記事『中小企業社長に「銀行から借りまくれ!」とすすめる本の怖さ』『中小企業のオーナーに「銀行からの借入を推奨する本」の危うさ』参照)。その中身を拝見すると、なぜそのようなことが言えるのか、理解できない過ちが、多々あるのです。ある本では、次のような趣旨の内容が書かれていました。
「運転資金は会社の月商3~6カ月分借りられることを目標にしましょう。それだけあれば、いざというときもなんとかなります」
月商の3~6カ月分も現預金を持ち、借入金があるなら、「すぐ返済に回しなさい!」と私たちなら指導します。そもそも、多くの業種で、現預金をそんなに抱える必要はないはずです。私たちは、月商の0.5カ月分で回るようにしなさい、としています。
「回収期間が長いので、ムリです」というのなら、回収期間を縮める交渉が経営課題です。「給与の締めと支払い日の関係で、0.5カ月分はムリです」というのなら、給与の締め日や支給日の見直しが、経営課題となります。
要は、運転資金の借り入れなどするな、と言いたいのです。販売代金の入金で運転資金を回せるようにすることが、資金繰りの対策なのです。
借入してまで現預金をたくさん抱えることは、本来の対策ではありません。負債が増えて、余計に危険な状態に陥るだけなのです。いざというときほど、銀行は返済回収を急ぎます。そんな非常時に、大きな借金を抱えている方が危険なのは、わかりきったことです。なのになぜ、そのほうがいい、と書くのか理解に苦しむのです。
不動産物件獲得など、どうしても急な資金が必要なら、常時借入することなく、当座貸越契約を結んでおけばよいのです。そうすれば、必要資金を一時的に確保できます。常に大きな借金をし、金利を払ってまで現預金を抱えるのは、銀行が喜ぶだけの、愚策にすぎないのです。
銀行員に「融資審査が通りやすくする権限」はない
また、別の本では次のような趣旨の内容が書かれていました。
「銀行マンも人間ですから、彼らの心理や感情を理解して、彼らにとってプラスになることをしてあげれば、融資審査もとおりやすくなります」
彼らにとってプラスになること、というのが、お金を借りることである、というわけです。要は、銀行員が喜ぶことを積極的にしなさい、と書かれているのです。銀行員の心理や感情を理解することは必要です。しかし、彼らに融資審査を通りやすくする権限など、まったくもって、ありません。そのような立場でもありません。
支店長の心象で融資判断がされていたのは、バブル崩壊以前の話しであり、現在のような格付(スコアリング)が導入されるより、以前のことなのです。
現在の格付け(スコアリング)は、本部の融資審査部が行います。決算書のデータをもとに入力し、決定ボタンを押せば出来上がりです。そこに、支店長の入る余地がありません。本来であれば、決算書による定量要因とは別に、支店長らの判断を要する定性要因の評価項目もあります。200点満点のうち、79点を占めます。
しかし、この定性要因評価は運用されておらず、定量要因の格付け(スコアリング)だけで融資判断されているのが、実態なのです。なぜなら、支店長や銀行員の判断は、信用できないし、労力もコストもかかるからです。そんな精度が低い判断を取り入れるより、コンピューターによる融資判断に任せたほうが、不良債権になりづらい、と銀行は考えているのです。
借りたいといえば、銀行員や支店長は喜びます。しかし、だからといって、借りる必要もないのに、銀行員を喜ばせるために借りるなど、そんな経営は絶対にあってはならないのです。