今回は、中小企業のオーナーに銀行からの借入を勧める本の内容について見ていきます。※本連載では、現場での実務経験豊富な経営コンサルタントである著者が、銀行交渉の成功事例、融資を受けるために知っておきたい銀行の内部事情などを紹介します。※本記事は、2019年1月15日、1月17日に掲載された古山喜章氏のブログ『ICO 経営道場』から抜粋・再編集したものです。

会社の「運転資金」の借り入れをしてはいけない理由

少し前に取り上げましたが、今回も銀行から借りまくれ!という類のミスリード本が絶えないというお話です(関連記事『中小企業社長に「銀行から借りまくれ!」とすすめる本の怖さ』『中小企業のオーナーに「銀行からの借入を推奨する本」の危うさ』参照)。その中身を拝見すると、なぜそのようなことが言えるのか、理解できない過ちが、多々あるのです。ある本では、次のような趣旨の内容が書かれていました。

 

「運転資金は会社の月商3~6カ月分借りられることを目標にしましょう。それだけあれば、いざというときもなんとかなります」

 

月商の3~6カ月分も現預金を持ち、借入金があるなら、「すぐ返済に回しなさい!」と私たちなら指導します。そもそも、多くの業種で、現預金をそんなに抱える必要はないはずです。私たちは、月商の0.5カ月分で回るようにしなさい、としています。

 

「回収期間が長いので、ムリです」というのなら、回収期間を縮める交渉が経営課題です。「給与の締めと支払い日の関係で、0.5カ月分はムリです」というのなら、給与の締め日や支給日の見直しが、経営課題となります。

 

要は、運転資金の借り入れなどするな、と言いたいのです。販売代金の入金で運転資金を回せるようにすることが、資金繰りの対策なのです。

 

借入してまで現預金をたくさん抱えることは、本来の対策ではありません。負債が増えて、余計に危険な状態に陥るだけなのです。いざというときほど、銀行は返済回収を急ぎます。そんな非常時に、大きな借金を抱えている方が危険なのは、わかりきったことです。なのになぜ、そのほうがいい、と書くのか理解に苦しむのです。

 

不動産物件獲得など、どうしても急な資金が必要なら、常時借入することなく、当座貸越契約を結んでおけばよいのです。そうすれば、必要資金を一時的に確保できます。常に大きな借金をし、金利を払ってまで現預金を抱えるのは、銀行が喜ぶだけの、愚策にすぎないのです。

銀行員に「融資審査が通りやすくする権限」はない

また、別の本では次のような趣旨の内容が書かれていました。

 

「銀行マンも人間ですから、彼らの心理や感情を理解して、彼らにとってプラスになることをしてあげれば、融資審査もとおりやすくなります」

 

彼らにとってプラスになること、というのが、お金を借りることである、というわけです。要は、銀行員が喜ぶことを積極的にしなさい、と書かれているのです。銀行員の心理や感情を理解することは必要です。しかし、彼らに融資審査を通りやすくする権限など、まったくもって、ありません。そのような立場でもありません。

 

支店長の心象で融資判断がされていたのは、バブル崩壊以前の話しであり、現在のような格付(スコアリング)が導入されるより、以前のことなのです。

 

現在の格付け(スコアリング)は、本部の融資審査部が行います。決算書のデータをもとに入力し、決定ボタンを押せば出来上がりです。そこに、支店長の入る余地がありません。本来であれば、決算書による定量要因とは別に、支店長らの判断を要する定性要因の評価項目もあります。200点満点のうち、79点を占めます。

 

しかし、この定性要因評価は運用されておらず、定量要因の格付け(スコアリング)だけで融資判断されているのが、実態なのです。なぜなら、支店長や銀行員の判断は、信用できないし、労力もコストもかかるからです。そんな精度が低い判断を取り入れるより、コンピューターによる融資判断に任せたほうが、不良債権になりづらい、と銀行は考えているのです。

 

借りたいといえば、銀行員や支店長は喜びます。しかし、だからといって、借りる必要もないのに、銀行員を喜ばせるために借りるなど、そんな経営は絶対にあってはならないのです。

本連載は、株式会社アイ・シー・オーコンサルティングの代表取締役・古山喜章氏のブログ『ICO 経営道場』から抜粋・再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒http://icoconsul.cocolog-nifty.com/blog/

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