今回は、中小企業のオーナーに銀行からの借入をすすめることの怖さを検証していきます。※本連載では、現場での実務経験豊富な経営コンサルタントである著者が、銀行交渉の成功事例、融資を受けるために知っておきたい銀行の内部事情などを紹介します。※本記事は、2018年12月25日に掲載された古山喜章氏のブログ『ICO 経営道場』から抜粋・再編集したものです。

銀行は「返済能力がある」と判断した会社に貸す

銀行から借りまくれ!という類のミスリード本の出版は絶えず、書店にも多く並んでいます。その中身を拝見すると、なぜそのようなことが言えるのか、理解できない過ちが、多々あるのです。

 

こういった本のなかには、次のようなことが書かれています。

 

「無借金では取引実績がないため、いざというときに貸してもらえません」

 

だから、無借金にしてはいけない、と言うのです。

 

この本のみならず、他の類似本でもよくあるフレーズです。そのせいもあるのか、多くの中小企業の経営者が口にするのも、この言葉です。さらにはミスリード本を読んでしまった税理士まで、同じことを言いだすのです。

 

まず、銀行との取引とは何か、です。借りることだけが、取引ではありません。口座を作ること自体が取引です。加えて、振込があれば、入金もあります。法人であれば、口座を作る時点で、決算書を提示しているはずです。なので、その中身を審査部に回しているはずなのです。つまり、銀行は財務の中身をある程度、融資をしていなくても掴んでいるのです。

 

それに、取引実績とは融資を指す、としても、無借金で融資を申し込んで貸してくれなかったとしたら、それは、融資実績がないからではありません。財務内容に不安があるからです。つまりは、返済能力に不安があるのです。

 

この本で言う、いざというときとは、業績が悪化した時、とあります。そんなときでも、この本の理屈で言えば、借入金まみれのほうが、いざというときに借りられる、ということになります。そんなことは、ありえません。

 

いざというときであろうと、平常時であろうと、銀行が貸すのは、返済能力があると判断した会社です。その判断は、決算書をもとに行います。融資残高の有無ではないのです。

銀行は「本業による儲け」における返済能力を評価する

ある本では、銀行から1億円を借りる場合において、次のような趣旨の内容が書かれていました。

 

「多くの経営者は融資の際に営業利益や純利益を銀行が重視していると思い込んでいるが、純資産が1億円あれば間違いなく貸してもらえる」

 

格付け(スコアリング)のことをご存じないのか、と思わずにはいられません。その配点表を見れば、営業利益を重視していることは、明らかです。確かに純利益は重視していません。しかし、その書き方も、格付(スコアリング)を知らずに書いているとしか、読めないのです。

 

銀行が営業利益を重視するのは、本業による儲けでの返済能力を評価したいのです。その営業利益を重視せず、純資産の額を、中小企業で重視することはありません。

 

確かに、スコアリングの評価のひとつに、自己資本額という項目があります。配点は、15点です。満点が129点なので、そこそこのウエイトです。しかし、15点を獲得できるのは、自己資本額が100億円超、といった場合です。10億円で6点、1億円で2点、といった配点です。つまり、ほとんどの中小企業は、この15点を獲得できないのです。だから、10ランクの格付(スコアリング)で、中小企業は1位や2位はない、上場企業のみ、と言われるのです。

 

この本で書かれているような、純資産が1億円あれば、間違いなく貸すなど、ありえないのです。もし貸すとしたら、1億円の資産価値のある不動産・設備など、何らかを担保におさえているから貸すのです。

 

純資産が1億円あっても、営業利益がトントン程度かマイナスであれば、格付け(スコアリング)ランクは低いです。貸し倒れの危険が高いと判断されるのです。1億円の純資産があるから貸し倒れしない、というほど、単純なものではないのです。

本連載は、株式会社アイ・シー・オーコンサルティングの代表取締役・古山喜章氏のブログ『ICO 経営道場』から抜粋・再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒http://icoconsul.cocolog-nifty.com/blog/

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