マーケットは、口コミや紹介が「すべて」になっている
従来のビジネスモデルを見直すという意味で、私たちがハミガキ粉をスーパーやドラッグストアなどに卸さず、ネット通販に特化しているという点も参考になるのではないかと思います。
通常、家庭で衣食住の用途に使われる日用品は、スーパーやドラッグストアなどで簡単に手に入るものです。もちろん、ハミガキ粉も同様です。
しかし、私たちの子ども用乳酸菌ハミガキ粉は、どこのお店に行っても購入できません。広告宣伝にしても、自分たちのホームページから情報を発信するのみで、既存のメディアへの広告などはいっさいしませんでした。
これは、身近な日用品の売り方として、従来、かなり異例の販売方針だったと言えるかもしれません。
なぜ店頭に並べようとしなかったのか、宣伝もしないのか、ネットだけでは実物に触れることもできないし、広く商品を知ってもらったり、販路を広げたりするのに不利ではないのか。そのように疑問を感じる人も少なくないと思います。
しかし、現在の流通市場を見渡すと、すでに実店舗よりネット販売が優位性を持つ時代に変わっているように見えます。しかも、場合によっては、ネット上の炎上事件で一企業の存続さえ左右されかねない時代です。
そのようなマーケットでは、今までにも増して、「口コミや紹介がすべて」になってきているのではないでしょうか。
私たちは、そうした今のネット社会の「口コミ」のパワーに着目しました。乳酸菌ハミガキ粉は、子育て世代の大きな悩みに応える商品です。子育て世代どうしの口コミで知った人たちに、いかに購入の輪を広げてもらうか。そこが生命線でした。
モノが売れない日本市場で「新規開拓」をするには?
現在の日本市場は、モノが売れない時代と言われています。
かつてのような家電の大ヒットは、あまり聞かなくなりました。都会では、だいぶ前から「若者に車が売れない」と言われています。ライフスタイルが以前とは一変していることが、その理由として指摘されています。
一方で、スマートフォンのように売れるものは売れています。スマホが売れるのは、現代の便利な生活が、そこに集約されているからでしょう。持っていないとお話にならない、まさにライフスタイルに関わる商品だと思います。
そして、そのライフスタイルというものは、生活環境によっても多様です。売れなくなったと言われる自動車も、都会を離れれば生活に欠かせないので、1人が1台のマイカーを持っている地方もたくさんあります。
新規開拓をするうえで大事なことは、お客様のライフスタイルを考えることかもしれません。現代の消費者は、豊かな時代を生きてきて、モノの所有にはそれほどこだわりがなくなっています。
商品・サービスが売れない理由として、その質が悪いからではなく、「そもそも消費者が欲していないから」という点は重要ではないかと思います。
ライフスタイルに合わない商品を、売りつけてもしかたありません。モノ自体を売ることではなく、お客様の生活の中に問題・ニーズを見いだし、新しいライフスタイルを提案することが、新規開拓のひとつの突破口になるかもしれません。
お客にマッチングした「本物」の商品とは
現在は、本物以外売れない時代とも言われています。私はここまで、仕事の本質として「本物」を提供することが大事なのではないか、という見解を繰り返してきました。
しかし、その「本物」とは何なのでしょうか。もう一度、あらためて掘り下げてみる価値があると思います。
今の消費者は、モノに目が肥え、自分が快適だと思うライフスタイルに合わせてお金を何に払うか選ぶ人たちです。モノを売る側としては、自分の正しい知識に基づいて、「これはいい商品ですよ」とお勧めしても、お客様に「それはわかります。でも私には要りません」と言われてしまうことも少なくないでしょう。
それは、その商品が、モノとしては「非常にすばらしいもの」であっても、相手のお客様にとって、自分のニーズにマッチした「本物」ではないということのように思えます。
自らの商品を欲しているお客様にマッチングしなければ、ビジネスはうまくいきません。そして、今やライフスタイルがかつてなく多様化しています。誰にでも同じモノの魅力をアピールする時代ではなくなっているのでしょう。
私が考える「本物」とは、それがお客様の生活に入っていくことで、楽しいライフスタイルが提案できるような商品・サービスです。その商品・サービスを提供することで、周りの人の笑顔が増える、幸せになるようなものを売りたいと思います。
すなわち「幸せマーケティング」です。
そして、実際に幸せマーケティングを成功させるためには、自分たちが問題を解決し、より楽しいライフスタイルを提案できるお客様がどこにいるのか、あらかじめはっきりしていることも大事なのだと思います。
商品・サービスがどんなライフスタイルを提案できるか
現代では、ライフスタイルの提案といっても、かつての「マイカーライフ」のように、多くの家庭に一律の価値を提供するものではなくなった感があります。「本物の提供」という場合も、一流、高級であればよいというものではなくなっている可能性があります。
自己満足でよいもの、便利そうなものを作り、「本物ですよ」と訴えて、関心を持ってくれるお客様を探しても、ビジネスとしてうまくいかない可能性があります。
そこで、自分たちのビジネスを通じて「幸せ」を共有できるお客様をまず探し、その深い悩みや望んでいることを汲み取って、自分たちのものにしてともに解決するといった、寄り添う姿勢が望ましいのではないかと感じます。
そのためには、お客様から見たときに、自社の商品・サービスがどんなライフスタイルを提案できるか考えてみることも有用なのではないかと思います。
信頼、親しみ、誠意、清潔、安全など、ポジティブなイメージを表現する言葉にも、さまざまなものがあります。外食産業の大ヒットキャッチには「早い、安い、うまい」といったものもありました。
ですから、自分たちが考える「幸せ」を共有できるお客様に、そのイメージをかなえるライフスタイルを提供できる商品が「本物」なのでしょう。
一流、高級だからよいというのは、モノが優先だった時代の発想のように感じます。これからは、多様な価値観を持つ消費者の中で、自分たちのお客様との間に、どんな関係を築くのかがポイントになりそうな気がします。
幸せは押し売りできません。
幸せを売るマーケティングでは、お客様を知ることと、同じ市場で競う同業他社と比べた場合に、自社の商品を使うとどのようにライフスタイルが変わり、笑顔になるかをイメージできるかがカギになるのではないかと思います。
子育て世代の「最大の情報源」はすき間時間のスマホ
私たちの乳酸菌ハミガキ粉は、インターネットでの通信販売に特化しています。また、マスメディアを活用した宣伝は、基本的には展開していません。このような販売戦略、プロモーション戦略も、自分たちのお客様との関係から判断したのです。
子育て中のママさんたちは忙しく、あまりテレビや新聞にはアクセスしていません。その代わりに、子育て世代の最大の情報源になっているのが、すき間時間にスマホでチェックしているネット上の情報です。
そして多くの人が、SNSなどを通じて自ら情報を発信し、それぞれの口コミネットワークを持っています。乳酸菌ハミガキ粉の評判は、主にそうしたネット上の口コミを介して広がっているのです。
中には、ネット上のスターも存在します。自分のブログやサイトに多くの閲覧者が集まるインフルエンサーと呼ばれる人たちが、「この商品はいい!」と紹介すれば、極めて多くの人に影響を与えます。
私たちのプロモーション戦略は、初めからそうした口コミ効果に期待したものでした。前述したように、スマホ経由の注文が全体の約8割に上ることから、その戦略は奏効してくれたのではないかと思っています。
齊藤 欽也
歯科医師/ウィステリア製薬株式会社代表