異例の高額ハミガキ粉は受け入れてもらえるのか?
2015年5月、ネット通販のみで子ども用乳酸菌ハミガキ粉の販売を開始したとき、私たちの心の中は正直、不安でいっぱいでした。
この乳酸菌ハミガキ粉は、成分や製法にこだわって作った結果、1カ月分で定価7800円と、ハミガキ粉にしては異例の高価格です。
果たして子どもの歯みがきにひと月8000円ものお金を出してもらえるのか?
高額の値づけをした根拠ははっきりしているものの、「よいものはよい」という私たちの考えが受け入れてもらえるのか?
これまでの常識とはかけ離れた新商品でしたから、自信が確信に変わるまでには、しばらく時間が必要でした。
明らかな転機が訪れたのは、数カ月後です。ホームページへのアクセス数が急速に伸び始め、注文数も比例して急増してきました。明らかに「口コミの輪」が広がっていることがうかがえました。
私たちが大きな心の励みにしている「お客様の声」が書かれたハガキも、それこそ山のように届き始めました。
そして、いったん購入してくれたお客様がまた注文してくれる、いわゆるリピーターになってくれる傾向も顕著に現れてきたのです。
私たちは、周到に準備してきた新規ビジネスが軌道に乗りつつあることを実感し、胸をなでおろしました。
商品・サービスが「高額」でも買ってもらえる仕組み
私たちの乳酸菌ハミガキ粉は、ふたを開けてみれば極めて高い「90%超」というリピート率を達成してくれました。また、ハミガキ粉は身近な日用品であるにもかかわらず、あえて店舗販売はせず、ネット通販に特化しても売れている点も特徴のひとつです。
では、そうした好調な売れ行きにはどんな理由があったのでしょう。
本記事では、私たちがどのようにして新しいハミガキ粉を売ってきたのかを述べていきます。マーケティングの教科書でいえば、「販売戦略」や「宣伝・プロモーションに当たる部分だと思います。
通常1本数百円のハミガキ粉市場の中にあって「異例の高額商品」でありながら、驚異的に高いリピート率を維持している理由―。おそらく皆さんがいちばん疑問に思い、知りたいと思う点でもあると思います。
高額の商品を繰り返し買ってもらえたら、それほど効率のよいビジネスモデルはありません。私たちの新規ビジネスは、そのパターンにうまく当てはまっているようです。ただし、初めにひとつはっきりさせておきたいのは、私には高額商品を売りさばく秘訣などは語れないことです。
世の中には、「何でも売るものさえあれば稼げる」スーパーセールスマンや、「利幅を極大化して、効率よく儲ける」ノウハウを知っている経営者も、たくさんいるのではないかと思います。しかし、私が行ってきたのは、もっと当たり前のことです。
ここでもやはり大事なのは、仕事の「本質」です。
商品・サービスが高額であっても廉価であっても、喜んでもらえるような「本物」と、買ってもらえる仕組みを作ることが、大事なのではないでしょうか。
お客様は何を求めているのか、その中でも、深いところにある真のニーズは何なのか。それをしっかりつかむ努力をし、根本的な解決策を考え抜く。そこからすでにプロモーションは始まっています。
私たちの取り組みでいえば、何度もアンケートを繰り返し、従来の歯みがきの問題点と、お客様が歯みがきに求めている本当の気持ちを探り当てたことです。
それはすなわち、「お客様の立場に立つ」ということです(実際にそれに徹するのは、口で言うほど簡単ではありませんが…)。
お客様が抱えている「真の問題」を知る努力とは?
マーケティングの世界では「売らずに売れ」と言われることがあります。
その方法論は、会社によって、また専門家であるコンサルタントの先生によっても異なりますが、肝心のポイントは、「一生懸命売ろうとしなくても、売れるしくみを作る」という点にあります。
そういうしくみを作る方法の1つには、経営ポリシーなり、高級イメージなり、自社にマッチした「ブランディング」を徹底して、お客様が来たい、買いたいと思ってくれるようにする取り組みがあります。
ただし、ベンチャーや中小零細企業には、自らの発信力を駆使してのブランディングはなかなか困難です。そういう場合にも取りうる方法として、お客様とのコミュニケーションを図り、その悩みに寄り添って「自分の問題を解決してくれる」という安心感や強い信頼関係を築いていくやり方があります。
そうすると、信頼感や親近感を抱いてくれたお客様から、同じ悩みを共有する人たちへ口コミの情報が広がっていきます。
このような方法なら、マスメディアを使わなくても、今ならインターネットで発信することができます。そして、さらによい点として、あまり資本力のない会社でも実行することが可能だと思います。
私たちは、アンケートを繰り返して、お客様が抱えている「真の問題」を知る努力をするとともに、その解決法としてどんなことを望んでいるか、様々なコミュニケーションを図って、厚い信頼関係を築いていきました。そのことによって、結局は「売らずに売る」と言われるようなスタンスを体現できたのかもしれません。
新しく作ったハミガキ粉の価格についても、異例に高い理由を、商品の特長や品質、商品に対する思いとともに、どんどん発信していきました。
「稼ごう」とするほど儲からない時代になっている
「売らずに売る」の裏返しは、「売ろうとするから売れない」ということになるでしょう。実際に、そのようなケースがビジネスでは少なくないと思われます。
例えば、DMや電話、あるいは営業パーソンが戸別訪問をして「よい商品なので買ってください」と売り込みをかけても、お客様の反応が悪い、またはまったく相手にしてもらえないといった場合が考えられます。
その理由としては、お客様を守りの姿勢に入らせてしまい、信頼関係を得られていないことが多いのではないでしょうか。
なぜなら、お客様の立場に立たず、自社や自分の都合で「売ろうとしている」からです。それでは、人間心理として、お客様との関係が「財布のひもを緩めるかどうか」だけの対立関係になってしまうことが多いはずです。
現代は、モノがあふれている時代です。取り立ててモノを買いたいとは欲していないお客様に、自分たちが売上を上げたいので売ろうとする。これは、あまり良好なコミュニケーションとは言えないように思います。
同様の意味で、「安ければ買ってもらえるだろう」というスタンスも、もはや時代遅れになってきているかもしれません。
商品原価を下げてライバルより価格を安くし、広告をバンバン打って売上競争に勝つ。それで儲かるというのは、従来の大手企業の典型的なビジネスモデルです。
小さな会社やベンチャー企業は、そういう方法では通常、太刀打ちできません。そして、もし売上競争に勝ったとしても、利ザヤが薄く、宣伝コストがかかっているぶん、得られる利益は小さくなります。
場合によっては、売上競争に勝っても赤字になるということがありえます。通常、営業成績として最も重視されるのは売上です。ただし、売上を上げよう、つまり「稼ごう」とするほど儲からない場合があります。
これからの世の中では、従来のビジネスモデルがますます通用しなくなっていくように感じられます。だからこそ「売らずに売れ」などとも言われているのでしょう。
齊藤 欽也
歯科医師/ウィステリア製薬株式会社代表