今まで子ども用ハミガキ粉は存在しなかった?
子ども用のハミガキ粉はどこにも売っていない―。
そういう言い方をしたら、「近所のドラッグストアに行けば、アニメのキャラクターをあしらった子ども用のハミガキ粉がいくらでも売ってるじゃないか」と反論する人がいるかもしれません。
でも、それは本当に「子どものため」に作られたハミガキ粉でしょうか?
どんな商品でも、「子ども用」を謳うのであれば、子どもの心理や行動の特徴に合わせたものでなければならないはずです。
ところが、従来の子ども用ハミガキ粉は、大人のために作られたハミガキ粉を少しだけアレンジして、子ども向けにパッケージしたものに過ぎなかったのではないでしょうか。
従来のハミガキ粉は、歯みがき中に口の中が刺激でスースーしたり、歯みがきの後にうがいをしてきれいにハミガキ粉を吐き出したりしなければなりません。そういうハミガキ粉は、子どもの特徴に反してはいなかったでしょうか。
従来、子ども用のハミガキ粉とされてきたものは、本当に子どものことを考え、子どものために特化して作られたものではありませんでした。結論を言えば、これまで、本当に「子ども用のハミガキ粉」と言えるものは、どこにも売っていなかったのです。
そこに、私たちのビジネスの機会と、レッドオーシャンに乗り込んで渡り合えるチャンスが広がっていました。
レッドオーシャンの中にブルーオーシャンを見いだす
かくして私たちは、綿密にお客様の悩みを掘り下げてニーズを探り、子どものためのハミガキ粉を作ろうと方向性を定めました。
問題は、未知なる子ども用ハミガキ粉の市場性でした。
前述したように、既存のハミガキ粉市場は典型的なレッドオーシャン。莫大な資金力を持つ大手先行企業が複数しのぎを削っている「戦場」です。
私たちには伝統ある大手企業と渡り合う資金力も看板もありません。レッドオーシャンに果敢に斬り込んでも、簡単に売上を伸ばすことは難しいでしょう。従来の商品と大きく変わらないハミガキ粉なら、競合品がすでにたくさんあります。
私たちの子ども用ハミガキ粉は、従来のハミガキ粉と競争して果たして一定のシェアを獲得できるのでしょうか?
レッドオーシャンの対極概念である「ブルーオーシャン」とは、一般に競合相手のいない未開拓市場のことを指します。ブルーオーシャン戦略といえば、他社にはない独自の商品を開発して未開拓の市場に漕ぎ出し、成功の期待値を高めるという考え方です。ブルーオーシャンを切り開けば、当然、「オンリーワン企業」になれるのですが、ハミガキ粉市場にそんな余地があるのでしょうか?
そこが私たちの事業の成否を握る大きなカギでした。
もしも、一見レッドオーシャンに見えるハミガキ粉市場でも、これまで本当の「子ども用ハミガキ粉市場」がなかったとすれば、これから切り開くのはブルーオーシャンであり、私たちがオンリーワン企業となれる可能性があります。
よく「死中に活路を見いだす」と言いますが、レッドオーシャンの中にブルーオーシャンを築けるかどうかが、まさにその活路です。
大手企業との提携に潜む落とし穴
もちろん、新たなその市場が有望だと見ると、追随してくるライバル企業が必ず出現してきます。そのとき、いかにナンバーワン企業としての優位性を保ち続けるかが次の勝負になります。
大きな市場=儲かる市場で、小さなベンチャー企業がある程度のシェアを握ったとしましょう。それが、有望な市場であればあるほど、必ず競合他社が追随してきます。
特に、資本力のある大手企業がトップ企業を追い落とそうと動いてきたとき、先行したベンチャー企業はひとたまりもないように見えます。
その際、(現実的には難しいかもしれませんが)他の大手企業と手を組んで対抗するという選択肢が考えられるかもしれません。
しかし、それは中小零細企業にとって、ほぼ自殺行為です。仮に「自社+ある大手企業」の陣営が市場競争に勝ったとしても、自社の興した事業の主導権を奪われ、商品・サービスのコンセプトも骨抜きにされてしまう可能性が高いからです。
大手企業を悪者にするつもりはありませんが、私はかつて、新規参入してきた企業に起業チャンスをつぶされた経験があり、その失敗が身に染みています。
小さな会社がビジネスチャンスをモノにしたければ、「大手企業には真似できないビジネスモデル」を築いて、圧倒的に自社の優位を保たなければなりません。
そうでなければ、大手と提携して食い物にされるのを待つのではなく、さっさと成功した事業を売却してしまうことがむしろ得策になるでしょう。
私自身は、今の会社で絶対にオンリーワンの座を保持していく自信があります。それは、強い思いに基づく使命感があり、それゆえ大手企業には真似できないスピードと細やかさが発揮できるからです。
すべての答えはお客様が持っています。お客様の感情を揺さぶるオンリーワン企業になり、オンリーワンの商品をいかに提供するか。この点が、小さなベンチャー企業に共通する成功のカギではないかと思います。
齊藤 欽也
歯科医師/ウィステリア製薬株式会社代表