入居率が悪いのは「築古」が原因ではない
建物の状態もまた、高値売却の作戦を立てるに当たって軽視できない重要なポイントです。その状態は資産価値に直結するというよりは、前回述べた空室リスクを高める原因となります。
不動産オーナーによくある誤解が「築年数が古いからいけない」というもの。しかし入居が決まらないのは、築古が理由ではありません。建物の状態管理を間違えているからです。外壁などパッと見が良くなくても、満室の物件というのは意外とあるものです。内装がキレイ、家賃が安い、人気のある地域・・・こんな強みを持っていれば、築年数が問題にならない場面も多いのです。
経年劣化があっても、トータルで住みやすくお手頃であれば、豪勢な建物である必要はありません。建物がそこそこでも、安い家賃で住みたいというニーズもあります。
経年劣化というのは、築年数が経つことによって建物が傷んでくること。住宅設備は10年から15年で交換が必要です。外壁や屋上防水といった大規模修繕も必要になります。ここで差が付くのは、いかにリフォームにお金と手間をかけているかです。
一番問題があるのは、何もせず放っておくことです。銀行評価は築年数に重きが置かれますが、実際のところ、どれだけ手を入れているかによって、建物の寿命は大きく変わります。たとえ築10年の物件でも、ひどい状態のものはあります。パッと見は良いけれど内装は荒れ放題・・・これは前オーナーの管理がおざなりで、まったく手を入れていないためです。そのような物件に住みたいという人はなかなかいませんから、空室も埋まりません。それは売るときにもハンデとなります。
何も豪華である必要はないのです。ひとえに入居者が快適に居住する設備が整っているか、です。資産としての建物自体の維持もそうですが、快適に居住できるための状態を維持するためには、必ず手を入れていく必要があります。
不動産オーナーの中には、キャッシュアウトして物件に手出しができない状態の人もいます。手持ちのお金がなくなってしまい、本当はキレイにしなくてはいけないことをわかっていながらできないという状況です。できればそこまで行く前に手を打ちたいものです。
建物の状態を維持する取り組みを怠れば、その先に待っているのは空室地獄です。そしてそれは、物件が安く買い叩かれてしまうという恐ろしい未来と直結しています。
収支を考える際は、全体と個別の両方を見る必要がある
また、売却を検討するに当たり避けて通れないのが、収支バランスの見直しです。資産規模も事業の規模の大きいスーパー投資家ともなれば、常に売り状態、買い状態でスイッチを入れていて、ある程度のキャピタルが出れば機械的に売ります。しかしそれができる人は珍しいでしょう。
ほとんどの不動産オーナーは、所有した物件を短期で売ろうとはしないものです。金利交渉をしたり、借入の金融機関を代えたりしながら、赤字が出ていても何とか持ち続けたいと望む人がほとんどです。
それなりに運営できているなら、今の状況を改善しながら保有するのもよいでしょう。改善できないケースは、返済と収入のバランスが合っていない状態です。
そうなる前に、なるべく早く手を打つべきです。物件を複数所有している場合は、収支の良い物件が悪い物件をカバーしてくれます。つまりトータルのバランスから見れば、一見問題なく見えるのです。これは収支バランスの正確な把握を妨げます。
収支を考えるときは、全体と個別の両方を見る必要があります。ところが不動産オーナーは、確定申告のため全体でしか見ていないことが多いのです。もちろん単体での成績は把握していますが、知っていても全体でカバーしているから「まあ、いいか」と見過ごしてしまう人が多いのです。
自分の傷の深さは、なかなか自分では気付きにくいもの。しかし自らの投資状況を正しく把握し、問題が大きくなる前に対処しなくてはなりません。人体における健康診断と同じように、物件も定期的に診断すべきなのです。
確定申告ではトータルで黒字か赤字を判断しますが、収支は物件単体で見なければ危険です。一つひとつの物件の状況をせっかく計算しているのに、最終的には全体の収支優先になってしまうため、危機感を持たないオーナーが多いのです。
赤字が出ている物件については、損切りをいとわず、入れ替えを検討すべきです。そのためにも、物件単体ごとに収支を把握していく必要があります。