金融機関の動向を「思い込み」で判断するのは危険
今回は融資に関する事例を紹介します。A銀行から融資を引いている不動産オーナーで、藤村隆史郎さん(仮名)という方がいらっしゃいました。都内在住ですが、実家のある東海圏に新築アパートを所有しています。
A銀行は高利ですが、融資に積極的な地方銀行です。藤村さんは、友人の投資家からアドバイスを受けて、B銀行に借り換え相談を行いました。このB銀行は低金利ですが融資の姿勢が厳しく、不動産投資にはなかなか融資を出さない銀行でした。
しかし幸運なことに、物件を所有している地域がB銀行の営業エリアであり、かつ3期黒字で経営した実績やキャッシュフローに手を付けていないということで、B銀行で1%台半ばの金利で借りることができるという話になりました。
ところがA銀行も負けてはいません。今の金利を1%以上下げることで、B銀行に対抗してきました。結果的にA銀行に全額返済する手数料と、借り換えのコストを計算すると、A銀行とB銀行の金利が並びました。
藤村さんは、手間やこれまでの付き合いを考えて、A銀行でそのまま借りることにしました。
B銀行の担当者は、「うちへ借り換えてくれたら、都内への融資も可能です」という説明をしました。しかし藤村さんは、B銀行を地場のお堅い銀行と考えていました。そこでその申し出を、丁重にお断りすることにしました。
数年後、B銀行は今やA銀行を凌ぐほど、不動産投資に積極的な銀行となりました。逆にA銀行は、融資の基準を狭める傾向となっています。つまり藤村さんが物件を購入した時期と、借り換えを検討した時期、そして今で、まったく状況が変わってしまったのです。
「借り換えをせず、金利交渉をしたことは後悔していません。ですが今の状況を考えると、あのときにB銀行とお付き合いを開始していたら、今もっと融資への道が開けていたのかなあとも思います」
当時、B銀行がまさかここまで首都圏で融資を進めるとは、誰も思っていませんでした。藤村さんの判断は間違っていなかったと思いますが、やはり今の情勢を考えると、B銀行が取引銀行になっていればいろいろと有利だったことは確実でしょう。
ここでお伝えしたいのは、「B銀行はこうだ」という思い込みが、藤村さんの選択肢を狭めたということです。金融機関の動向を考えるに当たって、思い込みを持つことは極めて危険です。
繰り返しになりますが、融資の状況は刻一刻と変化していくもの。昨日まで融資に積極的だった銀行が、その翌日にはまったく貸してくれなくなることも起こり得ます。一方で、B銀行のように、ある日突然融資に積極的になることも起こるのです。
売却のタイミングを見極める際、金融機関の動向を調べることは非常に有効です。ですが、それが永続するものであると思い込まないほうが安全です。
「審査スピード」が速い銀行の特徴とは?
物件を購入するに当たり、重要なのはスピードです。審査が1週間以内で終わる金融機関は限られ、通常は1週間以上かかるのが一般的です。審査スピードの速い銀行が取り扱ってくれる物件のほうが、不動産会社から見て売りやすい側面があります。
審査が速い銀行というのは、収益物件に対する融資に積極的な銀行です。しかしそのような銀行ほど、融資に対する姿勢が頻繁に変わります。急に融資を閉じることも起こり得ます。
物件を売るときには、融資に対して積極的な銀行がたくさんあるときに売るのが得策です。逆に買い手の場合には、売るときの選択肢を狭めてしまいます。売り時を見極める際は、自分が買ったときの融資条件を取り扱っている銀行があるかどうか、注意してください。
金融機関にはそれぞれ基準がありますから、現実には誰でも借りられるわけではありません。やはり高属性の人が有利という風潮は継続しています。現状でいえば、年収1000万円以上の人たちに向けての融資の開き方は、尋常ではありません。
売却を考えるなら、金融機関の動向を常に注視していく必要があります。