安泰な老後生活を送るために「現在地」を知る
◆私たちの「貯蓄額」
書籍『毎月3万円で3000万円の「プライベート年金」をつくる 米国つみたて投資』の「まえがき」でもお伝えいたしましたが、本書は10~40年間という長期間つみたて投資をして、「ゴール」である約3000万円の資産をつくるための1冊です。
皆さんがゴールに向かう前に、「現在地」を知るための質問があります。
「今、いくら貯蓄がありますか?」
財布や通帳を見れば計算できますか? 本書を手に取られた方なら、やや心もとなく感じているかもしれません。人によっては、すでに投資をしていらっしゃる人もいるでしょう。
では次に、その「貯蓄額」を同世代の人たちと比較してみましょう。
一体、周りの人は、どれぐらい貯金をしているのか。これは誰もが気になる話題だと思います。とはいえ職場の隣に座っている人に「貯金、いくらある?」と聞くわけにはいきません。特に日本人は、お金の話をすること自体、どことなく卑しいことだと思い込んでいますから。
でも、大丈夫です。ちゃんとした統計データがありますから、それを参考にしてください。下記図表1は、金融広報中央委員会が毎年作成・発表している「家計の金融動向に関する世論調査」です。こちらの数値は、2017年11月に発表されたものです。
まず、年代別に平均貯蓄額がいくらあるのかを見てみましょう。ちなみにこの統計は「二人以上世帯」が調査対象になっています。
いかがですか。平均値が、自分が今、持っている貯蓄額よりも大きくて、ちょっと焦っていますか。
平均値の場合、統計の性質上、ごく少人数でも、非常に多くの貯蓄をしている人がいれば、その人の数字に引っ張られるので、どうしても高い方に出る傾向があります。
そこで、数字を並べた時、中央に位置する「中央値」を見てみましょう(下記図表2)。中央値の方が、その性質上、恐らく多くの人々の実感に近いでしょう。
平均値と比べると、かなり低くなることが分かります。これは、平均値の場合、前述したように、とびぬけて大きな金額に引っ張られる傾向があることを、雄弁に物語っているわけです。
確かに、年齢が上になるほど、貯蓄額は大きくなっていきますが、果たしてこれだけの資産で、老後も安泰な生活を送れるでしょうか。
退職金で「貯金額の不足分」を補えるのか?
◆期待できない退職金
先ほどの中央値で見ていくと、60代の貯蓄額が601万円となっていました。もし65歳で定年を迎えた時、これしか貯蓄がなかったら、老後の生活はどうでしょうか? かなり不安定になるでしょう。
でも、「貯金が少なくても、退職金があるから何とかなる」と思っていますか。
確かに退職金で賄(まかな)うという方法もありますが、では一体いくらの退職金が私たちに支給されるのでしょうか。
2000万円ぐらい?
答えは、人によりけりです。「2016年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」という、日本経済団体連合会が行った調査結果によると、大学卒業者の場合、勤続年数38年で、60歳の時に受け取った退職金の平均額は2374万2000円でした。これだけあれば、60代の貯蓄額が601万円でも、退職金と合わせて約3000万円の老後資金がつくれるから安心、でしょうか。
待ってください。本当にあなたが勤めている会社で、2000万円以上の退職金が支給されますか? そもそもこのデータは、日本経済団体連合会、つまり経団連加入企業が対象です。ようするにこれは大企業の平均値。
日本の場合、全体の97%以上が中小企業と言われています。では、中小企業の場合、退職金はいくらになるのか。
東京都産業労働局労働相談情報センターが行っている「中小企業の賃金・退職金事情(平成28年版)」によると、大学卒業者の平均額は1128万9000円でした。退職金の額は、企業規模によって大きく変わる傾向があるのです。
あなたの勤めている会社は、どちらですか? 大半の人にとって退職金の支給額は、2000万円オーバーではなく、1000万円前後と認識しておいた方が、後になって愕然とせずに済むでしょう。
もっと希望のない話をすると、退職金の額は年々減る傾向にあります。これは、大企業ばかりの経団連加入企業でもそうです。経団連加入企業の平均退職金を時系列で見ると、1992年の平均支給額は、大学卒業者の場合、2637万9000円でした。これが年々減少傾向をたどり、前述したように2016年の数字は、2374万2000円。24年間で263万7000円(約10%)も減った計算になります。最近は退職金制度をなくして、毎月の給料に退職金分を込みにしているケースもありますから、20年後、30年後には、「退職金? なにそれ?」と思われるような時代がくるかも知れません。いずれにしても、退職金にはあまり過大な期待をしない方が良い、ということになります。
太田 創
株式会社GCIアセット・マネジメント
エクゼクティブ・マネジャー(投資信託ビジネス担当)