集中投資で成功したバフェットが妻に告げた言葉とは?
◆バフェットも認めたS&P500
ウォーレン・バフェットという人物をご存じでしょうか。米国を代表する著名な投資家で、自分が代表を務める投資会社、バークシャー・ハサウェイを通じて、これまで幾度も伝説的な投資を行ってきました。
バフェットの投資スタイルは、将来有望な企業の株式をできるだけ割安な水準で購入し、長期的に保有し続けることによって、高いリターンを実現してきました。彼の言葉に「分散は無知に対するヘッジだ」というのがあるように、バフェット自身はさまざまな企業の株式に分散投資することなく、本当に有望な企業の株式に集中投資をして、それを成功に導き、アマゾンのジェフ・ベゾスやマイクロソフトのビル・ゲイツらとともに、世界トップクラスの大金持ちになりました。
とはいえ、そのバフェットも御年88歳(2018年現在)。そろそろ真剣に、自分が亡くなった後の遺族のことを考える時期になりました。バフェットは自分が亡くなった後の個人資産を引き継いだ人(基本的に妻)に対して、次のように言ったそうです。
「資産の90%はS&P500指数。残り10%は政府短期国債に投資せよ」
もともとインデックス投資(米国市場、日本市場など、市場全体に投資する手法)をしている人が、このように言っても説得力がありません。たとえば、インデックスファンドを考案した、米バンガード・グループの創業者であるジョン・ボーグル氏が、「私の遺産はS&P500指数で運用しろ」といっても、「まあ、そうだよな」と思う程度でしょう。
でも、それと同じことを、これまで集中投資によって運用資産を大きく増やしてきたウォーレン・バフェットが言ったとしたら、これは抜群の説得力を持ちます。あの、アクティブ運用(インデックス投資の反対である個別株を対象とした手法)の典型のような運用を何十年も行ってきた人が、妻への遺言として、「S&P500指数で運用しろ」と言ったわけですから、言葉の重みが全く異なります。
アクティブ運用で成功するためには、バフェットのような稀有な能力があって初めて成功するものであることを、他ならぬバフェット自身がよく分かっているのです。もっと言えば、「自分の妻は、少なくとも投資に関しては普通の能力の人間なので、アクティブ運用よりもインデックス運用の方が、将来にわたって無難に資産を増やしていけるはずだ」ということを、暗に言っているのです。
ニューヨーク・ダウも長期投資向きといえるが…
◆米国の3つの主要インデックスを比較してみた
さて、バフェットは「S&P500指数に投資しろ」と妻に遺言したわけですが、なぜS&Pなのでしょうか。他の米国インデックスであるニューヨーク・ダウやNASDAQ100(ナスダック)ではダメなのでしょうか。
この手の米国株価指標で最も有名なのは、やはりニューヨーク・ダウでしょう。でも、ニューヨーク・ダウは「工業株30種平均」と言うように、30銘柄で構成された株価指標です。本連載第9回で述べたように、米国株式市場では約5200銘柄(ニューヨーク証券取引所/ナスダック)の株式が上場されているのにもかかわらず、ニューヨーク・ダウはたったの30銘柄で構成されているのです(関連記事『アメリカ株式市場が「歴史的な暴落」から何度でも蘇るワケ』参照)。
もちろん、ニューヨーク・ダウは定期的に構成銘柄の見直しが行われ、その時々の経済情勢に合った指数の動きに近づけようとしてはいます。2018年6月に、ニューヨーク・ダウの構成銘柄からGE(ゼネラル・エレクトリック)が外れ、ニューヨーク・ダウの計算が始まった時から構成銘柄に含まれていた銘柄が、ついに全部なくなりました。その程度に、ニューヨーク・ダウは頻繁に銘柄を入れ替えているのです。言うなれば、ニューヨーク・ダウの銘柄委員会が運用しているアクティブ型のファンドのようなものです。
ただ、あれだけ大きな株式市場から、たったの30銘柄を選び、構成銘柄にするわけですから、ニューヨーク・ダウの値動きだけで、米国株式市場全体の値動きを反映していると考えて良いのかどうか?という問題が残ります。
この点、S&P500指数の場合、500銘柄を構成銘柄として指数を算出しますから、ニューヨーク・ダウに比べれば、より米国株式市場全体の値動きを反映すると考えられます。
では、NASDAQ100はどうでしょうか。こちらも米国を代表するインデックスのひとつで、NASDAQ市場に上場されている銘柄の時価総額上位100銘柄で構成されているものですが、あくまでも非金融部門の企業のみを対象にしたものなので、金融株は含まれていません。また、IT関連企業がかなり含まれており、IT関連企業の業績変動が激しいことから、NASDAQ100は、ニューヨーク・ダウやS&P500指数に比べて、値動きが激しくなる傾向が見られます。
30年と50年という長期の値動きについて、ニューヨーク・ダウとS&P500指数を比較してみましょう。すると、30年でも50年でもニューヨーク・ダウがやや優位です。とはいえ、基本的に両者の間に大差が開いているわけではありませんし、値動きのパターンもほぼ同じですから、正直なところを言えば、どちらを選ぶにしても、これはもう好き嫌いの問題かも知れません。
次に直近の値動きを比べてみましょう。2018年の1年間と年初来、そして過去10年の値動きです。
それによると、2018年の1年間ではニューヨーク・ダウが勝ち、過去10年ではS&P500指数が勝ち、という結果になりました。過去10年でS&P500指数がニューヨーク・ダウに勝っているといっても、かなり僅差です。逆に、過去1年間の差は、年間0.6%ポイント程度の差になっています。つまりニューヨーク・ダウとS&P500指数の差は、時間軸が短いほどイレギュラーな動きによって、比較的開きがちですが、時間の経過にともなって、徐々に似たような値動きに収斂(しゅうれん)されていくと思われます。
◆ダウよりS&P500が好まれる理由とは
これまでのことから私の結論として、長期投資をするならば、ニューヨーク・ダウでも、S&P500指数でも良いと考えているのですが、米国ではバフェットがいみじくも言ったように、S&P500指数の方が、高い人気を集めています。その理由は2つ考えられます。
ひとつは、30銘柄で構成されるニューヨーク・ダウに比べると、500銘柄で構成されるS&P500指数の方が、より分散が効くので、同じようなパフォーマンスなら、S&P500指数の方が幅広い銘柄に分散されている分だけ、リスクが低くなるはずだと考えられていること。
もうひとつは、ニューヨーク・ダウの場合、正式には「ダウ・ジョーンズ工業株30種平均」と言われるように、工業株が中心であることから、いくら銘柄の入替えをしたとしても、どうしても時代に遅れた工業株の一角が入ってしまう恐れがある、ということです。
では、NASDAQ100を加えて、リスク値やパフォーマンスを比較してみましょう。リスク値には30年間のヒストリカル・ボラティリティを、パフォーマンスには10年と15年のトータルリターンを用いています(ボラティリティ〈リスク値〉とは、株価の平均リターンに対する変動幅の大きさのことを言います)。まず、30年間のリスク値を比較すると、①NASDAQ100、②ニューヨーク・ダウ、③S&P500指数の順になります。
次にトータルリターンですが、10年間で見ると①NASDAQ100、②S&P500指数、③ニューヨーク・ダウの順になり、15年も同様に、①NASDAQ100、②S&P500指数、③ニューヨーク・ダウの順でした。
数字で見ると、過去10年間では次のようになります。いずれも年率換算のトータルリターンです(米ドルベース)。高い順番から見ると、
NASDAQ100・・・・・・15.5%
S&P500指数・・・・・・10.8%
ニューヨーク・ダウ・・・・・・10.3%
次に過去15年間です。
NASDAQ100・・・・・・12.7%
S&P500指数・・・・・・8.5%
ニューヨーク・ダウ・・・・・・8.4%
NASDAQ100は、やはりボラティリティが高いだけに、ニューヨーク・ダウやS&P500指数に比べて、トータルリターンは高めになりますが、ニューヨーク・ダウとS&P500指数については、ほぼ僅差でしかありません。これはあくまでも個人的な好みになりますが、大型株が好みならニューヨーク・ダウ、ハイテク好みならNASDAQ100という選択肢になり、最後の最後に究極的な選択として、選ぶのに困ったらS&P500指数にするのが良いのではないかと考えます。
太田 創
株式会社GCIアセット・マネジメント
投資信託事業グループ
執行役員
チーフ・マーケティング・オフィサー