2019年6月3日、金融庁は「人生100年時代」に備えた資産運用を促す報告書を発表しました。定年退職後、夫婦で約2000万円の金融資産が必要になること、そのためには公的年金だけを頼らず「早い時期からの資産形成」をすることの重要性が強調されており、世間では困惑の声もあがっています。はたして、これから約2000万円という金融資産をどのように形成すればいいのでしょうか? 書籍『毎月3万円で3000万円の「プライベート年金」をつくる 米国つみたて投資』(かんき出版)より一部を抜粋し、「米国つみたて投資」というひとつの解を紹介します。

ダラダラと悪い状態が続いた日経平均

◆日経平均よりもS&P500に投資したほうが良い数字的な根拠

 

米国の株式市場に投資した方が良いことを、数字で説明してみましょう。

 

下記に2つのグラフを載せました。これは「各月ローリングリターン(1年)騰落率(とうらくりつ)ヒストグラム」というもので、1989年12月から2018年12月までの各月に、米国株と日本株にそれぞれ投資して、1年間保有した場合の騰落(上がりと下がりの)率を示しています。

 

つまり、1988年12月から1989年12月までの1年間、1989年1月から1990年1月までの1年間、1990年2月から1991年2月までの1年間・・・というように、運用期間を1カ月ずつずらしていき、「1年間の株価の騰落率」を計算します(このように1カ月ごとにずらして、1年間のリターンを計算するやり方をローリングと言います)。ここでは、米国株については円建てのS&P500指数、日本株については日経平均株価を参考指標として用いました。ちなみに「S&P500指数」とは、米国の代表的な株価指数で、米国の代表的な500銘柄の株価を元に算出されるインデックスです。

 

 

ローリングの結果を下記に掲載しました。1989年12月から2018年12月までの29年間(データは足掛け過去30年間)ですので、29年×12カ月+1カ月ということで、全部で349本分のサンプルがあります。

 

 [図表1]S&P500指数 各月ローリングリターン(1年)騰落率ヒストグラム(1988/12~2018/12)円ベース 出所:各種データベースにより著者作成

[図表1]S&P500指数 各月ローリングリターン(1年)騰落率ヒストグラム
(1988/12~2018/12)円ベース
出所:各種データベースにより著者作成

 

[図表2]日経平均株価 各月ローリングリターン(1年)騰落率ヒストグラム(1988/12~2018/12) 出所:各種データベースにより著者作成
[図表2]日経平均株価 各月ローリングリターン(1年)騰落率ヒストグラム
(1988/12~2018/12)
出所:各種データベースにより著者作成

 

その349本のうち、たとえばS&P500指数だと、マイナス幅の大きい▲53.3%~▲48.3%の範囲には2本あることが分かります(2本とも2008年9月に発生したリーマンショックを挟んだ時のリターンです)。また、S&P500指数の場合、349本のサンプル中240本がプラスリターンを出しています。

 

プラスリターンで月数が最も多いのが+6.7%~+11.7%で42カ月。次いで1.7%~6.7%が41カ月でした。逆に、マイナスやマイナスに近いプラスになった月数では、▲3.3%~+1.7%が最も多くて29カ月でした。

 

一方、日経平均株価は、349本のサンプル中176本がプラスリターンでした。月数で最も多いのが、▲23.8%~▲18.8%の31カ月です。それに次いで▲3.8%〜+1.2%が28カ月、▲18.8%~▲13.8%が27カ月となっています。ちなみに日経平均株価でも▲48.5%~▲43.8%の範囲にある月もすべて2008年9月に発生したリーマンショックを挟んだ時の数字です。グラフを並べてみると分かるのですが、日経平均株価の場合、マイナス月の多さもさることながら、▲3.8%~+1.2%の範囲から、▲23.8%~▲18.8%のマイナス幅部分の本数が多めです。

 

これに対してS&P500指数を見ると、+1.7%~+76.7%の範囲が230カ月とプラスリターンに集中しているのが分かります。マイナス月もあるのですが、全体的にマイナスリターンの数が少なくなっています。つまり米国株式の場合、極端に成績が悪い月があったとしても、それは全体を通じてみると、かなりレアケースであるということです。対して日経平均株価の場合、極端に悪い月こそ少ないものの、かなり悪い月が満遍なくあるというイメージです。少なくともこの30年間の株式市場は、日本の場合、ダラダラと悪かったということです。

平均リターン「+9.5%」を記録した米国株式市場

下記図表は、S&P500と日経平均の各月を基準とした過去1年間の騰落率を平均した数字です。S&P500指数が+9.5%で、日経平均株価が+1.5%でした。ちなみにS&P500指数は円換算した数字なので、この間に生じた円高、円安も込みにしたリターンです。

 

[図表2]S&P500指数 各月ローリングリターン(1年)騰落率(1989/12~2018/12)円ベース 出所:各種データベースにより著者作成
[図表3]S&P500指数 各月ローリングリターン(1年)騰落率
(1989/12~2018/12)円ベース
出所:各種データベースにより著者作成

 

[図表3]日経平均株価 各月ローリングリターン(1年)騰落率(1989/12~2018/12) 出所:各種データベースにより著者作成
[図表4]日経平均株価 各月ローリングリターン(1年)騰落率
(1989/12~2018/12)
出所:各種データベースにより著者作成

 

為替リスクについては書籍『毎月3万円で3000万円の「プライベート年金」をつくる 米国つみたて投資』で述べていますが、この間には1ドル=70円台を付ける急激な円高局面がありました(一般的に円安ドル高の方が米国株の評価額は高くなります)。そうであるにもかかわらず、円ベースで9.5%という高いプラスのリターンを平均であげているのが、米国株式の凄いところです。

 

 

確かにリーマンショックの時のように、とんでもなくマイナスのリターンになることはあっても、それをしっかり取り戻しているので、このようなリターンが実現するのです。その根拠は、本連載第10回で述べたように株式資本主義の考え方が、一企業経営者から政治家に至るまで徹底的に認識されていることと、新しい企業がグローバルに活躍し、人口も増え続けているという米国経済のファンダメンタルズ(基礎力)の強さによるものです(関連記事『「国際分散投資」は時代遅れ?米国株式にだけ投資すべき理由』参照)。

 

過去30年間で各月を基準とした1年間の平均リターンが+1.5%の日本と、+9.5%の米国。どちらで運用するか、答えは明らかですね。

 

30年間の積立で3000万円を達成させるのに、年平均1.5%のリターンでは、月々の積立金額が6万5614円必要であるのに対して、年平均9.5%で運用出来れば、月々の積立金額は何と1万5252円で済んでしまいます(税金や各手数料を除く)。

 

もちろん、これは過去の実績による数字であり、将来を保証したものではありませんが、米国経済が極端に劣化しない限り、ここから大きく外れるような数字にはならないと考えています。

 

いかがですか。30年間で3000万円を達成するために、何に投資すれば良いのか、段々と見えてきたのではないでしょうか。繰り返しになりますが、皆さんが目標を達成するための投資先は、米国株以外に考えられないのです。

 

 

太田 創

株式会社GCIアセット・マネジメント

投資信託事業グループ

執行役員

チーフ・マーケティング・オフィサー

 

本連載は、2019年3月18日刊行の書籍『毎月3万円で3000万円の「プライベート年金」をつくる 米国つみたて投資』(かんき出版)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、著者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

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