「車社会」のため、駅からの距離はあまり考慮されない
◆アメリカで人気が出るエリア、出ないエリア
アメリカで中古住宅の価格を決める要因を見ていきます。言い方を変えると、どんな物件に人気が出るのかということです。土地面積や建物の大きさが同じだと仮定すると、日本なら、地域性(どの県のどの市区なのか)、駅からの距離、建物の築年数、状態、などの要素が大きいでしょう。
アメリカでも地域性は大きく影響します。不動産価格が平均的に高い州、低い州はありますし、同じ州でも、産業が伸び、人口が増える都市やエリアは平均以上に住宅価格が上がり、逆であれば価格は下がります。
また、都市によっても異なりますが、ダウンタウン(街の中心部)やそこに近いエリアほど価格が高くなり、周辺部に行くほど安くなる傾向にあります(そうではない場合もあります)。そこも日本と似ています。
ただし、一般的に渋滞は非常に嫌われます。たとえば、職場に行くまで、渋滞の道を20分かけて通勤する場所と、渋滞がない道を30分かけて通勤する場所があれば、10人のうち9人は後者を選ぶでしょう。
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私も、前職でソルトレイクシティに勤めていたときは、30分くらいかけて自動車通勤をしていました。好きな音楽をかけて、妻が入れてくれたコーヒーを飲みながら、渋滞のない道をのんびり運転するのはとてもリラックスできる時間で、通勤時間が楽しみだったくらいです。
一方、駅からの距離はあまり考慮されません。ニューヨークなどの“Walkability”(徒歩での利便性)が高い街は例外として、アメリカ人は近距離から中距離は、基本的に車で移動するからです。また、遠方に行く場合は、飛行機が利用されます。そのため、遠方への移動が多いビジネスパーソンなどは、駅よりも空港へのアクセスを重視します。
なお、建物の築年数や状態についての考え方は、本連載第6回に書いている通りです(関連記事『築100年の住宅も?アメリカの「中古住宅」が人気なワケ』参照)。
日本以上に「学歴社会」であるアメリカ
◆学校のレベルが学区の評価を決め、不動産の価値を大きく左右する
アメリカで住宅地の不動産価格を左右する大きな要素が公立学校の「学区」(School district)です。日本でも、住んでいる場所によって、どの公立学校に通えるのかが決まりますが、アメリカでも同様に、住所によって子どもの通学する学校が決められます。そして、この学区が不動産価格を大きく左右するのです。この点は、日本人にはピンとこないところでしょうから詳しくご説明します。
まず、話の前提として、アメリカは日本以上の学歴社会です。学歴によって、生涯年収や、ひいては社会の中で所属する階層が大きく変わります。ただし、日本の学歴社会とは、微妙に違っていて、どのような学位(Degree:高卒、学士、修士、博士、などの区分)で、どのような学校を卒業している人なら、どれくらいの教育を受けていて、どれくらいの知識があるだろうという風に見られるという意味合いがあります。学校の名前よりも、受けてきた教育内容や成績が重視されます。
そのため、アメリカでは、小学校から公立学校の評価ランキング(School rate)が公表されています。Greatschools.orgというWebサイトにアクセスして、住所や郵便番号を入れると、その地域の学校のランクがわかります。また、本連載第7回で紹介したZillowなどの不動産情報サイトでも、物件周辺の学校のランクは、必ず掲載されています(関連記事『米国不動産の中古物件価格が「適性水準」を維持しているワケ』参照)。
学校のランクは10段階で評価され、7以上がいわゆる「いい学校」で、9~10は超優秀校です。ランキングがいい学校は、より多くの予算が与えられ、設備も良く、教育内容も優れているので、子どもを持つ親はなんとかいい学校に子どもを入学させようとします。そこで、そういう学校がある学区は住みたい人が多くなり、人気が出るため、住宅価格も上がるのです。
日本でもそうでしょうが、ある程度所得が高い階層の方が、子どもの教育に熱心な傾向があります。そのため、ランクが高い学校がある学区には、所得が高い階層の住人が集まります。すると、コミュニティーの治安や雰囲気も自然に良くなるでしょう。
学区は教育レベルだけではなく、治安にも影響しているのです。そのことが付加価値となり、さらに不動産価格を押し上げます。不動産価格が高くなると、今度はそれを買える収入がある人たちだけが集まるため、一層、不動産価格が上がります。中長期的にはこのようなスパイラル現象が生じて、学校ランクの高い学区は、総合的に不動産価格が上がっていくのです。一方、ランクの低い学校が集まっている学区では、逆のスパイラルが生じて、不動産価格は低迷します。
学区は基本的に郵便番号に従って区分されます。道1本をはさんで、こちらとあちらで学区が異なっており、そのために、隣の地域なのに物件価格が2割も3割も違う、ということも決して珍しくないのです。
もちろん、学区だけでエリアの価値が決まるかと言えば、そんなことはありません。同じ学区でも、コミュニティーごとに差はあります。また、ファミリーではない単身者が家を買うなら、さほど学区を気にしないこともあるでしょう。しかし、学区がエリアの価値を決める大きなベースとなっていることは事実です。そのため、アメリカ人の不動産投資家は、不動産を購入する場合、学区のランクで基準を設けている場合が多いのです。
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例として、オープンハウスでは、物件の仕入れに際して、平均評価7以上の学校がある学区であることを基準にしています。
ところで、アメリカでも不動産を所有する人は固定資産税を支払わなければなりません。固定資産税の税率は州や郡によっても異なりますが、1.8~2.5%程度です。そして、固定資産税の半分近くは、その地域の学校予算に使われています。そのため、ランクが高く、設備のいい学校のある学区では固定資産税が高い傾向にあります。
いずれにしても、アメリカ不動産の固定資産税は日本よりも率が高く、しかも、わりとすぐに変更になることは、覚えておいた方がいいでしょう。
ブロドスキ・ザクリ
株式会社オープンハウス ウェルス・マネジメント事業部 エグゼクティブコンサルタント