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不動産契約で「礼金」というシステムがないアメリカ
日本では住宅の賃貸契約は通常2年単位ですが、アメリカの場合は1年単位です。管理にとくに問題がなければ、そこで更新をする入居者が多いのですが、逆にいうと、管理に問題があると1年で(あるいはそれを待たずに)さっさと出て行ってしまいます。
管理に問題がなければ、数回は契約更新となることが普通ですが、アメリカ人は引っ越しが好きなので、賃貸物件の平均的な入居期間は、3~4年ではないでしょうか。
ちなみに、アメリカでは引っ越しにかかる費用は、日本と比べて格段に安いのです。まず不動産契約の面では「礼金」というシステムがないので、一カ月分の家賃+一カ月分のデポジットがあれば引っ越せます。
また引っ越し作業についても、場所がそんなに遠くなければ、荷物を積める大きな車を持っている友だちに手伝ってもらったりして、自前でやるのが普通です。引っ越し費用が安いことも、アメリカ人が引っ越し好きな理由かもしれません。
なお、退去の際には、日本と同様の原状回復義務があります。しかし、アメリカ人はDIY好きなので、賃貸であっても、平気で釘を打ったり、ペンキで壁の色を塗り替えたりする人が多数派です。そのため、原状回復義務といっても、日本ほど細かいところまでは求められないのが普通です。
オーナーの方でも、釘の打ち跡くらいは残っていても、まあいいかと、直さずにそのまま次の入居者に貸すことはよくあります。
こういった、アメリカで求められる原状回復のレベル感も、やはり日本人オーナーにはつかみにくいところだと思われますので、現地管理会社との連絡を密にしながら、最適なレベル感のアドバイスしてもらった方がいいでしょう。
アメリカでは、更新時に値上げをするのが当たり前
アメリカでは、1年ごとの契約更新の際、賃料を値上げすることが普通です。値上げの方法には、基本的に二つのパターンがあり、ひとつは毎年◯ドル値上げするというように、金額ベースでの値上げがなされるもの、もうひとつは、◯%上げるというように、率で示されているものです。これには、物価上昇率を考慮する条項を入れる場合もあります。
そして、毎年家賃が上がることは、アメリカ人の感覚では当然のことです。アメリカの物価上昇率は2%前後で推移していますので、家賃が毎年1~2%程度上がっても、それが当たり前だと、一般的には思われます。
ただし、あまりにも家賃が上がりすぎると低所得層の不利益が大きくなりすぎるため、エリアによっては都市部でレントコントロール(家賃規制)が導入されているところもあります。
たとえばロサンゼルスでは、物件の条件はありますが、家賃値上げ率の上限が3%とされます。逆に言うと、レントコントロールが導入されているロサンゼルスでも毎年3%は家賃を上げてもいい、ということです。
物件を購入する際には、その都市でレントコントロールがあるかないかは、確認した方がいいでしょう。
アメリカでは必ず「クレジットスコア」チェックがある
現在のアメリカでは、賃貸物件の空室率は6%程度、稼働率は94%程度です。そのため、成長しているエリアで、きちんとリノベーションされた物件を購入し、適正な賃料を設定していれば、空室が長く続くことはまず考えられません。
そのため、オーナー側も「誰でもいいから入居してほしい」とは思わず、入居に際しての審査も、ある程度厳密に行われるのが普通です。
アメリカの入居審査で特徴的なのがクレジットスコアのチェックです。まず、前提としてアメリカはキャッシュレス社会であり、スーパーでの買い物、カフェでの食事、ガソリンスタンドなど、日常生活のあらゆる支払いを、クレジットカードまたはパーソナルチェック(小切手)でおこなうのが普通です。
パーソナルチェックの利用は昔に比べれば減り、大部分はクレジットカードになっていますが、まだ使われる場面もあります。現金はあまり使用されず、少額の買い物で100ドル紙幣を使うと、受け取りを拒否されることさえあります。
クレジットカードやパーソナルチェックでの支払いはカード会社や銀行に支払いの記録が残ります。その他、公共料金、家賃、医療費、ローン返済、学費、税金など、個人の金融上の記録がすべてまとめられ、「クレジットヒストリー(信用履歴)」として、クレジット・ビューロー(CreditBureau)という個人信用調査機関に保管されます。
クレジットヒストリーという名前から、よく日本人は、クレジットカードの使用履歴かと勘違いしますが、それも含めた、個人のすべての金融履歴です。クレジット・ビューローでは、記録されたクレジットヒストリーをチェックして、借入の比率や借入期間、返済履歴などによって、その人ごとに得点をつけます。これが「クレジットスコア」です。
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クレジットスコアは、極めて厳密なものであり、その人の「信用」を測るための指標として、アメリカでは広く利用されています。個人がローンを組む場合や、賃貸住宅を借りる場合は、必ずクレジットスコアがチェックされ、一定の点数未満だと融資が受けられなかったり、家が借りられなかったりします。
大企業に勤めている人が、家を借りられないことも…
日本では「年収いくら」とか勤務先といった情報だけで審査をしますが、いくら現在の年収が高くても、大企業に勤めていても、クレジットスコアが低ければ、アメリカでは家を借りることを断られる場合が多いのです。
しかし、デポジットを多く支払うといった交渉をして、入居が可能になることもあります。ここでもアメリカは交渉社会です。
賃貸物件の入居者を審査する際に、クレジットスコアの基準を高くすれば、いわゆる属性のよい入居者だけを選ぶことができますが、空室率は上がるでしょう。逆に基準を下げれば、入居が可能となる人は増えますが、入居者の質が落ちる可能性があります。
リーシングの最初の段階では、とりあえず管理会社に任せても、もし、入居率が悪い場合は、オーナーとして、その点の見直しを検討しても良いかもしれません。
ちなみに、私たちでこれまでに販売した物件の場合、その9割程度は、日本のお客様が購入して決済(所有権移転)をするタイミングで、すでに賃貸の入居者がいる状態です。また、残りの1割についても、決済直後には、ほぼすぐに入居者が決まります。
つまり、ほぼすべての物件で、入居者が付いた状態での販売となっており、オーナー様にとっては、初期段階での入居者付けの苦労は不要でした(もちろん、今後は状況が変わるかもしれません)。
家賃の滞納、テキサス州なら「約2カ月」で強制退去
日本は借主の権利保護が手厚く、家賃滞納トラブルなどが発生した場合、オーナーの負担がかなり大きくなっているようです。一方、アメリカでは貸主と借主は基本的に対等だと考えられ、法律上、借主が手厚く保護される、といったことはありません。
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そのため、借主が賃料の滞納をした場合の法的な対応、手続きなども、州によって内容は異なりますが、基本的に非常に明確で簡単です。
テキサス州では、まず家賃の未払いが10日間程度続いたら、入居者に強制退去申請に踏み切る旨の通知書(Eviction Notice)を郵便書留で送ります。その3日後に強制退去の申請(Eviction Petition)を治安判事裁判所(Justice Court:アメリカでもっとも下位の裁判所)に申し立てます。
治安判事裁判所では、最短で約2週間後に裁判の日を設定します。未払いという事実は明らかなので、通常オーナー(管理会社)側の勝訴判決となります。そして、その日から7日以内に、入居者は退去するか、上級裁判所に控訴しなければなりません。
控訴せず、かつ、7日が過ぎても立ち退かない場合は、WRIT(強制立ち退き)を、オーナーが裁判所に申し立てます。そして、最短で2週間程度の期間を経て、管理会社に郡の保安官から連絡が来て、強制立ち退き日をスケジューリングします。
普通の人であればその前に出て行きますが、最後まで粘ったとしても、強制立ち退き日には保安官に説得されて、追い出されます。なお、住居に私物が残っていたら、オーナー(管理会社)が片付けなければなりません。
以上のプロセスで、入居者が上級裁判所への控訴をしなければ、最初の滞納が始まった時点から、強制立ち退きまで、概ね二カ月程度です。(控訴をしても入居者が勝つ可能性はほぼ0%なので、通常控訴されることはありません。)つまり、運悪く滞納するテナントに当たってしまったとしても、滞納による被害は二カ月分程度で済むということです。
日本と比べれば、オーナーのダメージがはるかに少ないことは間違いありません。
ブロドスキ・ザクリ
株式会社オープンハウス ウェルス・マネジメント事業部 エグゼクティブコンサルタント