人材不足、医療機器の高額化、報酬引き下げ…
少子高齢化によって新たな患者が確保しにくい状況にある中で、医院経営は地方を中心に厳しさを増しているといいます。
しかし、都市部にあっても設備投資の失敗で倒産に至ってしまう医院は少なくありません。設備投資で事業を拡大、発展させていくためには、きちんとした利益計画を策定することが大切です。
帝国データバンクが調査した医療機関・老人福祉事業者の倒産動向調査によると2017年の医療法人、病院の倒産件数は25件となりました。前年は34件あったので9件も減少しています。この原因として考えられるのが、クリニックの数は増加して競争が激化する一方で、病床を多く持つ病院が減少しているということが挙げられます。
また、倒産に至る病院は地方で多い傾向にありますが、都市部であっても働き手である医師や看護師の不足問題、医療機器の高額化、将来の医療報酬、介護報酬の引き下げなどで、経営環境は厳しさを増しているのが現状です。
経営判断を迫られる設備投資、利益計画の策定が重要に
事業拡大には大きな設備投資を行うことが不可欠ですが、設備投資に失敗する病院も増えています。
経営破たんしたある地方の病院では、ベッド数は185床、救急、内科、外科、脳神経外科など多数の外来診療部門を有し、人間ドック、健康診断などのサービスも提供して収入を向上させていました。
しかし、見通しの立たない拡大をすることで、経営が立ち行かなくなってしまったのです。その病院は、健診サービスの拡大を目的に人間ドック、脳ドックのための最新設備を導入した医療施設を開設。投資資金を総額7億円にも上る借り入れで賄いました。
しかし、借り入れで投資資金を調達した結果、金利負担が増えただけでなく、高額な家賃、医療機器のリース代など固定費が大きく膨らみ、開業初年度から大幅な赤字を出してしまいました。既存の医療施設の利益を食いつぶして収益は圧迫され、さらに傘下に収めた医療法人の経営に失敗して、倒産の憂き目に遭ってしまいました。
また、想定外の人手不足で資金繰りが悪化する事例もあります。ある地方都市の医療施設は、人工透析の権威の理事長を抱え、地元で収入を着実に増やしていました。ところが最先端の人工透析治療や無痛分娩を実践できる医療センターの創設を画策。金融機関からの6億円の借り入れで、医療施設をつくったものの、人手不足から担当の医師が見つかりませんでした。開院を延期したところ、資金繰りが急激に悪化して、経営破たんに陥ってしまったのです。
この二つの破たん事例を見ていると、そもそも新しく始める事業に、きちんとした利益計画があったのかどうかが疑われるところです。最新の医療機器を導入することはいいとしても、果たしてそれに見合う健診需要があるのかどうかを調べてみる必要はあったでしょう。
もちろん、最新の医療機器を導入して健診や検診のサービスを提供するとなれば、周辺だけではなく、地域全体での競合分析も必要になります。
収益が軌道に乗るまでの余剰資金も確保することが大切です。昨今では医療関係者の人材不足が常態化しており、倒産した病院のように人手不足で開業ができないケースも少なくありません。このような時に借り入れで投資資金を全額調達すると自転車操業のような状態になってしまいます。
一つでもボタンをかけ間違えば即破たん、といったような計画では、実行しない方がましです。これは多くの病床を有する病院だけに限らず、クリニックでも言えることです。
このように大きな経営判断を迫られる設備投資では、きちんとした利益計画の策定がどうしても必要になるのです。
藤城 健作
ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長